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第5話

 目が覚めたら、朝だった。雪に反射した太陽光がまぶしい。  起き上がろうとして気づいた。  服を……着ていない。  そしてとなりには、ニコニコした透さん。 「うわっ!」 「おはよ」 「あの……きのう、あれ?」  口でしてもらって、その後の記憶がない。  透さんは、へらへら笑いながら俺の頭をなでる。 「よく眠れたようでよかったよかった。あー、寝顔も可愛いのなー」 「……っごめんなさい」  最悪だ。  してもらっただけで、寝落ちしたらしい。 「埼京線、あと30分くらいで動くらしいけど。どうする?」 「満員で帰るのはイヤですね」 「じゃあのんびりしよ。朝飯は? パン? ご飯?」 「どっちでも大丈夫です」 「甘えなさい」 「……パンで」  10分後、しらす味噌チーズトーストが出てきた。  そして悟る。胃袋を掴まれるとはこのことかと。  うまい、めちゃくちゃうまい。 「あの、一緒に風呂入りませんか」  食器を洗う透さんの背中に抱きついた。 「え? 風呂? い、いいの?」  慌てて振り返る透さんを見て、少し恥ずかしくなる。 「一応、こっちだってお付き合いに浮かれてるんだぞってことを言おうと思いまして……色々考えて、風呂かな、と」  透さんは、流れっぱなしの水を止めることもなく、お皿とスポンジを持ったまま、ぼーっとこちらを見ていた。 「あの?」 「放っとけないから付き合うだけじゃないの?」 「そこまで善人じゃないですよ。ちゃんと好きです、ちゃんと」 「だって、『ソッチ系じゃない』って大暴れしてたじゃんか」 「そのあとに気が変わったんです」  抱きついていた腕を離すと、透さんはざーっと泡を洗い流して、こちらに向き直った。 「バスソルト、チェリーとラベンダーとレモングラスとヒノキ、どれがいい?」 「どれでも」 「晴斗が好きなので入りたいなあ」 「じゃあ、レモングラスにします」  風呂をリクエストしたのには、理由がある。  やはり『そうはいっても男』という気持ちはあり、いざそうなって、自分が嫌悪感を抱かないとは限らないと思ったからだ。  きのうのは、透さんがしてくれた物理的な刺激がよかったからできただけ……という可能性も十分ありえる。  20分ほど経って、給湯パネルから、お湯が沸いたことを知らせるメロディが鳴った。  いそいそと脱いで入って待っていると、透さんも入ってきた。  細身だと思っていたけど、ただ細いわけじゃない、均衡の取れた体。  この王子顔でちゃんと腹筋も割れてるとか、女子社員が知ったら悲鳴を上げるだろうなと思う。  その下に目をやる。嫌悪感はない、かな。 「一緒に湯船入っていい?」 「どうぞ」  男ふたりで入ると、足をたたんでギリギリだ。  豪快にお湯がザパーッと流れ出す。 「なんで気が変わったのか聞きたいなー」 「あ、好きって?」 「そう」  なぜかと言葉にするのは難しくて、考え込んでしまう。  不安そうに顔をのぞき込む透さんは、ちょっと可愛い。 「少しの罪悪感と、放っておいたらこのひとダメになっちゃうかもと思って、あと、俺以外の他の誰かにこんな風にしてるところを想像したら、嫌だなと思ったんです。抱きしめてみたら、触れ合うのもきょうこれっきりって思うと寂しくなって、あとはなんというか……名前呼ばれたり目見られると心拍数が上がる感じがするし」 「……可愛い」 「そう言われるのもなんか、ドキッとして」  話しながらだんだん照れてきてしまい、顔が見られないよう、真正面から透さんに抱きついて、首のところに顔を埋めた。  透さんは、俺の体をゆるく抱きしめながら、ささやいた。 「透って呼んでよ。しゃべり方もフランクでいいし」 「7つも上のひとに無理ですよ」 「徐々にでもいいから」 「じゃあ風呂上がったら、きのうのお礼させてください」  体を離して顔を見ると、目をまん丸くしつつ、じわじわとうれしそうな顔をしていた。  きのうの昼休み時点の俺に『お前は24時間後に上司と付き合ってて、立派なイチモツくわえて(よろこ)んでるぞ』とか言ってみても、きっと信じてくれないだろうなと思う。 「ん、……ふぅ」  口の中パンパンにまでくわえこんでみると、異常なくらい興奮した。  やり方が分からないので、とりあえず見よう見まねで頭を上下すると、いいこいいことなでられた。  口を離し、舌先でペロペロとあちこちなめる。 「パクッて、なるべくいっぱい。いける?」 「うん」  のどを詰める限界まで口に含んでも、全部は入りきらない。  もごもごしていると、透さんは長くため息を漏らした。 「やばい、めちゃくちゃ気持ちいい」  俺だって気持ちいい。  口の中がこんなに良いのは、きのうの夜、キスでグズグズにされてしまったのが原因だ。 「晴斗。お礼って、他のこともしてくれんの?」  くわえたまま上目遣いでこくりとうなずくと、後頭部をなでられた。 「ちゃんと抱いていい? 最後まで」  こくこくうなずく。もちろん、最初からそのつもりだ。  寝転がると、透さんは俺の太ももを持って大胆に広げ、肛門の周りをなめはじめた。 「ちょっ……きたな、」 「汚くないだろ、さっき風呂入ったんだし」  ピチャピチャと音を立てられて、絶望的に恥ずかしくなる。 「よく寝てたから気づいてないと思うけど、オレ、朝イチでメガドンキ行ったんだよね」 「ん……ン」 「男同士専用のやつちゃーんと買ってきたから、安心して気持ち良くなってよ。あー渋谷住みで良かった」  口が離れた……と思ったら、透さんは、ベッドの下からがさごそとローションを取り出した。  お尻の周りに塗り込められ、そのまま、つぷりと1本、指が侵入してきた。 「……っ」  思わず息を詰める。 「ちょっと待ってな、良いとこ探すから」  遠慮なしに探られて、複雑な気持ちになった。  男同士のそういうのに慣れている、イコール透さんの良くない経験で得た知識なわけで、色々な考えがチラついてしまう。  しかし透さんは、中のあちこちを触りながら、機嫌よさそうに言った。 「オレ、心の底から誰かに喜んで欲しくて何かするの、初めてかも。うれしいな」 「ん……、どういう……こと、ですか?」 「こんな性格だろ? やるべきことだからやるか、めんどくさいけど仕方なくやるか、呆れられたくなくてやるか、しかしたことない。何事も。でもさっきオレ、通行人が踏み固めまくってつるっつるになった道玄坂歩きながら、楽しくて仕方なかった。あ、これは?」 「ぁあ……ッ」  ギュッと押された1箇所の刺激が、電流みたいに全身に駆け巡った。 「お、良さそう?」 「ん……ん、」  何度か押されると、体がガクガクと揺れた。 「晴斗、気持ちいいなら気持ちいいって、言葉で教えて?」 「……っ、き、もちいい」 「可愛い」  指が増えて、中をぐりぐりとかき混ぜられる。  良いところを押されながら既に完勃ちのペニスを触られたら、声が裏返った。 「ぁ、……ッあぁ、はあ、透さん、どうしよ、はぁっ……気持ちいい」 「どうしよって何?」 「ん、ン…、分かんない、はぁっ……」 「もうちょっと慣らしたら、挿れていい?」 「……ん、して」  指でも気持ちいいのに、あんな太いのでされたら、どれだけ気持ちいいんだろう。  男に掘られるなんて絶対無理派だったはずなのに、(もだ)えるくらい期待してしまっている。 「すごい、晴斗……先っぽぬるぬるしてる。気持ちいいんだ」  何度もうなずくと、ペニスをぐにぐにといじめられた。 「ぁあっ、んッ……、っ、はぁっ……ぁ、」 「そろそろいいかな」  指が引き抜かれると、穴がヒクつく。  透さんは手早くコンドームをつけて、かなりの量のローションを足した。 「挿れるけど、痛かったらすぐ言えよ」  何度かうなずくと、先端がひたりと当てられた。

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