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怒ってるんだからね。⑤

野菜を両手で抱えて、土御門の門に近づく。 すると、やはり庭で走り回っている吾妻さんと暇さんがいた。 二人はずぶぬれになって楽しそうだ。 「どうされたんですか?」 「やっべー、帰ってきた」 「花渡―、式部ちゃんマジ怖いよー」 二人に泣きつかれ、ちらりと式部を見る。 すると式部は庭の端からホースを伸ばして水を二人にかけていた。 「式部?」 「こいつら、居間で互いのちんこ舐めてたんだよ! 人の家で何してんだよ、キモい! 信じらんねー! まじ引く!」 激怒した式部が、二人をホースで追いまわしているらしい。 が、これは二人を援護してあげる要素がなかった。 「それは……申し訳ありません。躾けが行きとどかなくて」 「花渡ぃっ」 「私は野菜を台所に持って行きますので、二人は汚れを式部によく落してもらいなさい」 二人の悲鳴を聞きながら、なぜか私の心は躍るようで、足取りも軽かった。 二人のように騒げないし、式部のように土御門さんを喜ばすこともできないような、不器用で楽しくない男が私で。 その足りない部分が多すぎるので、私には吾妻さんと暇さんがいるのかもしれない。 「あーあ。まじびっくりした。男同士がちんこ舐めるとか」 台所に入ってきた式部が冷蔵庫から麦茶を取り出して、そのまま飲みつつ野菜を見る。 「わー、どれも美味そう。どうする? 天ぷらにしよっか」 「そうですね。では野菜を洗いましょう」 上着を脱いでエプロンをつけると、式部は少し沈黙した後隣に来た。 「どうしました?」 「兄貴って、馬鹿当主と恋人なんじゃねえのかなって思ってたんだけど」 気まずそうな言い方に思わず面食らう。 「え、あ、そうですよ」 「じゃあ暇と浮気じゃんか! あれ、いいの?」 兄が男と恋人だというのは、式部には今はどうでもいいらしい。 なるほど、だから式部は私の代わりに怒ってくれていたのか。

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