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ダンジョン編―大賢者ヒュー― 第1話

 俺はヒュー・クレム。ハイヒューマンの国、アーリウムの貴族の両親のもとに第1子として生まれた。  アーリウムは王都と直轄地を王族が、6つの領土を王族の血族である貴族が治め、その末端の辺境(ヒューマンの大陸に近く、貿易港を持つ領地)クレム領が、俺の両親の治める領地だ。  王位継承権は低く、どちらかというと傍流のような末端ではあったが、国から出ないハイヒューマンの内にあって、他国に出かけ、交流をする外交官的な仕事を担う家系だった。  そのため、両親は若いころは冒険者として各国を回って見聞を広げていた。  その後戻ってきて外交官のような仕事をしている。他国の大使や賓客のもてなしなどが主な仕事だった。  ハイヒューマンは寿命が長い。大体3000年から1万年くらい生きる。ハイエルフ、ハイドワーフもそれくらいだ。  ヒューマンの寿命は70年から150年ぐらいなのでまさに桁が違う。その代わり種族としての繁殖力が寿命に反比例し、低くなる。  人口の多いヒューマン種が大陸を支配しているのは当然のことと言える。個としては弱くても集団で強いのがヒューマン種だ。  ハイヒューマンは干渉されるのを嫌う。同族をとことん大切にする種族で、一人でも故意に傷つけでもしたら、国が滅ぶほどの反撃を覚悟しなければならない。  他種族には【ハイヒューマンに手を出すな】という不文律が存在している。市井の民は伝説級の種族で、存在しているとも思ってはいない。おとぎ話に出てくるくらいの物だ。  しかし支配階級には連綿とその王族の紋章とともに不敬を働くな、との言い伝えは今だ生きている。  今はもう一部の外交を担うハイヒューマンしか、公的には東の大陸にはいないけれども、ヒューマンと混じって暮らすハイヒューマンがいないわけでもない。  その一人が俺だ。  俺は転生者だ。元日本人。異世界転生っていう、ラノベで流行った展開だ。  最後の年齢は35歳だったと思う。童貞だった。だからこっちの世界で魔法使いになったわけじゃないと思うけれども。  その前世の俺は西藤久稀(さいとうひさき)といった。恋人いない歴はイコール年齢だ。しかも真性のゲイだ。初恋は幼馴染み。その幼馴染のことを引きずって恋人もできず、何の経験もなかった。  好きなことに夢中になると寝食を忘れる性格は研究職が天職のようで、いくつか成果を出して、会社に貢献していた。特許もとった。  一人暮らしをしてからは不養生に拍車がかかり、研究室に寝泊まりすることも多かった。食べることや自炊は好き(凝って一時期研究したこともある)だが研究熱の方が上回るので、一日一食になるのも珍しくなかった。背が高い方の俺は肉が余り付いていなかった。白衣の下は骨と皮ばかりだ。  だから、いつものように一人残業をしていた自分が不調に倒れてもおかしくはなかった。多分一人で残業をしていたために誰にも気づかれなかったのが命を落とすことになったんだろう。 (ああ、俺死ぬのかな。出来れば来世は男同士でも、大っぴらに付き合える世界がいいなあ。)  そう死ぬとき願ったのが現実となるとは、思いもよらなかったのだけども。  ディフェンドと呼ばれるこの世界は創世から50万年ほどの若い世界だ。  この世界は女性という性は存在しない。地球でいう男性型の両性のみが存在する。それでも性差は存在し、メイルとフィメル、と呼ばれる。子供は皆卵で生まれ(卵の妊娠期間は種族により違う。また個人ごとに変わる)、両親の魔力を糧に成長をする。  地球の女性の子宮に当たる卵室が全ての知的生命体の種族に存在し、S状結腸と直腸の結び目の脇の部分に入口がある。精嚢の上に卵室はあり、普段はそこの入口は閉じていて、発情期に開き、受精して卵を形成する。  そのためか、知的生命体に排泄機能はない。食べた物は全て魔力へと変換される。産まれた卵は、孵るまで両親から注がれる、魔力で育てられるのだ。  この魔力の多寡で魔力回路が発達するかしないか決まってしまう。魔法使いの子が魔法使いに育つ所以はそこにあった。  卵から出てきた子どもは歯が生えていてハイハイができる程度の身体付きで生まれ、離乳食で育てられて、次第に通常の食事ができるようになる。  この世界は海に大陸が2つ浮かび、遠すぎず近すぎない距離にある。  東の大陸はヒューマンタイプが多く住む大陸でヒューマン(短命種)が支配する。半分は魔物の済む領域である森や山を避けるように草原や平地にヒューマン種が国を作っている。他にエルフ、ドワーフ等、ヒューマン種に近しい種族が主に住む。  西の大陸は魔族と呼ばれる魔法に長けた種族が大半の生存権を支配しているが、魔族は種族ごとに集落を成し、魔族をまとめているのが魔王と呼ばれる存在だ。  強い者が魔王になるが、その時々で強さの物差しは変わっていた。その周りに、竜人族、獣人族とやや人より魔物や獣に近い姿の種族が住んでいた。  東と西の大陸の間に点在する島のうち、東と西の大陸からちょうど中間地点にある大きな島は聖域と呼ばれ、大きな神聖樹が中心にそびえ、神獣や精霊、聖獣の過ごす島だ。時折神が降り立つといわれている。  その島から、東寄りの聖域よりほんの少し小さい島がアーリウムだ。  記憶が戻ったのは5歳の時。死にかけたショックだったみたいだ。  ハイヒューマンの5歳はヒューマンでいう、乳幼児に近いのだが、俺はそれからいろいろやらかして、ハイヒューマンで成人の歳、150歳にはもう『大賢者』と呼ばれていた。  もう親は完全に俺の好きにさせてくれて、色々手伝ってくれた。医療の仕組みやら魔道具の開発やら魔法の研究。何度か建物を爆発させてしまったのも、今ではいい思い出だ。  それも俺のユニークスキル、『百科事典』のおかげだ。(もう一つアイテムボックスと言うのもある。お約束だなと思ったよ)  200歳の時に、転機が訪れてアーリウムから俺は東の大陸のアルデリア王国へ渡った。  船酔いはひどかったとだけ言っておこう。その後は転移陣で行き来したけれど。  なぜ渡ったかと言えば『勇者召喚』が行われたと聞いたからだ。  この世界に魔王は存在するが、西の大陸から東の大陸には渡ってこないし、ただ単に魔族の王だ。  ヒューマン種を脅かす存在は、魔物か同じヒューマン種だ。戦争好きの国は存在するもので、あちこちに火種を撒き散らす。その主な国は帝国といった。今回の召喚は対国ではなく、対魔物だったようだけど。  この頃は魔物が強く、被害が大きかった。武器を作る錬度も低く、良い武器はダンジョンからドロップされるドロップ品が大半を占めていた。  その召喚に使われた召喚陣を見たくて、召喚の行われたアルデリア王国に行ったのだった。  そこで俺は日本人だった頃の幼馴染に出会った。初恋の相手だ。高校生の時に行方不明になりいなくなってしまった幼馴染。  俺はキレた。王を脅して勇者召喚を禁じ、誓いを守らせるため、王が代替わりする時は俺と、その時(勇者パーティーとして各地を回った時)に知り合った古代龍とともに王に誓いを確認させた。  その時はハイヒューマンの王族に連なるものとしての立場(今の王の孫だから)を脅迫に使った。後悔はしていない。  その時色々あって勇者である幼馴染と恋仲になり、前世もばれた。勇者と結婚して(ハイヒューマンの身分を隠した大魔導士グレアムとして)王都に屋敷を構えた。  そして勇者は遺言を残した。もちろん老衰の大往生だった。 『素晴らしいパートナーを見つけて、幸せになって老衰で亡くなって欲しい。あ、ヒューの子供もみたいかな。これは俺の遺言だよ。』  でも俺は彼の亡くなった後、ショックで龍の洞窟に引きこもった。  今の俺は988歳。200歳で勇者と出会い、328歳の時死に別れたから700年近く引きこもっていると言える。  まあ、俺は龍の洞窟に閉じこもらなくてもインドア体質なんだけど。  俺は、龍の寝床の隅にテントを張らせてもらい(中は空間魔法で拡張している、勇者時代に使った逸品)生活していた。  時折、両親からの魔道具の依頼やアルデリア王都にある冒険者ギルド総括になった、元勇者パーティー仲間の弓術士のエルフのミハーラや王都に鍛冶工房を開いたタンクのドワーフのボルドールからの依頼で外に出ることはある。二人は進化してハイエルフとハイドワーフになって寿命は延びた。  王都に作った『龍の爪』という魔道具を主に扱う商会は俺(グレアムの名前だが)が商会主で実際の経営はハディー(母親に当たるフィメルを指す言葉)がやっている。  魔道具は日本の知識を応用したハイテク品だから危険視したハディーが売り先を厳選して売っている。だから高級ブランドになってしまった。俺としては一般に広く浅く普及して欲しいのに。  テントは最近リニューアルをしてお風呂を広くした。ベッドも大きいベッドを入れて快適生活になった。それでますます引きこもりが続く中、久しぶりにダンジョンへボルドールの依頼で潜ることになった。  Aランク以上しか入れない、アルデリア王国リュシオーン領にある、魔の森に接する、幽玄迷宮に潜る。そこに行くにはデッザが一番近く、その内デッザは迷宮都市になるかもしれない。  さて、この迷宮に入るには問題がある。俺の今の見かけはハイヒューマンでいう15歳くらい。身長は170cmでそう低くもないが、もっと子供に見えるかもしれない。(ヒューマンは15歳が成人だが)子供にはダンジョンには入れない。そもそもAランクの冒険者でないと入れないのだが、ヒューとしての俺の冒険者ランクはいろいろあってC。  ハイヒューマンも、通常200歳くらいでヒューマンの20歳位の見かけになるのだが、俺は成長が遅く、150歳の時が10歳くらい、そこからますます遅くなって20歳の見かけになるのはいつになるかわからない。寿命1万年コースかと諦めている。  寿命の長さは魔力量に比例するので魔力の多い種族が長命種ということになる。  しかし、俺には奥の手があって、時空間魔法によって肉体年齢を進めた状態にすることができる。偽装魔法も使えるが、肉体は元のままで、幻惑系の魔法耐性がある者には通用しない。肉体が実際にその年齢になるのでこっちを使う。大量に魔力を使うのでずっとは無理なのだけど。  この姿は大魔導士グレアムとして活躍した頃の姿だ。身長は180cmで近接戦闘の戦士タイプのメイルと比べるとやや細身だが、筋肉はしっかりついている。いずれ、この肉体年齢になれば、この通りになるはずだ。  俺は魔法使いがよく使うローブ姿になり、深くフードをかぶり、SSSランク(殿堂入りしているのでランクは不動)のグレアムのギルド証を見せて、入口でチェックしているギルド関係者の騒ぎを背にして俺は幽玄迷宮の奥へと入っていった。 ※ユニークスキル『百科事典』※  異世界(地球)で蓄えた知識を詳しく調べることができる。  ワンフレーズでも知っていたら詳細を知ることができる。  異世界と同等にこの世界での素材に変換して作ることができる。

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