5 / 18
5
マンションに着くと、地下の駐車場に車を止めてエレベーターで佳孝の部屋に向かう。
「散らかってるかもしれない」
佳孝は苦笑しつつ漏らしていたが、実際は綺麗に整頓されていた。最初に入ったリビングにはテーブルと椅子が二つ。テレビの向かいには、ソファが置かれていた。
ここで二人は向かい合って食事を取り、隣同士でテレビを見る。
二人での生活感が滲み出ている空間に、弾んでいた理津の心は萎んでいく。
「理津」
佳孝に名前を呼ばれ振り返る。
「おいで」
優しい笑みを浮かべた佳孝が両腕を広げる。沈んだ気持ちを誤魔化すように、理津は佳孝の胸に飛び込む。
力強く抱きしめられ、理津は胸に顔を埋めた。
久々に感じた佳孝の体温と匂いに、涙が自然と目に溜まる。
「佳孝さん。会いたかった」
「僕もだよ」
抱擁が離れ、今度は唇が重なり合う。求めるように首に腕を回すと、佳孝の舌が割り込んだ。
「ぁ……はぁっ……」
口腔を激しく弄られ、息苦しさに理津は熱の孕む息を吐き出す。
何度も角度を変えて唇を吸われ、全身がドロドロとした熱に侵されていく。
「ッ……佳孝さん」
理津は熱を孕んだ目で佳孝を見つめる。
今すぐ抱いてほしい。佳孝のものにして欲しい。
苦しいぐらいに張り詰めているこの想いを佳孝の手で、解き放って欲しかった。
「疲れただろう、少し休んだ方がいい」
そう言うなり佳孝は、理津から離れてしまう。
理津の気持ちに気付いていないのかとも思ったが、佳孝は困ったように笑みを浮かべていた。
「何か飲む? 用意できるのはコーヒーかお茶くらいだけど」
キッチンに背を向けてしまった佳孝を見つめ「お茶でいい」と告げる。
行き場を失った熱が身体の中を燻り、胸は落胆に沈む。
でも我が儘は言えなかった。やっと会えた佳孝に、やっぱり呼ばなきゃ良かったと思われたくなかったからだ。
ともだちにシェアしよう!