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「理津? どうしたんだ?」  理津の頬に涙が伝っているのに気付き、佳孝は激しく狼狽る。 「……なんでもない」  強がりを口にしても、涙は止まらない。手の甲で何度も拭っても、頬は濡れそぼったままだった。 「何でもないはずがないだろう。不満があるなら言ってごらん」  頭ごと抱え込まれ、背をさすられる。理津は息を吐き出すと、震える声で「嬉しくて」とやっとの思いで口にした。 「えっ?」 「佳孝さんが僕なんかの為に、いろいろ考えてくれて……」 「そんなの、当たり前だよ」  佳孝の言葉に理津は顔を上げる。どこか悲しげに微笑む佳孝と目が合った。 「理津に来いって言ったのは僕なんだから。喜んでもらえるように、色々考えもする」  頬に溢れた涙を拭われる。その温かい感触に、幸せだと思えた。 「佳孝さん」 「なに?」 「好き……凄く」  言葉を封じ込めるように、理津は自ら唇を寄せる。 「僕もだよ。理津」  答えるように佳孝も、唇を重ねてくる。  佳孝から理津に対する愛の言葉はない。それでも良いと理津は思う。  何度だって自分が言えばいい。  そうすればいつかは佳孝も、自分だけを愛してくれるはずなのだから。

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