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先手必勝というけれど
『勝負しよ』と言われた翌日。
昨日提案されたそれに俺は不本意だが乗った…というか乗るしかなかった。
司が立てたルールに早くも泣き言を零しそうな俺は月曜の朝並みに憂鬱な朝を迎える。
楽しい楽しい土曜なのに何でこんなに落ち込まないといけないんだよ。
ちなみにルールは全部で3つ。
①期限は今日から30日間。
②口説くのは俺の部屋で二人っきりの時だけ。過度なスキンシップはNG。嫌がることはしない。
③司はルールを破ったら負け。俺は司に惚れたら負け。
俺はこのルールを聞いて『どこの夢小説だよ・・・』と頭が痛くなった。
対する司は『30日後にはオレ無しでいられないようにするんで』と怖いくらい意気込んでいた。
どこのスパダリだよ。超怖い。
ゲーマーの俺だって自分にとって勝ち目やメリットのないゲームには乗らないが、絶対受け入れるまで引いてくれないだろうと思い渋々受け入れるしかなかった。
しかし、この30日間に声かければきっと司はホイホイ誘いに乗ってくれて、なんやかんやゲームの協力をしてくれるはずだし。
あと『コウさんが勝ったらゲームの協力プレイでも買い出しでも何回でもずっと飽きるまで付き合いますよ。どーです?使い勝手の良いパシリ、欲しくないすか?』と好条件を出してくれた。
重度のオタゲーマーにとって協力プレイは魅力的案件過ぎた。
デイリークエもさっさと終えられるし、行ける範囲もぐっと増える。
まあ短くないけど、仕事とゲームしてたら1ヶ月なんてあっという間だろう。
ソシャゲの新規アプデもあるし。
そんな事を考えながら布団の心地よいぬくもりにまだ包まれたくて身体を丸める。
しかし脚が意思に反して動かない。
というかなんか挟まれてる気がする。
ぼんやりと目を開けると、目と鼻の先に綺麗なサファイアの瞳があった。
「おはよう、コウさん」
「ひぇっ!?」
悲鳴を上げて突き飛ばす。が、貧弱な俺の力ではびくともせず、逆に距離を埋めるように腕の中に閉じ込められた。
「コウさんの寝顔、無防備で可愛いな」
「寝てる間も防御出来るか!あと男の布団に潜り込んで添い寝してるお前はかなりヤバい!」
「甘くていい匂いする。どこの香水?それともコウさんの?オレその匂い好きだわ」
「話を聞け!離れろ変態!!」
スンスンと首筋に鼻先を近付けて嗅いでくる変態をぐいっと押し退ける。
幸せそうに頬を緩ませるその顔に1発入れようかと思ったがぐっと堪える。
「まずなんでいるの!?」
「覚えてない?昨日コウさんからあんなに誘ってきたのに…?」
「いかがわしい言い方すんな!はよ答えろ!」
「寝落ち寸前のコウさんをベッドに運んだら離してくれなくて、オレも疲れてたから寝た。どうせ今日も1日ゲームやるだろ?飯作ったから食べよ」
司は俺の髪をとかしたり撫でたりしながら整える。
優しく地肌を撫でる指先に、温かな体温に欠伸が漏れそうになる。
…っておい、流されるな俺。しっかりしろ。
「今、言ったな?今日もとことん付き合わせるから覚悟しろよ?」
俺は不機嫌を前面に出しながら、暖かいベッドからローテーブルの前に移動する。
司はキッチンへ行くと具たくさんのコンソメスープと、トマトケチャップの赤が綺麗に映えたオムライスをテーブルに運んでくれた。
美味しそうな見た目と香りに食欲をそそられる。
眠気覚ましに紅茶まで淹れてくれるとか完璧すぎる。
俺はいただきます。とスプーンを早速手に取り口に運ぶ。
「っ!うまっ!」
ケチャップの酸味がとろりとした卵の優しさで中和される。バターやマヨネーズをいれたのかぷるぷるの卵にコクを感じる。
一緒に食べたチキンライスも噛む度にじゅわりと幸せの味が口いっぱいに広がり、思わず頬が緩む。
「コウさん、頬張りすぎ。そんなにがっつかなくても誰も取んねぇから」
司が俺の方に手を伸ばして口の端についていたソースを指の腹で拭う。
「ついてた。子供みてぇ」
そして司はその指をぺろりと舐める。
「行儀悪っ!キモっ!」
「行儀悪いだけは今のアンタに言われたくねぇ」
「大体子供相手にそんな事するな」
「悪い。子供じゃなかったな」
ニヤリとした整った顔を近付けられる。
「食べ方があんま綺麗じゃない、オレの可愛い好きな人だった」
司の周りにぶわっと花が舞うようなエフェクトが見えた気がした。
甘っっ!!何言ってんのコイツ?
あと俺の不満はそこじゃねぇよ!!
どこからつっこめばいいか分からない俺は固まることしか出来ない。
「でもオレの手料理、コウさん好みの味っしょ?付き合えばいつでも好きな時に食えるし、なんなら夜食とかゲームのお供につまみも作るよ?どう?かなり優良物件じゃね?」
「は?手作り?買ってきたとかじゃなく?」
「うん、オレが作った。愛も込めてる」
「お前料理も出来るとかどんだけチートなの?これからは飯だけ作って置いてくれると嬉しい」
「それオレに対してメリット無くね?」
「ありがとう、司くん。俺、すごく嬉しい!」
「外面用の笑顔浮かべるのやめてくんね?」
「注文が多い料理店かよ。しょうがないからゲームのお供の権利を授けよう」
「それいつも…いいよ、今はそれで。絶対攻略してやっけど」
俺はオムライスとコンソメスープを綺麗に平らげると、すぐにゲームを起動させる。
朝からしっかり食べたからか身体が温かいし、頭がしゃきっと目覚めた気がする。
「りょ。じゃあ俺、紙装備でいくからよろ〜」
御手並み拝見、と唯一の取り柄の顔面を総動員させてコントローラー片手にウインクを飛ばす。
「そっちじゃねぇよ…って弱っ!コウさんまじ装備クソじゃんか!」
「クソって言うな!クソだけど!」
「アンタも言ってんじゃんかよ!」
司は深い溜息を吐きながらそれでも俺に付き合ってくれるのだった。
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