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寝室に居続けるのが辛く、理津もリビングへと移動した。どうするべきかと思い悩んでいると、玄関の方から微かに声が聞こえてくる。
「えっ、連絡したんだけど」
聞き覚えのある女性の声に、理津はハッとして立ち尽くす。
「二泊三日じゃなかったのか?」
佳孝の狼狽える声。
「東京が大雪で電車が運休するかもしれないって聞いて、早く帰ってきたの」
廊下を歩く足音と、女性の声が徐々に近づいてくる。伴うように理津の心臓は嫌な音を立てる。
「――香苗、あのさ」
佳孝の声と同時に、リビングの扉が開く。
一瞬時が止まったように、周囲が静まり返る。
「……理津くん」
呆気に取られた表情の香苗と目が合い、理津は全身が冷水を浴びたように総毛立つ。
「どうして、ここに?」
何も聞いていなかったのだろ。香苗が驚くのも当然だった。佳孝が理津をかばうように前に出る。
「香苗、実は僕が――」
「たまたま友達と東京に来てて、こちらに寄っただけなんです」
佳孝の言葉を遮り、理津は口を開く。
「叔父さんがこっちに住んでると聞いていたので、それならば挨拶だけしようと思って。お邪魔させていただきました」
嘘がスラスラと言葉に変わる。
普段の自分は大人しく、意見すらまともに言えない根暗な人間だ。
それでも佳孝を守るためなら、いくらでも嘘を吐けてしまう。佳孝が窮地に立たされてしまうぐらいならば、自分の恋心など砕けても構わないとさえ思える。
それぐらい、佳孝のことが好きだった。それに助けてもらった恩を仇で返す真似はしたくない。そう思える自分にほんの少しだけ、大人になった気さえした。
「もう帰ろうと思っていたところなんです」
荷物を手に取り、理津は精一杯笑顔を作る。
「えっ? 本当に大丈夫なの? 友達はどこで待っているの?」
香苗が心配そうに問いただす。優しい眼をした香苗に、自分は敵わないと理解した。いつ見ても香苗は綺麗で優しかった。
「大丈夫です……宿泊先にいるので」
喉が苦しく、視界がぼやけ出す。さすがに限界だと思った。佳孝の顔を見ることもできず、かといって香苗の顔を見るのも辛い。
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