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第5話

「明日は大樹くんが来るんでしょう。今日だったら一緒にすき焼きが食べられたのに明日は年越しそばだけになっちゃいますよ」  お母さんはそう言うと椅子に座って肉を焼き始めた。俺は美味しいものを一緒に食べるために大樹に会いたいんじゃなくて年越しをしたいんだ。別にいいよと答える。肉がジュウジュウ焼けるとお母さんはすき焼きのたれを鍋に注ぎ入れる。甘辛い匂いがして唾液が溢れた。お父さんは何時も晩酌をするのに今日はしないらしい。年末の忘年会で飲み過ぎて胃が疲れているんだという。じゃあ、お正月は飲めないねって言ったら、お父さんは、それは別だよと言って笑った。  大晦日の当日になった。空は灰色で今にも雪が降ってきそうだ。リリアンちゃんからラインが来ていて日本の雪は初めてだという。そういえば去年は雪が積もらなかった。俺は自転車なので雪は大敵だ。アルバイトは雪だって休めないと思うから、歩いて30分ぐらい掛けて行かなければいけない。そんな事を考えていたらお父さんが雪が降る前に庭の掃除だけでも済ませておきたいのだと言う。我が家の庭は狭いがフラワースタンドが並んでいてお母さんが花を大事に育てている。

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