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エピローグ⑥

「なんだよ、俺は二人より若いんだから、どこに居ても好きな人と一緒なら繋がりたいし」 吾妻さんも文句を言いつつも私と暇さんの間に割り込んで寝ころぶと、上を見上げた。 暇さんが集めて、捕まえて、この水槽に離した魚たちが、太陽の光に揺られまるで水面に触れている魚たちの様に輝く。 それを三人で見ていたら、暇さんが急に吾妻さんの腰まで下がって抱き締めだした。 「……エロい気持ちにはならないし、落ちつくんだけど、ちょっとだけ人肌に触れたくなるんだよな」 伸ばされた腕が腰に絡む。 それを嫌がりもせずに吾妻さんは手を添える。 「俺は、二人より恵まれてるし、分かり合いたいって思っても気付いてやれない気持ちが多いかもしれないけど、それでも、――二人が好きだよ」 フッと小さく笑ったあと、私の顔に近づき頬に口づけた。 その顔はちょっと誇らしげで、思わず笑ってしまいそうになる。 「俺の将来の夢は、花渡のお嫁さんで、ペットに暇を飼うこと、かな」 「俺はペットかよ」 「ペットだよん。だって本番セックス一回もさせてくれないままだし」 「俺は男優だぞ。プライベートでもエッチするかよ」 二人が子犬の様に騒ぐ中、私も何か言おうと考えて口を開く。 「私で良ければ、抱いてさしあげますが?」 しいんっと、水を打ったように静まり返り本当に海の中の様だ。 静けさが広がった中、暇さんと吾妻さんの顔が真っ赤になる。 「やべ。俺、今ちょっと揺らいだ」 「分かる。俺の花渡、まじ反則。抱いてもらえば?」 「別に私は、暇さん抱けますよ?」 二人が鼻を押さえて頷いているので、少し首を傾げる。 「いや、お気持ちだけで大丈夫ですから。ほんと、ね」 「暇縛っちゃおうか? ローション三本持って来たし、やっちゃう?」 「いやん、いやん」 立ち上がって走り出そうとした暇さんの手首を、吾妻さんが掴む。 するとベッドの上で倒れ込んだ暇さんが、私の上を這いながら、くるくるとベッドの上を逃げ出す。 「ちょっと、地味に踏まれてて痛いんですが」 「あはは。冷静」 吾妻さんが私の手を取り、起こす。 そしてそのまま立ち上がらせる。 そういえば……ベッドの上に立ち上がる行為も初めての経験です。 三人の空間だから、でしょうか。 別に私は、二人が良いならこのままセックスしても良かったのですが、二人は子どもの様にはしゃいで、テーブルをベランダに出すと食事を並べ出した。 ワイングラスまで取り出して、わざわざルームサービスで出来たてのご飯を用意する。 ワインにビールにカクテル、そして甘酒。 おつまみに、お肉に、パンにスープに。 気付いた時には、部屋中あちこちに二人の痕跡が残っていました。 何故二人とも下着を床に落すのか。 なぜベッドで食べるの禁止と言いながら、ピーナッツやチーズの袋が落ちているのか。 どうして起きたら、二人とも私の手をにぎりしめているのか。 全く理解に苦しむ。 けれど愛おしくて堪らない。

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