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エピローグ⑤

暇さんは早速服を脱ぎだし、その服がぽつぽつと床に落ちていく。 それを拾おうとして、手を止める。 ヘンゼルとグレーテルを思い出して、そのままにしておかなければ帰れないような気がして、止めた。 戻れなくてもいいと思いつつも、何か残しておかないと不安だった。 「あ、まじかよ! こら、ベッドでお菓子とかやめろよ!」 ベッドの中心に、スーパーのビニール袋をひっくり返している吾妻さんを見て、暇さんが悲鳴を上げている 「えー、俺さあ、暇には言わなかったけど、毎回、腹減ってたんだよね」 「腹減ってたとか言うなよー。一階に海を見下ろすレストランあるんだから」 「男三人で、そのレストランでメシ喰うの? ウケる!」 「ここは俺の部屋だから、飲食禁止!」 「けちー。花渡―!」 吾妻さんが私の顔を見ながら甘えて抱きついてくる。 「ベランダにテーブルを出して、そこで食べればいいでしょ」 「うー。まじかよ。ベランダじゃ服着なきゃじゃん」 文句を言いつつも、お菓子を袋に戻してテーブルに置く。 「それよりさあ、海の絵をまた四枚買ったから、どこかに飾りたいわけよ。それまで先に二人でイチャイチャしてていいよ」 暇さんが部屋の隅に置いてあった縁をひっくり返すと、油絵で海の中を描いてる作品や、CG加工してある絵画が並べられる。 壁は既に目立つところはほとんど飾られているのに、暇さんは天井と絵を交互に見ながら置く場所を探しているようだ。 「どうしましょうか。イチャイチャしたほうがいいですか」 「もちろんだよ。俺が花渡の服脱がすから」 ベッドに私ごと倒れ込んだ吾妻さんが、私の背中から這い出てお腹の上に抱きつく。 「俺、スーツ着て弁護士やってて、ストイックなふりしてる花渡の服を乱すの、超好き」 ストイックなフリ、と言われても困惑する。 普段から欲求不満そうな顔をしていたら、ただの変態ではないだろうか。 「あー、わかる。あのスーツの下が、意外と筋肉質でエッロエロだって知って興奮するよな」 全然理解できないし、興奮はしない。 二人が自分の上で盛り上がっているので、ただただ流されるまま上を見上げる。 二人の楽しそうな顔の上で、魚が泳いでいるのは不思議だった。 壁一面、様々なタッチの魚が泳いでいる。 「……二人はここでよくもまあ、エロい事をしようと思えますね」 天井を指差す。 すると二人も上を見上げた。 「うーん。俺はここは心を癒すところだからなあ」 さっきまで私の服を脱がすのを興奮するとか言っていた暇さんが隣に寝ると、同じく上を見上げた。

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