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第33話 甘いものはお好きですか?

「質問です」 「……はい」  ベッドの上で正座をして、凛々しい表情で、そんなことを言う。 「あの! 保さん!」  生足出したまま、たぶん、ノーパンで。  慶登が食い入るように見つめながら前のめりになった。この体勢だとむしろ背後にいたほうが楽しそうだなぁ。あと、やっぱりノーパン? なんて不埒なことを考えながら、キリリとした表情の慶登にニコリと微笑んで。 「どうかした?」  そう返事をする。  おうちデート。ご近所のスーパーマーケットは、ちょっと目撃されることを避けたいため、散歩を兼ねた遠くの場所へ。  この人とだと夕飯の食材調達すら楽しいんだ。今日は、大特価、値引きになっていたアサリを買おうか、しじみを買おうか、貝たちが恐れおののくくらいの真剣顔で選んでた。あと、ワイン飲みたいって言ったら、大人だと褒められたっけ。長ネギをビニールから覗かせて歩く姿がなんか家庭科調理実習をする学生っぽくて可愛かった。ダッフルコートを着ると本当にあどけなくなるから。絶対に同僚だとは思われない気がするって言ったら、ちょっと拗ねてたっけ。  そんなふうに帰ってきてから、鍋囲んで、鍋から立ち込める湯気に眼鏡を真っ白に曇らせる定番ドジッ子ぶりにまた笑ってた。  風呂に入って、さぁ今から、いたしましょうっていうタイミング。今日は俺のうちだからと、計算尽くめの萌え袖必須になる着替えを渡した。  先に風呂に入ったこの人はベッドの上で、少し居眠りしてた。ダッボダボサイズの服から肩が見えそうな隙だらけの寝顔に、寝たままのこの人に襲い掛かりたいとか思ったりもしたけど。  そこは、ほら、この人だから。  可笑しな声を上げたかと思ったら飛び起きて、「気配を感じました!」とか言う。  もうさ、そこでもまた笑って。  笑ったまま、俺もベッドへ。 「突然ですが! 甘いものはお好きですか?」  本当に突然。この、これから致しますってタイミングでの、空気をばっさり切るような質問。 「甘いもの?」 「……ぁ、はい……えっと」  自分が砂糖菓子みたいに甘く仕上がったピンク肌でそんなことを訊いてくるから、自分のことを差してるのかと思いきや。この人がそんな比喩を使うわけがない。  唐突な質問。けれど、その質問の意図を数秒考えて、すぐに考えが至った。  わかりやすすぎじゃない?  ねぇ、今、二月頭の週末だけれど、この時期に「甘いもの」っていう単語が指し示すものなんてさ、わかりやすすぎでしょ?  バレンタインって。  さっき、スーパーでもチョコレート売り場を眺めすぎて、棚に激突してたもんね。あたふたしてて可愛かった。 「おやつのこと?」 「あー、えっと、そうじゃなくて。が、学校ではそういう間食などは禁止ですけれど、あの、えっと、次の週末」 「……」 「その、お時間があれば、またデートを……」  今年のバレンタインは金曜日だもんね。 「デート、もちろん大歓迎だよ」 「やた! それで、あの、チョコレートとかの甘いものは何が、はひゃあぁ!」  面白い叫び声。面白い反応。自分から最重要キーワード「チョコレート」を言ってしまった大失敗で、大慌て。 「……なんでも好きだよ?」  だからつい、意地悪をしたくなる。あどけないこの人のこういうところを突付きたくなるんだ。 「な、なんでもじゃなくてっ、えっと」  一応、隠してるつもりらしい。バレンタインのチョコレート。好きかどうか。好きじゃなかったら、何か別のものを用意してくれるのかもしれない。サプライズにしたいのか、肝心なところにまた触れてしまわないように、今度は注意深く言葉を選んでる。バレンタインだって、チョコレートだって、知られてしまわないように。 「飴も」 「あっ、ンっ」  にじり寄って、押し倒しながら、ダボダボサイズの服から簡単に見える鎖骨にキスをする。くすぐったそうに身を捩るから、その拍子に晒された反対側の鎖骨にもキスをした。ここならキスマークをつけても見えないから大丈夫。  そう思ってつけたこの前のセックスの愛撫の痕を上書きした。 「和菓子もけっこう好きかな」 「ン、ぁっ」  そのまま耳に少し低めの声を流し込むようにキスをしながら、同時に脇腹を撫でて。 「ケーキ類はそうたくさんは食べられないけど」 「ぁ、ケーキっ」  細い腰にキスをしたら、もう滲んでる。 「ミルクたっぷりの」 「ンっ」  カウパーが滲んで先端からトロトロに濡れてる。触って欲しそうな顔をして、触りたくなるような肌の感触で俺を誘惑するから。 「どっちがいい?」 「あ……の」 「舐めて、吸われるの」  カウパーまみれのピンク色? 「やぁぁン、ぁ、あっ」  それとも、こっち? 引っ込み思案なピンク色? 「ぁ、の……こっち、を」  甘いのはそんなに好きじゃなかったよ。酒飲みだし。 「あ、あ、あっ、吸われるの、やぁン」  けど、この人は頭の先からつま先まで、全部丸ごと甘いから。耐性がついたのかもしれない。 「ぁ、ン……ち、くび……ン」  いや、耐性どころか、そう好きじゃなかったはずなのに、気が付いたら口に含んでないとダメなくらいに病みつきになったのかもしれない。甘いのを、口に含んで、舌で転がしたくなる。  だって、あどけないくせに、ほら、ノーパン。  初々しいくせに、乳首は愛撫の気持ち良さを知ってる。 「ぁ、あっ、ンンっ」  少し強めに吸って、食べたくなる。 「あっ、保、さんっ」  このピンクは甘くて美味しい、俺の。 「あ、あ、あ、あっ……ン」  ごちそうだから。

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