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4-5 カオルの部屋 ~カオル~

朝、ケンイチの腕枕で目が覚めた。 朝起きて、こいつが横にいる。なんて、幸せなんだ……。 それにしても、気持ちよさそうな寝顔しやがって。 このままずっと見ていたいけど、しょうがない。 オレは、キスでオレの王子様を目覚めさせた。 「あれ、ここは? おっ、カオル。おはよう!」 「おはよう、ケンイチ。よく眠れたか?」 どちらからともなく、再び唇を合わせた。 オレは、ベッドから抜け出し、さっとエプロンを首にかけた。 裸でいると、ケンイチの熱い視線が気になって仕方ない。 ケンイチは、部屋を見回してぽつりと言った。 「なぁ、カオル。ここって、お姉さんの部屋か?」 「へっ? 何言っているんだ? ここは、オレの部屋だ。ああ、姉貴と一緒に暮らしているって言ったのは嘘だ」 「ん? そうなのか? なんだか女の部屋みたいだが……」 「そっ、そうだよ。悪いか?」 いよいよバレたかな。 オレが普段から女として生活しているってことに。 「もしかして、女装ってカオルが自分で服作って、自分でメイクしているのか?」 「ああ、そうだよ」 すべては、ケンイチ。 お前の為なんだよ。 さすがに鈍いケンイチでもわかっただろう……。 「ふーん……で、どうして、お前女装しているんだ?」 「おっ、お前! そこからかよ!」 「ん? 何を怒っているんだ?」 こいつは、本当に鈍い。 だんだん、腹が立ってきた。 「全部、お前の為だよ! ケンイチ! お前に好かれるためだ! はぁ、はぁ」 「えっ? そうなの?」 「そうだよ。だから、オレが着て行った服は、全部、お前好みだっただろ?」 「ああ、確かにな。そう言えば、お前の格好、俺に全てどストライクだな」 「わかったか? オレなりに頑張っていたんだよ。この裸エプロンだってそうだからな。一応、言っておくぞ!」 「そっか」 ふぅ。 まったく、どれだけこいつは鈍いんだ。 でも、そっか。 同情や情けでオレを抱いたわけじゃない。 オレ自身を好きになって抱いてくれた。 その裏返し……。 それを正直に言ってくれているって事じゃないか……。 ううっ….…。 嬉しくて涙が出そうだ。 ケンイチは、突然声をかけてきた。 「で、カオル」 「なんだ?」 「お前の好みって引き締まった体だったっけ?」 「へ? あー、そうだな」 確か、そんなことを言ったな。いつ、言ったっけか。 ケンイチは、腕組みをしながら唸った。 「じゃあ、俺も、体を鍛えるかな。よし、ジムにでも通おう!」 「なんで?」 「バカだな。お前好みになるためだろ? 俺だって、お前に好かれたいんだよ」 「えっ……いいよ……いまのケンイチのままで」 やべぇ。 素直に嬉しい。 こいつ、オレの事を気にしていてくれているのか。 「そうはいかないだろ。カオルだって、こんなに努力したんだろ?」 「まぁ、そうだけど……じゃあ、まずは腹筋でも鍛えたらどうだ? ほら、そこに、座りながら腹筋を鍛えられるのあるからさ」 オレは通販で買った座椅子型のトレーニング器具を指さした。 「へぇ。そっか。じゃあ、貸してもらうかな……」 ケンイチは、さっそく試し始めた。 ん? ちょ、ちょっと。 待てよ。 これって、チャンスなんじゃあ……。 オレは、腹筋するケンイチの顔を覗き込んだ。 スーハー。深呼吸。 よし。 オレは、思い切って言った。 「なぁ、ケンイチ。お前さえよければなんだけど……オレの部屋で毎日、体を鍛えるってのはどうだ?」 たっ、頼む。 うん、って言ってくれ。 「ん? それは面倒だな、ここに通うの……」 ぶっ。オレは心の中で吹き出した。 「お前は本当に鈍いな! ここで、一緒に暮らそうって言っているんだよ!」 はぁ、はぁ。 こいつと話すとマジで疲れる。 ケンイチは、はっとした顔をして、すぐに嬉しそうに言った。 「おー! マジで? 同棲か、いいぜ。俺、ここに引っ越してくるよ」 「えっ? そっ、そっか……よかった」 何かあっけない……。 緊張したのがアホらしく感じる。 ふふふ、 まぁ、ケンイチらしいか……。 素直で単純、それでいてとことん鈍い。 あまり深く思われても、それはそれで気まずいもんな。 ああ、それにしても……。 よっしゃー! オレは、心の中でガッツポーズをした。 ああ、マジで嬉しい。 憧れのケンイチとの生活。 ずっと、夢見てきたこと。 このために、今日まで頑張ってきたといってもいいんだ。 神様なんて信じちゃいなかったけど、今は神様に感謝。 初詣でお祈りした『ケンイチと結婚出来ますように』 叶ったようなものだもんな……。 ケンイチは、自分の膝を指さして言った。 「じゃあさ、カオル。ここに座れよ。よし、同棲初日ってことで、さっそくやることやろうぜ」 「お前ってやつは……」 「だって、裸エプロンで俺を誘っているんだろ? カオル」 「ぶっ! 変な所で鋭いな。お前は……」 「だって、自分で言っていただろ? カオルが女装するのは、俺に抱かれたいからだって。まぁ、これからは女装しなくても、お前を抱くけどな。ははは」 「まったく、お前ってやつは……まぁ、嬉しいよケンイチ。愛している」 「俺もだ。カオル。お前を幸せにするから。愛しているよ」 オレは、ケンイチを跨ぐように座ると、そのまま抱き着いてキスをした。 そして、ケンイチの胸に顔をうずめる。 温かい。 ふふっ、ケンイチのやつ。 トクン、トクンいってる。 ケンイチもオレにトキメイているのかな? なんて……。 「なぁ、ケンイチ。お前さ、いつか言ってたよな。言葉にしないと通じない事があるって」 「ああ、そうだな」 「オレ言ってなかったけど」 「うん」 「物心ついてからずっとケンイチ、お前の事が、好きだった。初恋なんだ。お前が」 「まっ、マジか? すごいな」 ケンイチの驚いた顔。 ふふふ。 「恥ずかしいけど、ちゃんと言っておきたかったんだ。ほぼ20年間、片想い。お前だけを見つめて。で、こうやってお前と結ばれた。ふふふ。サイコー」 「そっか、カオルはずっと俺の事を思っていてくれたのか……ありがとな」 ケンイチは、満面の笑みを漏らす。 そして、オレの頭をポンポンと撫でた。 へへへ。やっぱり、言ってよかった。 お前のそんな顔見れたんだから……。 ケンイチは、言った。 「じゃあ、俺も言うけどさ。俺がカオル、お前を好きになったのは……」 「ああ」 「……ごく最近」 「ああ、知ってる。そうだよな……」 「ごめんな……」 「へへへ。何謝っているんだよ。ケンイチはよ」 そんなの、初めから分かっているって。 だから、こんなに苦労したんじゃねぇか。 ケンイチは、話を続けた。 「でもさ……」 「ん?」 「カオル、お前の事を考えると、普通にドキドキするだけじゃないんだ。ほら、ここ、胸の奥がトクン、トクンといって、胸がギュッと締め付けられるんだ」 「へ?」 「おかしいだろ? こんな気持ち初めてなんだ。ほら、今もお前の笑顔見ると嬉しいんだけど、同時に苦しくなる……」 「おっ、お前それって?」 「なんだ?」 「恋って事じゃないのか?」 ケンイチは、目を見開いた。 「恋? ああ、恋か……もしかしてこれが恋ってやつなのか? 確かに、ゴスロリっ子見るとドキドキするけど、こんな気持ちにはならないな……」 「ぷっ! ははは」 オレは、おかしくて思わず笑ってしまった。 「何笑ってるんだよ、カオル」 むくれるケンイチ。でも、それも可愛く見えてしまう。 「お前、それ初恋じゃないのか? ははは。ケンイチ、お前、二十歳になってようやく初恋かよ」 「うるせぇ」 「そっか……ケンイチは、オレが初恋ってことなんだな。やべぇ、すげぇ嬉しいよ」 なるほど、腑に落ちた。 ケンイチが、これだけカッコいいのに今まで彼女がいなかった理由。 なんてことはない。 ケンイチが本気で恋できる相手がいなかっただけじゃねぇか。 そして、オレが初めてケンイチのハートを射止めたってことか……。 むふふ。 やべぇ。めちゃ、めちゃ嬉しい。 オレが、一人ほくそ笑んでいると、ケンイチが言った。 「でも、カオル。俺達、すごくない?」 「なにが?」 「20年間ずっと初恋と、20年間かかって初恋。でも、その初恋同士が結ばれた。ほら?」 「おっ! 確かにすげぇ!」 「なぁ、カオル……俺達って、こうなる事が決まっていたのかもな。だって、もう運命以外に考えられないだろ? これ」 「ああ、そうだな! やっぱり、お前がオレの王子様だったんだな!」 「へっ? 王子様?」 ケンイチは、きょとんとした。 あっ! しまった……オレとしたことが。 かーっと、猛烈に顔が熱くなった。耳まで熱い。 「うっせぇ! ケンイチ! 今の聞かなかったことにしろ!」 「おっ、おう。まぁ、いいけど……あっ、すげえ事、ひらめいたぜ」 「ん? なんだ?」 ケンイチは、世紀の大発見でもしたかのように両手を広げた。 「今年って、2020年だろ? 20と20。こりゃ、来てるな……俺達!」 「ぶっ! お前、せっかくのいい雰囲気を台無しにするなよ! 鈍感なやつだな!」 「ぷっ。ははは」 「あははは」 オレ達は盛大に大笑いをした。 ああ、楽し過ぎる。 なぁ、ケンイチ。 これからは、二人でずっとこんな風に幸せに暮らせるんだよな。 ケンイチ、これからもよろしくな! 「さて、カオル。そろそろ、どうだ? 俺のほうは、もうカチカチに固くなって準備万端だが?」 「ぶっ。本当にお前ってやつは!」  まったく、とことん鈍感なやつ! ふふふ。 オレは、喜びをかみしめながら、ケンイチに思いっきり抱き着いた。

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