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2-4 同級会 ~カオル~

同級会、いや、ただの飲み会だが、やっぱり、ケンイチと一緒だとテンションが上がりっぱなし。 楽しくて、楽しくて仕方ない。 ただ、ちょっと誤算がある。 ケンイチの奴、口ほどにもなく酒に弱い。 突然、ケンイチは大笑いをした。 「ははは。やっぱり、飲みすぎだ!」 「へ? 何だ突然。何がおかしいんだ? なぁ、教えろよ!」 もう、目がとろんとしているのか。 まだまだ、話したいのに、しょうがない。 時間はまだ早いけど、そろそろ頃合い。 そう。 オレは、今日はどうしてもケンイチとしたいことがある。 それは、キス。 オレにとってはファーストキスになる。 前回、初詣では、ずっと念願だった『手を繋ぐ』ことが達成できた。 もう、嬉しくて、嬉しくて、ケンイチと繋いでいた手をずっと頬ずりしていた。 それもこれも、ゴスロリという力を借りたこそ実現できたこと。 今日は、ケンイチ好みのミニスカート。 そして、居酒屋で少しお酒が入ったこのシチュエーション。 準備は整った。 あとは、ケンイチをその気にさせられれば……。 オレは、前もって考えていた話を切り出した。 「なぁ、ケンイチ」 「ん? なんだ?」 「お前さ、合コンって興味ある?」 「おー、あるある!」 よし。 ケンイチは乗ってきた。 それに、すこし目が覚めたようだ。 ふっ。単純なやつ。 「今度、合コンあるんだけどさ、人数足りなくてさ」 「って、カオルが合コンって。お前、開けるのか?」 くっ。 酔っているくせに、痛いところを突く。 「ああ、えっと……ほら、姉貴のつてでさ」 「おー、お姉さんのか。そうしたら、年上かぁ、いいねぇ」 「だろ?」 「よし! 俺は行くぜ。その合コン!」 ふぅ。 まずは、ここまでは予定どおり。 問題は、ここからだ。 ちょっと、酔いの回った、このいい雰囲気ならいけるはず。 「で、ケンイチ。それと引き換えと言っては何だが、頼みがある」 「ん、なんだ?」 「ちょっと言い出しづらい」 「なんだよ、カオル。お前らしくもない」 「笑わないか?」 「ああ、大丈夫。俺とお前の仲だ」 オレは、一機に言葉を発した。 「キスしたい」 「ぶっ!」 ケンイチは、あまりの驚きように、グラスを倒しそうになった。 オレは、瞬時にグラスを抑え、事なきを得た。 まあ、そうなるよな。 ここは、平静を装って、と。 「おいおい、何吹き出しているんだよ」 「だって、お前。俺達、男同士……だろ? いくら幼馴染っていっても……」 「勘違いすんなって、ほら、合コンでうまくいったらさ、次はキスとかなるだろ?」 「ああ、確かにな」 ケンイチは、急に、まじめな表情になり、オレの話に耳を傾け始めている。 クスっ。 笑っちゃいけないが、こいつ、かわいいんだよな。 こんな、単純で素直なところ。 「オレは、キスした事が無いんだよ。だから、練習しておきたくて……」 「なるほどな。そいつは、切実だな」 よし。 ケンイチは、腕組みをしながら、うんうん、とうなずいている。 そして、次のケンイチの言葉に、オレの血液は一瞬沸騰しかけた。 「実は、何を隠そう俺もキスしたことない」 まっ、マジ? やばい。 今日、キスしたら、お互いにファーストキス!? ケンイチのファーストキスを奪いつつ、オレもファーストキスはケンイチ。 はぁ、はぁ。 なんという、神展開……。 オレは、興奮を抑えながら話を続けた。 「相手は年上だ。キスできないと困るだろ? 練習しておきたいんだよ。こんなの頼めるのってお前ぐらいだしよ」 「カオル、お前天才か? 確かに練習必要だな。よし、ここでキスの練習しておこうぜ!」 「ああ」 オレの返事を聞く前に、ケンイチは、すっと、オレの横の席に移動してきた。 なっ! ケンイチ。 お前、ずいぶんと積極的じゃないか……。 はぁ、はぁ。 やばい、ドキドキが……。 この店のボックス席は、完全な個室じゃないが、のれんで外からは見えないようになっている。 だから、キスぐらいしても、まずバレない。 というか、そういう店をわざわざリサーチして、選んで来たわけだか……。 ああ、でも、ケンイチとの距離が近い。 酔っぱらって、少し距離間がくるっているのか? ケンイチは、オレの肩に触れた。 そして、そのまま肩を抱き寄せた。 ああ、やばい。 心臓の鼓動がめいいっぱいに高速に打ち始める。 ケンイチは、オレの顔に顔を近づけて、にこりと笑った。 「なんだか、恥ずいな」 はにかむケンイチ。 キュンとして胸が締め付けられる。 かっこいいよ、お前。 オレの心臓のドキドキの音、聞こえてないよな? オレは、やっとの思いで返答した 「ああ、でもこの歳でキスして無い方が恥ずい……」 「その通りだ」 ケンイチは、オレのあごをしゃくるように押さえた。 ああ、いよいよ。 オレは、顔を上げて目を閉じた。 すぐに、唇に柔らかい感触を得た。 チュッ! 小さな可愛い音が鳴った。 ああ、これがファーストキス……。 オレが目を開けると、そこには、ケンイチの笑顔。 「どうだ?」 「うっ、うん……」 ああ、幸せ………。 ぽわんとした気分で気持ちがいい。 あのケンイチとキスできるなんて。 夢のようだ。 オレが、いい気分に浸っていると、ケンイチが言った。 「カオル?」 「何? ケンイチ」 「お前、まさか、これで満足してないよな?」 「へ?」 ケンイチは、そういうと、オレの唇に再び唇を合わせてきた。 そして、口の中に舌を突っ込んでくる。 んっ、んっ、んっ、ぷはっ……。 「はぁ、はぁ、ケンイチ……」 「カオルも、舌をだして。ほら。練習だろ?」 「うっ、うん」 オレとケンイチは、舌を突きだし、絡ませた。 はぁ、はぁ、ちゅっぱ、ちゅっぱ。 そして、互いの口に吸いつき、唇を甘噛みする。 口の中で絡めた舌が弾け、唾液がぴちゃ、ぴちゃと溢れて垂れた。 はぁ、はぁ、と二人の熱い息。 それが、さらなる興奮を助長して二人の気持ちを高めていく。 とびっきりエロい、男同士のディープキス……。 ああ、でも、なんて気持ちがいいんだろう。 快感で体がフワフワする。とろける。 だめだ、キスだけでいきそう……。 んっ、んっ、ぷはっ……。 長いキスを終えて、半開きになった口からは、いやらしく唾液が糸を引いた。 ああ……ファーストキスをケンイチとできただけでも最高なのに、ディープキスもこいつとだなんて。 快感に浸る中、うっすら目を開けて、ケンイチの目を見つめる。 ああ、優しい目だ。 オレのことを愛している? そう勘違いしちゃいそうだ。 「なぁ、カオル。キスって気持ちいいな」 「ああ、オレはとても気持ちよかった。興奮したよ」 「カオルもか? ははは。俺なんてあまりの気持ちよさに勃起したぜ」 「えっ?」 オレは、瞬時に、ケンイチの股間に目をやった。 ズボンがはちきれんばかりに膨れている。 オレとのキスで勃起したのか!? 確かに、キスは気持ちよかった。 それはわかる。 でも、ケンイチ。 男同士のキス、オレとのキス、だったんだぞ? それで、勃起するって。 まさか、お前、オレのこと……。 オレが複雑な気持ちで、ケンイチの股間を見ているとケンイチが言った。 「ははは、今日はどうかしてるぜ俺。酔ったからかな」 「そっ、そうだな。まったくケンイチは。オレが男だって忘れるなよ」 そうさ。 今日は、酒が入っているんだ。 少しぐらい、気持ちが混乱してもおかしくない。 でも、ちょっと、残念だったかな……。 その時、ケンイチがオレの肩をたたいた。 ん? オレがケンイチの顔を見ると、嬉しそうな恥ずかしそうな顔をしている。 「カオル。そのミニスカートの中、パンツは女物か?」 「へっ?」 オレは驚いて声をあげた。 こいつ。 キスして興奮したら、すっかりエロモード全開かよ! お前だってファーストキスだったんだろ? もっと、感傷的にならないものかね、まったく……。 まぁ、鈍感なケンイチらしいっていえば、ケンイチらしいけどよ。 まったく、力が抜けるよ。 「そんなの、当たり前だろ。ちゃんと下着もレディースだ」 「本当か? じゃあ、ちょっと見せてみろよ」 「見せてみろって、お前。本気か?」 「ちょっとだけでいいんだ。頼む。こんなの頼めるのお前だけだからよ。ほら、女に頼んだらセクハラだろ?」 「確かにそうだけどよ。お前、オレでいいのか? その女物を、男のオレが穿いているんだぞ?」 「男? 何をいまさら。何も問題ないさ。俺さ、お前のミニスカート姿、俺好みでマジ興奮するんだよ」 オレのミニスカートに興奮したって……。 まあ、そりゃ、嬉しいけど。 いや、物凄く嬉しいけど。 パンツ見せろって……。 「ちぇっ。しょうがねぇな……」 オレは、普通にレディースのショーツを穿いてきた。 そのうえには黒タイツ。 それをただ、ケンイチに見せるだけ。 オレは、スカートの裾野を持った。 でも、なぜか、それ以上、手を上げられないでいる。 ただ、少し手を上げるだけ、それだけなのに……。 手が震える。 ああ、どうして、こんなに恥ずかしいんだ。 オレは、勇気をふり絞りスカートをまくり上げた。 「ほら、めくったぞ……」 「ああ、可愛いパンティーじゃないか」 「うるせぇ」 ケンイチの顔をまともに見れない。 オレは、顔をそむけた。 「それにしても、カオル。自分でスカートをめくるって、すげぇエロいな。ははは」 「なっ、お前がそうしろって言ったんだろ」 「そうだな。でも、可愛いよ。カオル」 ケンイチは、オレの股間をガン見してる。 ケンイチに見られると思うと、こんなに、恥ずかしい。 ああ、なんでだ。 股間が熱くなってくる。 はぁ、はぁ。 恥ずかしくて、顔から火が出そうだ。 「なぁ、ケンイチ。もういいだろ。これ以上はもう……」 「はぁ、はぁ。このふくらみ。ああ、カオル。お前、興奮しているのか?」 「しょ、しょうがないだろ……この格好恥ずかしいんだよ」 「このパンティーのところの膨らみ。やばい、エロすぎ」 ケンイチは、すっと手を伸ばしてくる。 オレのショーツのもっこりした部分を目掛けて。 「えっ、ちょっと。触るのかよ。やめてくれ」 「はぁ、はぁ、なっ、ちょっとだけ。いいだろ?」 ケンイチの指先がショーツに触れそうになった。 「はぁ、はぁ。やめて……」 あれ? その時、ツーっと涙が頬をすべり落ちた。 恥ずかしいけど、こいつにだったら、触れられてもいいんだ。 いや、触ってほしい。 でも、なぜ涙が出てくる? それを見たケンイチは、ハッとして、サッと手を引っ込めた。 「すっ、すまない。泣かすつもりはなかったんだ。カオル。俺、どうかしてたよ」 ケンイチのその言葉を聞いた途端、うっ、うっ、と嗚咽が出てきた。 「いや、違う……うっ、うっ。違うよ、ケンイチ」 ケンイチはオレを胸にギュッと抱いた。 そして、しばらくそうしていてくれた。 オレが落着きを取り戻すと、ケンイチはもう一度頭を下げた。 そして、照れながら言った。 「でも、お前の恥じらう姿を見たら、俺また勃起しちゃったよ。ははは」 「ぶっ。そっか、お前こそエロいな。ははは」 これで、仲直り。 酒の席だ。 きっと、変なわだかまりも残らないだろう。 「今日は、ありがとうな、カオル」 「オレこそ。ありがとう、ケンイチ」 「次は、合コンだな?」 「ああ、楽しみにまってろよ」 オレが席を立とうとしたとき、ケンイチが恥ずかしそうに言った。 「その、カオル。その、もう一度だけ。キスの練習いいか?」 「なんだ。しょうがねぇな。いいよ」 オレは、唇を突きだす。 ケンイチは、オレの唇に激しく吸い付いた。 ケンイチは、オレを国道のバス停まで送ってくれた。 ケンイチの手は、オレの手を優しく包み込んでくれる。 オレは、その温もりを感じながら、ふと思った。 なぁ、ケンイチ。 お前、女の下着に興奮したんじゃなくては、オレの男の部分に興奮したんだろ? それって、オレ自身に興奮してくれたって事でいいんだよな? ああ、そっか。 さっきの涙。あれは嬉し涙か。 ケンイチがオレを求めてくれたことへの……。 今日は、目標通り、キスすることができた。 そして、それ以上の収穫があった。 ケンイチの思いに触れることができたのだ。 最高の一日だった。 ああ、もっと、ケンイチ好みになって、もっと、もっとケンイチの気持ちに近づきたい。 そうすれば、もしかしたら……。 オレは、そんな淡い期待を胸に、ケンイチの手を強く握りしめた。

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