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「理津……あんなことを言わせて、ごめん。ちょっとでも保身を考えた僕は最低だ」 「そんなことないよ。僕は佳孝さんが、困るほうが嫌だ」  それは理津の本心だった。それでも心にはひびが入っていく。キリキリとした痛みを消し去ることはできない。心がもっと強ければ。理津は歯噛みした。 「理津が辛い思いをしている姿を見たくない。そう思って助けたはずだった。それなのに僕は……理津を傷つけてしまっている」  佳孝が白い息を吐き出す。舞う雪の量が増え、佳孝の足取りが早まる。 「そんなことない。佳孝さんは悪くないから」  やっぱりこんな関係は良くないからやめよう。そう言われそうで、理津は必死で言い募る。 「我儘言った僕が悪いんだ。あの場所で大人しく、佳孝さんを待っていれば良かった……」  贅沢なことをしたからバチが当たった。一年に一度、二人の時間を作れることが僥倖(ぎょうこう)なことであって、それ以上を望んではいけなかったのだ。 「理津。それは違う。僕が呼んだんだ。自分を責めるのは間違っている」  駅が近づくにつれて、周囲に人が増えてくる。周りの目があるというのに、佳孝は理津の腕を離さなかった。 「今後のことで話しがしたい」  ビジネスホテルを前にして、佳孝が固い口調で言った。  いつか、この日が来ることは分かっていた。  自然消滅の方がよかったとも思ってしまう。でも、来るか来ないのか分からずに、待ち続けるのも辛いように思える。  覚悟ならずっと前から出来ていた。それでもホテルに踏み込む足は、重く震えていた。

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