111 / 132

お仕置き⑦

「では、抱き抱えてその、VIPルームとやらに」 「えー、俺が?」 「はい」 甘えろと言われたので、甘えてみたら、暇さんは困ったような顔をした。 困ったような……ということは迷惑だったのだろうか。 私は未だに、人の気持ちを読むのが下手だ。 「えー、ちがう。落ち込まないで。普段、格好良いアンタを抱っこって、ギャップがヤバいっしょ」 苦笑しながら、残っていたカクテルを私の分まで飲みほして立ちあがった。 ……そうか。暇さんも私の感情が出ない顔から気持ちを読み取れるのか。 流石。 セックス以外で心を満たそうとする変わり者だ。 「何、なんでそんなまじまじ見てるの」 「いいえ。良い男だなった」 「ぜってー思ってねえ」 ゲラゲラ笑いつつ、私を軽々とお姫様だっこするとVIPルームへと運んでくれる。 普段苛めている相手に運ばれるのは、なるほど、確かに違和感があった。 空気が読める。社交的。仕事は確かに褒められるものではないけど、信念を持ってしっかりしている。 そして苦労しているのに、ちゃんと笑える。 カーテンを開けると、真っ赤な趣味の悪いソファが対になるように置かれていた。 私をそこに下ろした後、腕時計を外し、上着をテーブルに投げると、反対のソファに寝転んだ。 ――そして、踏み込んではいけない場所には決して入って来ない。 暇さんという相手は、本当に面白い。 セックスは駄目だけど、ギリギリの行為は感じてくれるし可愛らしい。 それは受け入れとめるけど、自分は守るので隠したい、そんな葛藤の現れなのかもしれない。 「なに? さっきから超俺を見るけど」 「暇さんという男を観察してます」 「……えーっと面白いの?」 「ええ。興味深いです」 健気すぎるその信念を、苛めてみたくなる。 ――はやく、はやく胸を焦がし心を鷲掴みにされ、私と吾妻さんが居なくても満たされる、そんな相手が来ればいいのに。 「交代しましょうか」 「交代?」 「今度は私が抱き締めて眠ってあげますよ」

ともだちにシェアしよう!