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第2話 募る

草太は、授業が終わると急いで課題を終わらせ。友達と話していた飲み会に向かった。 「うわ……凄い……」 店に着くと草太は感嘆する。 思っていた以上に規模が多くて草太は驚く。 どうやら店を一つ貸し切りしているようで、店事体も広い。かなりの人数が集まっていて、名前も知らない、顔すら知らない人もいた。 まあ、友達が少ない草太にとってはいつもの事だ。 店に入るとすでに中は盛り上がっていた。楽しそうに飲んでいる人がほとんどで、草太が入ってきたことに気が付いていた人もいなかった。。 草太は、その中で友達を見つけて話しかける。 「よう、草太。遅かったな。飲み物たのんだか?」 「うん、課題に手間取って。ありがとう、適当に頼んだから大丈夫だよ」 「相変わらず真面目だな。課題なんて適当にしとけばいいのに」 その言葉に、草太は苦笑する。 「そうは言っても、奨学金ももらってるからちゃんとしないと。それに、僕はそんなに頭良くないから一生懸命やって丁度なんだ」 草太の実家はそんなに裕福ではない。 必死に勉強もしてなおかつバイトして、やっと大学に通えているといった状況だ。 草太が住んでいる部屋も、かなり安くてぼろい部屋を借りている。 とは言え、勉強とバイトに明け暮れているから、寝るだけの部屋と化しているが。 そんな中で、今日みたいな好きな人がいる飲み会は、忙しい生活の中で唯一の楽しみと言って良かった。 草太は友達と会話しながら、さりげなく焔次の姿を探す。 「あ……いた……」 ひと際にぎわっている集団の中に焔次はいた。 かなり盛り上がっているようで、楽しそうに話している。笑っている姿を見ると、じんわりと体温が高くなった。 今日は、本当に無理をしても来て良かったと思う。それだけで明日からも頑張れる気がする。 チラチラと焔次の方を見ながら飲む。 周りがうるさいから、どんな会話をしているのかわからない。出来ればもっと近くに行きたいけどそれは、流石にそれは無理そうだ。 まあ、近くにいても緊張して変な事を言いそうだから、これくらいが丁度いいのかもしれない。 その後も草太は、適当に友達と話して過す。 時間が経つと、店は更に人も増えて賑やかになった。 入れ替わりも頻繁になり、一緒に喋っていた友達は、いつの間にか違う席に移って女の子と話していた。 どうやら好みの女の子を見つけて口説いているようだ。 草太は邪魔をしないように適当に移動し、今度はさりげなく焔次の近くに座ってみた。 近くといっても距離は大分離れている。 周りは騒がしくて草太の行動を気にしている人間はいない。 草太はさりげなく焔次の様子を伺う。 お酒が強いとこう言う時はラッキーだ。酔っているふりをしてゆっくり観察できる。何だかストーカみたいで自分でも気持ち悪いなと思ったが、見ているだけだし許して欲しい。 「焔次くん、今日もかっこいい……」 草太はため息をつきながら、こっそりと呟く。またジワリと体温が上がった。 一人だったら、じたばた身もだえているところだ。 最近、焔次をよく観察するようになったからか、草太は表情の変化もなんだかわかるようになってきた。 今日はいつもと違って、明るい表情で楽しそうに見える。しかし、お酒を飲むペースがいつもより早い気がする。 大丈夫かなと勝手に心配をしながら、草太は怪しまれないように、適当に周りの人間と話しておく。 と言ってもあまり積極的な性格ではない草太は相槌を打って話を合わせるくらいが精々ではあるが。 まあ、相手も結構酔っているので、どんな返事でも大丈夫そうだった。 しばらくすると、飲み会も終わりに近づく。 「そろそろ帰ろ……」 いく人かは帰ったり、仲のいい人もの同士で二次会に向かったりしている。草太の友達も喋っていた女の子と、いつの間にかいなくなっていた。 焔次達がいたグループも次はどこに行こうかと楽しそうに話している。 草太は流石にそれには着いて行けない。草太は明日も授業とバイトがあるから、そそくさと帰る準備をし始めた。 「今日はいっぱい姿を見られてラッキーだったな……」 そうこっそり呟きながら立ち上がった。 学食でも会えて、飲み会でも堪能出来た。酔っていないのに体がふわふわする。 その時、焔次達がいる辺りが騒がしくなっているのに気が付いた。 「おい、おい焔次。大丈夫かよ、フラフラじゃん。飲みすぎだよ」 焔次という言葉に草太は思わずそちらを見た。 どうやら焔次はかなり酔ってしまったようだ。 焔次は、なんとか立ち上がったがよろよろ足をふらつかせた後、またテーブルに突っ伏してしまった。 今日はペースが早いなと思ってはいたが、二次会の前に潰れてしまったようだ。 周りも酔っているのか、その姿を笑いながら茶化している。 「大丈夫かな……」 流石に、草太は心配になって様子を伺う。 「これは次、行くのは無理そうだな。……あ、なあ。あんた、悪いけどこいつ連れて帰ってくんない?」 「え?ぼ、僕?」 様子を伺っていると、焔次の友達と目が合いそう言われた。 「そう、あんた。俺たち次行くから。頼むな」 「は、はい……うわ!」 焔次達のグループの一人はそう言って、酔った焔次を抱えると草太に押し付けた。 焔次はよろよろと草太に寄りかかる。 ほとんど抱きつかれるような体勢に、草太は固まった。 「家の住所は焔次に聞いて。後は適当に転がしといたらいいから」 草太に焔次を押し付けた男はそう言うと、他のみんなと店を出て行ってしまった。 「……ど、どうしよう……」 突然の展開に、草太は頭が真っ白になる。 いつもなら、また嫌な役目を押し付けられたと思うところだ。まさか焔次を介抱することになるなんて想像してなかった。 でも、いきなりこんな急接近できてしまうと、今度はどうしていいかわからなくなってしまう。 「え、焔次くん。大丈夫?」 「ん……」 焔次はもごもごとなにか呟いたが、何を言っているのかは分からなかった。意識はあるようで、なんとか歩く事は出来そうだ。 それでもあまりに近いので、草太の心臓はバクバクしている。きっと顔は真っ赤だ。 思わず、焔次にバレるんじゃないかと思ってまた心臓が高鳴った。 出来ればずっとこうしていたいと思ったが、流石に無理がある。 草太は、なんとかよろよろと店を出ると、タクシーを拾う。 焔次は草太より背が高い、一応歩いてくれたが時間がかかるくらいには酔っていた。 何とか焔次をタクシーに乗せ、住所を運転手に伝える。 焔次を押し付けた男は焔次から聞けと言っていたが、草太は焔次の住所を知っていた。 別につけたりしたわけではない。ちょっとしようかなとは思ったことはあるが、いくら自分がストーカーじみているとは言えそんな事はしてしてない。焔次のことを聞き回っている過程で知ったのだ。 それに焔次の家は、割と知られた大きなタワーマンションで。 よく友達と集まったり、女の子を連れ込んだりしているらしく、一部では有名だった。 なんとかシートに座ると。早速、焔次がもたれかかってきた。 「!っ……」 息遣いが聞こえるほど密着して、また草太は固まる。 焔次は少し汗をかいていているのか、触れる肌は暖かくしっとりしていた。何か香水を付けているのかいい匂いもする。 草太は横目でこっそり焔次の顔を見た。 短いけれどサラサラの髪が首をくすぐる。よく見るとまつ毛が意外に長いことに気が付いた。 目線を下に降ろすとシートにだらりと投げ出された手が目に入った。血管が浮き出ていてごつごつした男らしい手だ。 草太は誰も見ていないのをいいことに、そっと手を重ねてみた。 指と指を絡ませると、指の形をさらにリアルに感じる。バカみたいに心臓が高鳴った。 この手で触れられたら、どんな感じだろうと思わず想像してしまう。 体が熱くなってきた。酔っているからって、こんな風に触れるなんてあまりよくない。それなのに草太はそのまま、ゆっくり顔を近づけた。 「焔次くん……」 肌が触れそうなくらいに近づいた時。 「お客さん、この道で良かったですか?」 「っ!?え?あ、は、はい!エーっと大丈夫です。そっから真っすぐのあの、マンションの前で止まって下さい」 いつの間にかマンションの近くまで来ていたようだ。 びっくりして声が裏返ってしまった。 「んん……」 と起きたのか焔次が何か言ったのが聞こえた。危ないところだった。 草太は慌てて運転手に説明した。 無意識にシャツをつかむ、心臓がバクバクしているのがわかる。 タクシーはすぐにマンション前に着いた。 「あ、ここでいいです」 そう言って、車が止まる。 「焔次くん着いたよ」 「うん?あー……おう」 草太は焔次をかかえて車を出た。時間は深夜に近く、辺りは静かだ。 流石にこのままじゃ部屋に入れない、草太は焔次に話しかける。 しかし、焔次はまたもごもご言って、そのまま目をつぶってしまった。 草太は困ってしまう。ここに置いて置くことは出来ない。かと言って草太の部屋に連れてもいけない。 仕方なく草太は焔次を抱えてマンションに入った。 マンションは流石、タワーマンションだけあって入るとホテルみたいな待合室が待ち構えていた。 豪華なカウンターまであった。流石に今は夜も遅いので誰もいないようだ。 ぼんやりしていると、焔次が少し意識をとりもどした。 チャンスと草太はなんとか焔次に話しかけ、部屋番号を聞き出しなんとか鍵を受け取った。 そうして、草太は焔次の部屋まで連れて行くことが出来た。 「ふう、やっと着いた」 部屋に入るとベッドを探し焔次を寝かせる。 焔次はというとベッドに横たわった途端、スヤスヤ眠りだした。 「焔次くん、ごめんね。ちょっとベルト緩めるね」 このまま眠ったら辛いだろう。草太はそう言ってベルトを緩め、上着も脱がす。 いつもならただの介抱作業だから、何も感じない。しかし、焔次相手だとなんだかいけないことをしている気になる。 焔次は本格的に眠りに入ったようで何も反応はない。思わず寝顔に魅入る、相変わらず整っていてかっこいい。 「……だ、ダメだ。いくら寝てるからって……」 集中して魅入ってしまって、草太は慌てて離れる。また変なことをしそうになってしまった。 なんとか頭を冷やすために、起きた時に飲めるようにベッドの横に水を準備したりして 他にも目に付いたものを片付ける。 焔次はきっと明日には草太の存在すら忘れるだろう。それでも、好きな人の物に触れるだけで草太は嬉しかった。 「ふふ……」 本格的にストーカーみたいだ、と草太は苦笑する。 頼まれてもいない片付けがおわると、様子を見にまたベッドに戻った。 焔次は変わらずスヤスヤ眠っていた。 草太はそっと近づきベッドの横に跪く。 そうしてもう一度、焔次の顔を覗き込む。 イケメンなだけあって髪が乱れていてもカッコいい。 また、うっとりと魅入る。 今日は姿を見られただけでもラッキーだったのに、こんな風に部屋で二人っきりになれるなんて、本当に運がいい。 もし、今こんなところを他人に見られたらきっと変に思われる。 それでも、草太は焔次のそばを離れられなかった。 「そう言えば、勝手に名前を呼んじゃったな……」 友達でもないのに慌てていて、ずっと下の名前を呼んでしまっていた。変に思われてないといいが。まあ、酔っていたしきっと焔次は覚えて無い。 草太はため息をつく。 やっぱり改めて好きだと思う。 眠っている姿を見ているだけなのに、好きな気持ちがさらに増えた気がする。 胸がどんどん苦しくなってくる。 きっと、想っても想ってもこの気持ちは報われない。その分辛さは増しす。 今日の飲み会でも焔次の周りには女の子が沢山集まっていた。 「焔次くん……好き。好きだよ……」 草太は、そう言って顔を近づけた。 心臓がうるさいくらいに高鳴る。何かの機械音が、どこかで低く唸った。 こんな事したらだめだということは分かっていた。だけど周りには誰もいないし止める人間もいない。 草太はせめて思い出が欲しと思ってしまったのだ。 「報われないのは分かっている、それ以上は望まない。だから……」 そうして、草太はそっと触れるだけのキスをした。 「ん……?」 その時、焔次が急に目を覚ました。 「?!え、焔次くん!これは、あの……」 草太は驚いて、体を引く。 頭が真っ白になる、最悪の状況で焔次が目を覚ましてしまった。 焔次は、訝しげな表情で体を起こす。 「何した?」 「え、えっと……その……ごめんなさい。僕……」 草太がオロオロ答えられないでいると、焔次は草太を上から下までジロジロ見た。 「お前、誰だよ。っていうか男だよな?」 「ぼ、僕。鏑木草太(かぶらぎそうた)っていいます。あ、あの……飲み会で一緒で、焔次くんが酔ってたから送ってくれって頼まれて……それで……あの……」 草太はどもりながらなんとかこれまでのことを説明した。 「それで。なんでさっきみたいな事をするんだよ?」 焔次は眉を顰め、嫌そうに口を拭う。 「あ、あの……その……」 草太は一番聞かれたくないことを聞かれ、なんて答えたらいいか分からなくなる。こんなことをになるなんて思わなかった。 草太が服の裾をギュッと握って黙っていると、焔次はさらに眉をひそめて追い打ちをかける。 「なあ?聞いてんだけど……なにしてたんだよ」 「あ、あの。キ……キスしました……」 追い詰められた草太はパニックになりながら、答えた。 「なに?お前、俺のこと好きなの?」 「あ、あの……」 草太は後ずさった。 「早く答えろよ」 さらに焔次は追い詰める。草太はもう何も考えらなくて思わず口走った。 「す、好き……。ぼ、僕焔次くんのこと……好き……です」

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