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3-2 合コン ~カオル~
ケンイチは、頬をふくらませて言った。
「おいおい、カオル。お前、人が悪いぞ!」
「あはは。ちょっとな。陰で見てたんだよ。お前の様子」
「で、やっぱり、他のメンバーは先にいっちまったか?」
「あっ、ああ。そっ、そう」
「すまねぇな。カオルも、道ずれにしちゃったか?」
「おっ、オレは、良いよ。気にすんなって」
オレは、わざとらしくならないように首を振った。
今回は、かなり苦しい言い訳を用意していたが、ケンイチが勝手に勘違いしてくれたおかげで助かった。
やっぱり、鈍いな、お前。
クスっ。
当然の事ながら、合コンなんて嘘。
今日は、ケンイチとオシャレデートするのが目的。
前回の偽同級会では、ケンイチは、オレ自身に少なからず興味を持ってくれた。と思う。
それが本当なのか確かめたい。
そして、もっと、もっと、ケンイチに興味を持ってもらいたい。
その為、これまでとはまた違った一面でアプローチしたいと思ったのだ。
今日は、年上相手の合コンという触れ込み。
だから、いくらアイドルオタのケンイチでも、それなりにおしゃれをしてくると思ったけど、これは想像以上。
流行のスリムのおしゃれスーツに、シャツも、ネクタイもしっかりと合わせてきている。
極めつけは、髪型。
普段とのギャップが……。
ああ、キュンキュンする。
うんうん。
これなら満足。
かっこいいよ。ケンイチ。
オレが惚れただけのことはある。
ケンイチがふとオレの服装に気づいて言った。
「あれ? お前どうして、女装しているんだ? それじゃ、彼女ゲットできないだろ?」
やはり、それ来たな。
その答えは用意してある。
「えっ、ああ、これか? 人数合わせでしょうが無くてさ。姉貴に頼まれてよ」
「へぇ、そうか。お前もいろいろ大変だな」
「まぁな」
クスクス。
まったく、鈍感。
本当に、かわいいな。お前。
普通に考えれば、人数合わせで女装させるってあり得ないけどな。ふふふ。
「で、どうするか? カオル」
「そうだな。せっかくだから、二人でご飯でもどうだ?」
「オーケー」
よし!
まずは、念願の腕を、腕を、腕を組んで……。
ちらりと、ケンイチの顔を覗く。
よし、何も考えていない。
ここは、さり気なくだ。
「ケンイチ、腕を組ませてくれ」
「へっ、なんで?」
「お前な、こんな着飾ったカップルが離れてたらおかしいだろ?」
「そっか? なるほどな」
ケンイチは、肘を曲げた。
オレは、さりげなく手を差し込む。
よっしゃーー!
来たーー!
はぁ、はぁ。
やばい。
すごく、嬉しい。
誰か、写真とってくれないかな。
オレ達のこの姿を……。
ふふふ。
「じゃあ、行こうぜ。カオル」
「おっ、おう」
オレは、ケンイチにエスコートされてレストランへ向かった。
ここは、ホテルのレストラン。
大人の雰囲気が漂う、高級感あふれるフレンチのお店。
今日の二人の服装にふさわしい。
オレがコートを脱いで、ドレス姿になると、ケンイチは、ほぉ、っと驚きの声を上げた。
「なぁ、カオル。今日のお前のドレスすげぇな。いい色している。やっぱり青いドレスは映えるな」
「えっ? そうか?」
まったく鈍いな、ケンイチは。
お前の好みに合わせて青ベースにしたんだよ。
「ああ、合コンに来たって服装じゃないな。もっと、何かの記念日。そうだな、結婚記念日とか?」
ケンイチは、言ってから、はっとして顔を少し赤らめた。
オレも、なんだか、恥ずかしくなって、誤魔化すようにフォローを入れた。
「そっ、そっか? 結婚式の2次会ぐらいなんじゃないか?」
「それだ。結婚式の2次会。うんうん」
ケンイチのわざとらしい口調に、オレは思わず吹き出した。
ケンイチも、つられて笑う。
うん。
今日も楽しいデートになりそうだ。
「乾杯!」
グラスを合わせて、チリンと鳴らした。
テーブルには、前菜、スープ、魚料理、と順に料理が運ばれてくる。
「ちょっと、俺達には背伸びかな?」
「ふふふ。そうかもな」
久しぶりに会ったということで、近況を話した。
ケンイチは、来春から大学4年生。
卒論を書くための準備に入るとか。
「毎日、ゼミに顔を出さないといけなくてさ。朝起きるのだるいよ」
ケンイチはぼやく。
でも、ケンイチは、こう見えて、なかなかまじめ。
おそらく、留年することなく卒業するだろう。
オレは、専門学校の話をした。
でも、服飾系ではなく商科系ということにしている。
だから、変にボロが出ないうちに、すぐに話をそらして、例のアイドルグループの話を振った。
「おー、そうかそうか。カオルも、『ゴスロリ☆にゃんにゃん』のファンになったか?」
「バカ! なってないって。姉貴に話したら、今度のイベント向けのコスプレにどうかということになってさ」
「まっ、まじ? それさ、作ったら、またカオル着るんだろ?」
「あ、ああ。まぁな」
「よっしゃ! カオル似合うだろうな。うぉー。いまからテンションが上がってきた!」
「……そうかよ。よかったな」
ケンイチ……。
それ、すごく嬉しいんだけど、正直、複雑。
オレのこと、好きって言っているようにも聞こえるからさ。
ケンイチは全然自覚ないんだろうけど……。
ケンイチは、さっそくスマホの画面をオレに勧めてきた。
画面には、『ゴスロリ☆にゃんにゃん』のファンサイトが映しだされている。
「俺さ、この一番右の子のファンなんだけどさ」
まったく。
オレは、衣装にしか興味ないって……。
そう、おもって、スマホの画面を見て驚いた。
ケンイチが指した子。明らかにオレに似ている……。
これって……。
ああ、そういうことか。
そうだったのか。
ケンイチがオレに興味を示しているのは、実は、この推しの子に似ていたからなんだ。
ケンイチが見ているのはオレじゃなかった。
その先にいる、この子だったんだ。
オレは、がっくりと力が抜けた。
「なっ! このゴスロリ衣装、絶対に似合うと思う。カオルにさ」
「あっ、ああ。そうだな……」
ちくしょう。
今日は、もっと、もっと、オレのことを好きになってもらおうって思ったけど。
完全に、充てが外れた。
オレは、涙をこらえるので精いっぱいになった。
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