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お仕置き①
「本当に辞めちゃおうのぉ?」
バイト最終日に、店長に呼びとめられた。
相変わらず年齢性別不詳の、姿。慣れてしまったけれど、最後ぐらい確認のために押し倒してみたい。
無理だろうけど。
「愛に生きると決めたんで」
「愛ねえ。まあ最初も花渡さんの気を引きたいだけでしたもんねえ」
「経営権も店長に譲っていいんだけど、手続きちゃんとしてよ」
元々、土御門家が経営していたらしいけど、じいちゃん以降誰も継ぐ気はないし、俺も普通の会社員に就職したいし。
もう一か月前から俺の名簿は店のホームページから消えていた。
元々特別枠で、VIP以外は相手してないし。
「そうだわ。最後に一人だけ一晩デートしてあげてくれない?」
給料を受け取った俺に、さも今思いついた様な嘘くさい声で引きとめた。
「最後?」
「どっかの会社の御曹司くんなんだけど、結婚する前に一度だけ、男の人と一晩を共にしたいって」
「えー。本番は?」
「ないわよぉ。貴方はVIP会員だけの特別なバイト君でしょ」
「……じゃあ、いいか。いいよ」
結婚する前に最後にって、なんかルイ君を思い出してしまった。
それなら、いいか。
「リョウさんよ。ホテルで一晩を希望されてるから、うちと提携してるホテルでいいわね」
「ここと提携って、それラブホだよね」
ルイ君との高級ホテルが懐かしい。
店長が相手に日にちや要望を聞こうと連絡し出したので、俺も近くのソファに座る。
すると携帯にメールと着信がきていた。
『花渡と駅前のBARで飲むよ。おいでおいで』
『吾妻さんが来ないと、暇さんの首を絞めてしまうかもしれませんよ』
「ありゃあ……」
最近、暇が人前でもべたべた花渡を触るから、花渡が迷惑してたんだよね。
ここからなら、駅二つだから間に合うなあ。
「ねえ、吾妻さん、今日大丈夫かって」
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