123 / 132
怒ってるんだからね。⑤
野菜を両手で抱えて、土御門の門に近づく。
すると、やはり庭で走り回っている吾妻さんと暇さんがいた。
二人はずぶぬれになって楽しそうだ。
「どうされたんですか?」
「やっべー、帰ってきた」
「花渡―、式部ちゃんマジ怖いよー」
二人に泣きつかれ、ちらりと式部を見る。
すると式部は庭の端からホースを伸ばして水を二人にかけていた。
「式部?」
「こいつら、居間で互いのちんこ舐めてたんだよ! 人の家で何してんだよ、キモい! 信じらんねー! まじ引く!」
激怒した式部が、二人をホースで追いまわしているらしい。
が、これは二人を援護してあげる要素がなかった。
「それは……申し訳ありません。躾けが行きとどかなくて」
「花渡ぃっ」
「私は野菜を台所に持って行きますので、二人は汚れを式部によく落してもらいなさい」
二人の悲鳴を聞きながら、なぜか私の心は躍るようで、足取りも軽かった。
二人のように騒げないし、式部のように土御門さんを喜ばすこともできないような、不器用で楽しくない男が私で。
その足りない部分が多すぎるので、私には吾妻さんと暇さんがいるのかもしれない。
「あーあ。まじびっくりした。男同士がちんこ舐めるとか」
台所に入ってきた式部が冷蔵庫から麦茶を取り出して、そのまま飲みつつ野菜を見る。
「わー、どれも美味そう。どうする? 天ぷらにしよっか」
「そうですね。では野菜を洗いましょう」
上着を脱いでエプロンをつけると、式部は少し沈黙した後隣に来た。
「どうしました?」
「兄貴って、馬鹿当主と恋人なんじゃねえのかなって思ってたんだけど」
気まずそうな言い方に思わず面食らう。
「え、あ、そうですよ」
「じゃあ暇と浮気じゃんか! あれ、いいの?」
兄が男と恋人だというのは、式部には今はどうでもいいらしい。
なるほど、だから式部は私の代わりに怒ってくれていたのか。
ともだちにシェアしよう!