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エピローグ②
Side:青桐 暇
最近、仕事中の持続時間が短くなった気がする。
なんていうか、仕事だからって頑張って起たせていたんだけど、歳かな。
30歳まで、この仕事を続けて行くのはきっと無理だ。
そんな話を、兄貴と煙草を吸いながらキッチンでした。
「だったら、うちの会社に来ればいいだろ」
「は。いいよ。迷惑かけるし」
九州で息を引き取った祖父さんのゴタゴタは、弁護士を入れていても完全に終わることはねえだろう。
兄貴には可愛い恋人がいる。穏やかな時間を過ごしてほしい。
俺が居たら会社に迷惑がかかるかもしれないじゃん。
「問題ない。さっさと辞めてこい。いきなり幹部にしてやる」
「う、うわー。職権乱用ぅー」
と言いつつ、なんだか擽ったい。なんで兄貴ってこんな優しいんだろう。
「ごちゃごちゃうるせえな。無理やり辞めさせるぞ」
「……やっぱ義理でも弟がゲイ男優は嫌だよな」
「お前の生き方だから好きにすればいいだろ。兄として、身体の心配をしてやってんだ」
チョップされて、その痛みに嬉し涙が出そうだった。
「あのさ、内緒なんだけど」
「なんだ?」
「いつか、死ぬ前に一回ぐらいは、好きで好きでたまらないからセックスしてみたいなって最近夢見ちゃうことがあるんだよね」
「……すればいいと思うぞ」
兄貴が一瞬だけ言葉を詰まらせたのは、見逃せなかった。
「したいんだけど、超ハードルたけえ」
兄貴は兄貴で、巨根だから相手が可哀想だって躊躇してたけどそれはそれで可愛い。
可愛いけど本人には深刻な悩みなんだよね。
「俺、今さ、セックスしなくても一緒にいてくれる大事な二人がいるんだよね」
「……花渡か」
兄貴にさえばれてしまってるのか。
式部ちゃんにもばれてたし、隠す必要ないのかなって思う。
「まあ、内緒だよ。エロい事までは出来るんだけどセックスできないんだ。なんでか分かる?」
一本目の煙草を、灰皿へ押し付けると、兄貴は二本目を口に咥える。
俺の質問には答えないつもりのようだ。
「胸を焦がすような、甘い痛みをくれるから。俺はそれで十分なんだよね」
甘酸っぱく広がる気持ち。
一番じゃない安心感。
二人のラブラブっぷりを見て寂しくなる時もあるんだけど、そんな時は二人して振り返って俺に手を差し出す感じ。
満たされる。
俺が居てもいいと、二人が手を差し出す。
それは恋愛感情では表現するのは難しいかもしれないけど、確かに二人からの愛。
それなのに、いつか二人みたいな相手とセックスしたいと思ってしまうのは、二人のおかげなのかな。
その日が、来なくても良い。むしろ来なくて良い。
でもそう思えるような気持ちをくれた二人に、俺は感謝してもしきれない。
「兄貴、今度隣同士のベッドでお互い見せあいしようよ」
「何をだ」
「愛あるセックス」
俺がにやりと答えると、思いっきり尻を蹴られたのは言うまでもない。
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