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エピローグ④
「とりあえず、もうここでイチャイチャしていたら、式部が包丁持って追いかけてきそうなので自重致しましょう」
「了解です」
「あ、じゃあ、あっち行こうか」
暇さんが人差し指を立てて提案する。
「どこ?」
「俺の心を癒す別荘。丘の上にある洋館なんだけど」
「ああ、俺を一回100万で買ってたときの秘密基地ね。行く」
布団から出てきた吾妻さんが私に抱きつく。
「花渡はまだ行ったことなかったよな。行こう。すげえの。水の中みたい」
「仕方ありませんね。行きましょう」
「仕事はー?」
暇さんがにやにや笑うけれど、私は箪笥から浴衣を何枚が出しながら、不敵に笑う。
「普段疎かにしておりませんので、こんな時はまとめて休めるんですよ」
「やっり。花渡格好良い!」
「キャー抱いて」
「二人も早く着替えて準備してください」
にやにやと笑っている二人の横で三人分の用意をしつつ、気持ちは弾んでいるのだから現金だった。
暇さんの隠れ家までは、土御門御殿から数時間離れた、山の中だった。
思えば、社長の出張以外で私は土御門御殿から離れたことはなかったように思える。
こんなに離れた場所まで、よもやこの二人と来るとは思わなんだ。
「着いたよー。俺、受付してくるからそこで待ってて」
静かで都会の雑音をシャットアウトするような丘の上にあるクラシックホテル。
入ってすぐに大きな階段があり、踊り場には色とりどりの花が描かれた絵画が飾られている。
少し薄暗い館内に、踊り場の窓から映える空は綺麗だった。
本当にここは、私の住んでいる世界なのか、違う世界に
まるで夜の海を泳ぐ花畑のようで、異質な空間だった。
「ここ、実は俺、5年契約で借りてるの。だから俺ら以外は誰も泊まったことないんだよ」
「へー、すっげえ!」
通された部屋は、高級なホテルのスイートルームには及ばないが、古臭さはあるもののセンスも悪くなく落ちついた家具に、ベッド。
雰囲気が、いつもの暇さんとは正反対な場所だと感じた。
部屋は、壁一面に絵画が飾られている。
天井には窓がついていて、水中を照らす光のように、日差しが落ちてくる。
少し薄暗い部屋の中を、淡い光がステージライトの様に落ちてくる。
それに加え、天井の窓まで届くほど海の絵が飾られている。
「暇さんは、海がお好きなのですか?」
「んーん。ただ昔、親の事とか色々教えてもらった時凹んでさ。したら、アクアリウムセラピーを教えられて、実行したってわけよ」
「熱帯魚を育てるってことですか?」
「魚を見て癒されるってこと。綺麗じゃん、この部屋」
「そう、ですか」
この部屋を買い取るよりもアクアリウムの方が簡単だと思うのですか、魚でさえ家に入れたくない暇さんの信念は流石だと感心に値します。
「海の中に落された鳥かごみたいな、ベットですね」
クラゲが泳ぐ絵画の下に、鳥かごの様なベッドが置かれている。
柵が深くて、しかもベッドも丸い半円型。
「そ。鍵はないけど、三人で鳥かごの中に閉じこもっちゃおうよ」
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