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「香苗には、理津を家に僕が呼んだんだと言った。卒業祝いにうちにおいでって誘ったって……」
「うん」
「僕たちの関係を正直に言おうかとも考えた。だけど、理津の両親に話が伝わったら理津の立場が危うくなる。今ですら理津が苦しんでいるのに、追い打ちをかけるわけにもいかないからね」
苦しげに笑みを浮かべる佳孝の横顔を、理津も複雑な思いで見つめる。
「別に僕の立場がどうなろと、構わない。理津に手を出したのは事実なんだから」
「……後悔してるの?」
唇がわななく。自分が誘ったのだから、誑かされたと恨まれても仕方がない。分かっていても、辛くないはずはなかった。
「後悔なんてしてないよ。でも、このままでもいけないと思う」
黙ったまま理津は頷く。佳孝の顔を見ていられず、床に視線を落した。
「理津。僕が今から言う話を聞いて、責任を感じる必要は無い。これは僕が決めたことなんだから……いいね?」
了承を求められ、理津はゆっくりと頷く。十八年間生きてきた中で、ここまで緊張したことはなかった。
「別れようと思うんだ……香苗と」
「えっ?」
「離婚しようと思ってる」
信じられない言葉に、理津は激しく動揺する。自分と別れる選択肢はあっても、香苗と離婚するというのは有り得ないと思っていた。
「……どうして」
「僕をかばおうとして必死な理津を見て……気づかされたんだ。理津を傷つけているのは、紛れもなく僕だってことにね」
「そんなこと――」
理津の言葉を遮り、佳孝が力なく首を横に振る。
「理津が好きだと口にしてくる度に、僕はちゃんと返せていない。それは少なからず香苗に悪いという気持ちがあったからだ。理津はそのことを責めてくるわけでもない。だから毎年、冬の時期にあの場所に行くのを辞めなきゃいけないと思うことだってあった」
やっぱりそう思っていたのだとわかり、佳孝も苦悩していたのだと胸が痛くなる。
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