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「もうすぐ高校を卒業だろう? 本当に大学に行かなくて良かったのか?」
ソファに腰を下ろして理津の隣に座るなり、佳孝が切り出した。
「うん……遅かれ早かれ継がなきゃいけなくなるのに、余計なお金をかけるわけにはいかないから」
一人っ子である理津には、旅館を継がないという選択肢はなかった。あの閉鎖的で雪深い土地で、一生を終える。それは生まれた時から決められた定めだった。
「理津の人生だろう? 好きに生きればいい」
「いいよ、別に……それよりも、明日はどこに連れて行ってくれるの?」
憮然とした表情の佳孝に、理津は話題を転じる。今は現実と向き合いたくはない。甘い夢の時間を一秒たりとも、無駄にはしたくなかった。
「いくつかプランは考えてあるけど、行きたい場所とかある?」
「佳孝さんと一緒ならどこでも良い」
「それを言われたら、どうしようもないな」
そう言って佳孝は笑う。佳孝の優しい目元に浮かぶ小さな皺。緩く上がった口角。すぐ間近で目にし、胸が締め付けられてしまう。
幸せだと――そう思わなくちゃいけない。いっときの間でも、佳孝の傍にいられるのだから、多くを望むべきじゃない。
嫌というほど、理津は自分に言い聞かせてきた。今もそうだ。
それでも胸の奥底ではずっと、黒い焔が燻っている。
「天気次第だけど……晴れたら遊園地で、雨なら水族館かなと思ってる。ありきたりなチョイスだと思う?」
不安げに理津の表情を伺う佳孝に、理津は首を横に振る。
「ううん。デートっぽくて良いと思う」
「理津がいいなら良かったよ。子供っぽくてやだって言われたらどうしようって、思ってたからね」
佳孝がホッとしたように息を吐くと、理津の手を握った。
「もう少し休んだら、夕飯を食べに行こう。お店を予約してあるんだ。和食ばかりだろうから、洋食の店にしてみたんだけど……大丈夫だった?」
「うん……ありがとう」
涙が溢れそうになり、慌てて理津は俯く。
自分のために色々と考えて、準備していてくれたのが嬉しかった。とてつもなく。嬉し過ぎると涙が出るのだと、初めて知った。
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