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「ごめんなさい。佳孝さん。僕が我が儘言ったから」 「謝るのはやめてくれ。理津は何も悪くないんだよ」  膝に乗せていた拳を佳孝の手で包まれる。 「これ以上、無責任なことはしたくないんだ。本当だったらもっと早く、決断しなきゃいけない。それを先延ばしにしていた僕が悪いんだ」   自責の念に駆られているのか、佳孝の手が微かに震えていた。 「だから理津は後ろめたく思う必要はないよ。たとえ理津が他に好きな人が出来ようと、僕は責めたりはしない。だから、理津が別れたいと思うまでは――」 「言ってよ」  堪えきれない衝動に、理津は口を挟む。 「えっ?」 「言ってよ、佳孝さん。自分だけを好きでいてくれって」  佳孝の自分に対する気持ちが全く見えてこない。だったら上辺だけでも、自分を必要だと言 って欲しかった。 「香苗さんと離婚しなくたって、僕のところに来なくなったとしても、僕はずっと佳孝さんが好きって気持ちは変わらない。それでも言って欲しい。ずっと、好きでいてって」 「……理津」 「佳孝さんがそう言ってくれたら、僕は死ぬまで佳孝さんだけを好きで居続けるから」 「気持ちは凄く嬉しい。でも……理津はまだ先が長いんだ。縛り付けることなんてできないよ」  佳孝は困ったような、どうしたらいいのか、分からないといった顔で理津を見た。 「佳孝さんになら縛られたって良い。待ってろ、て言われたら、僕はあの場所でいつまでも待つから。だからお願い」  理津は懇願するように佳孝の腕を掴む。  一年に一度だけの逢瀬ですら待てたのだから、佳孝の口から待てと言われればいくらでも待てる気がした。  それでも佳孝は、痛々しい者でも見るような目を理津に向ける。

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