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怒ってるんだからね。⑦
「何をそんなに笑ってたんだよ」
吾妻さんが、ちょっぴり拗ねたように唇を尖らせた。
可愛らしい。今すぐ駆け寄って口づけしたいぐらい可愛らしい唇だと、素直に思える。
昨日は口淫であんなに乱れて色っぽくて、可愛かったのに。
どちらかといえば、こちらの吾妻さんのほうが可愛いです。
「式部がお嫁に行く日を考えてたんです」
「は? 結婚できるの」
それは失礼です。式部はどこに嫁いでも恥ずかしくないほどの自慢の妹です。
「式部がお嫁に行くまで、土御門でセックスは禁止ってことです」
ふふっと笑うと、暇さんがすかさず写メを取ったので、今度は式部が遠慮なく大根で頭を叩いていた。
「まじで? 俺はいいよね。ちゃんと花渡の部屋で声を殺して、抑えるからーね?」
会話は小学生みたいで、性欲は好奇心と同じくらい旺盛。
なのに、私を見上げる甘えた顔は極上だと、愛おしく見る。
「見つからないってイコール、やってないってこと、ですからね」
「花渡」
抱きつこうと台所へ入って来ようとした吾妻さんの足を、ぴしゃりと指差す。
「お風呂、です」
「なんだよ、けち」
「あとで二人で縛ってやろう」
「そうする」
二人がにやにやと笑いながら風呂場へ駈け出す。
その後ろ姿を見ながら、それがなにより私を笑わせているのだと二人は知らない。
「兄貴がいいなら、いいんだけど、あいつらはなあ」
式部も苦笑しながら、油に箸を突っ込み温度を調整する。
式部も、口調は荒いけれど料理も洗濯もでき、頭の回転も速い上に顔も綺麗だと兄である自分でも高い評価をしている。
どこか金持ちで優しく、幸せにしてくれる人に出会うのを願うばかりだ。
性別も関係ないので、大切な人を。
「さて。私はかき揚げを作りましょかね」
ボウルを出しながら、風呂場から聞こえる二人の子どもみたいな声に幸せを感じていた。
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