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お仕置き⑧
「いや、これ、俺が敷き布団とか、抱きつき枕みたい」
暇さんはクスクス笑いながら、不満とも言えない優しい文句を言いながら、抵抗はしなかった。
まるで、先ほどのカクテルに浮かんだ氷のよう。
音を立てて溶けていく。音は立てるけどカクテルにしみ込んでいく氷は美しく。
見た目で私を癒していく。
「暇さん……」
「何でしょうか、花渡さん」
おちゃらけた返事をする暇さんに、吾妻さんとは違う不思議な気持ちが芽生えて、自分でも戸惑う。
でも吾妻さんが大切なのは変わらないので、やはり私たちはこれが正解なのかもしれない・。
「私も、貴方のお気に入りの旅館に泊まってみたいです」
「えー、吾妻を100万で抱いてた時の、あそこね」
抱いていた、が大袈裟すぎておかしい。
本当は腰に抱きついていたくせに。
「もちろん、二人ならいいよ。ベッドも広いしね」
「そうですか。じゃあ、此処で寝ますね」
「え、話の前後は!? 脈絡なさすぎ!」
げらげら笑ったあと、髪を掻きあげた手を私の背中に置く。
この人は、本当はもっと上等な男なんだと思う。
上手に隠してはいるけれど、本当はもっと幸せになれた。
もっと、幸せになってほしかった。
生まれた環境と、周りの人物のせいで勿体ない人生だ。
――私よりきっと、幸せだったろうに。
「……花渡さん、花渡さん、何か怪しい玩具を俺に押し付けてませんか?」
「え、いえ。怪しい道具は吾妻さんに禁止を――あ、電話です。社長だ」
ポケットに入れっぱなしになっていた携帯を取り出し、暇さんの上で電話に出る。
私のマイペースな行動に苦笑いしていた。
「もしもし?」
『今出て来れるか? ラブホの駐車場なんだが、吾妻ってやつとターゲットがホテルから出てきた』
「……え?」
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