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怒ってるんだからね。④

Side:花渡 家に帰ろうと車を走らせていたら、道路を歩いているおばあさんが此方に手を振った。 「花渡さん、今から土御門さんに行こうと思ってたのよ。朝から楽しそうな声がしたので、野菜を持っていこうって畑によってね」 「はい……?」 車の窓を開けると、野菜の入った段ボールを渡された。 このおばあさんの畑も、土御門家から借りた土地らしく、挨拶したり野菜を下さったりと色々とお付き合いはあった。 と、今はソレは問題ではない。 「あの、うちの屋敷、賑やかでしたか?」 「いやあね。五月蠅かったわけじゃないのよ。楽しそうな、水遊びしてる男の子たちの声がしてね。土御門のお屋敷があんなに賑やかなのって久しぶりなのよお」 「……そ、うなんですか」 どうせ暇さんと吾妻さんが馬鹿をやってるのだとは思うけれど、そんなに騒がしかったのか。 「貴方は静かに土御門さんのお世話をしてたけど、式部ちゃんの足音とか大声で名前を呼ぶ声とか聞こえてきたら、なんだか私まで楽しかったのよ」 あんなにお世話になったのに、私は土御門御殿を賑やかにしてあげられなかった。 式部と並ぶとはっきりわかるほど、感情も表情も乏しい。 せっかく引き取っていただいたのに、静かなままだった。 「……私は、その時点で土御門さんの願う子どもにはなってさしあげられなかったんですね」 私を引き取って大学まで行かせて下さったのに。 誰からも忘れられても私だけは忘れない。 そう思っていたのに、私に忘れられても土御門さんはきっとショックじゃないのかもしれない。 「何を言っているの。亡くなるとき、貴方たち二人を残していくのが辛いって泣いてたでしょ。――貴方たちにこの土御門御殿を残したいって言ってたんじゃないの」 やあね、と豪快におばあさんは笑うと去っていく。 いつもそうだ。土御門さんの周りには、こんな風に優しく私たちに愛情を下さる方々ばかり。 『じいちゃんのモノだったんなら、アンタは俺のものだろ』 そんな生意気なことを言って、私に近づいてきた吾妻さんが、――きっとそんな愛に溢れた環境で珍しかったのかもしれない。 「お前らー! この屋敷に入ってくるなって言ってるだろー!」 ボーっと、おばあさんの言葉や吾妻さんの言葉を思い出していたら、屋敷から声がする。 式部の声だった。

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