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第6話 告白

出会いから、数日が経った—— あれからしばらく時間が経ったというのに、清隆は朝食を作ってくれた人のことを忘れられなかった。 相手は男なのに、あの白いうなじとか小柄で両手ですっぽり収まる体の触り心地とか。何より、作ってくれた朝食の味を事あるごとに思い出してしまう。 『なんでだ……?』 戸惑ったが、どうしても気になってしまい、草太はもう一度会いたいと思った。 そうなってから清隆は相手の名前を知らない事に気が付いた。 相手は自分の名前を知っていたし、飲み会で介抱してもらったのだから誰か知っているだろうと、清隆は友達に聞きまわった。 そうしてやっと名前がわかった。 名前は鏑木草太、同じ大学で同い年だった。学部は違うが共通の授業も取っていて、何度か同じクラスで授業を受けていたようだ。 ただ、どうやら草太はあまり目立たないタイプらしく、あまり情報は集まらなかった。 それでも学校内を探したら、すぐに姿を見つけられた。 まあ、同じ大学なのだ、今まで何度もすれ違ったりはしていたんだろう。意識をすると、食堂でももよく見かけるようになった。 取り合えず名前もどこにいるかもわかった。 だから清隆はお礼もかねて話かけることにした。 『気になるのは、お礼をし損ねたからだ……』 清隆はそう結論付けた。かなり迷惑をかけてしまったし、お礼をするのは当然だ。 ただ、ここで一つ問題が発生した。 話しかけようとしたら、何故か心臓がバクバクしてなかなか話しかけられなかったのだ。 それでも、食堂で草太が友達と座っているところを狙い、なんとか話しかけることが出来た。 なんとか、さりげなさを装って話してみたが草太はあの事をあまり覚えていなかった。 しかも、お礼も断られてほとんど話すことなく草太は席を立ってしまった。 『失敗した……』 清隆は、正直そのあと落ち込んだ。もうちょっと上手く話しかければ良かったと後悔した。 自分でも、なんで草太にこんなにも執着しているのかわからない。 それでも、話せた事は嬉しかったし。 そして、軽くあしらわれてしまったけどまた、話たいとも思っていた。 そんな時、驚くような噂を耳にした。 それは、草太がゲイだという噂だ。 しかも、酔った男を無理矢理襲って発覚したらしいのだ。 とはいえ不確かな噂でどこまで本当なのかわからない、清隆は信じられなかった。 ただ、同性愛者だというのは本当らしい。 清隆はその話を聞いて、何故か腹が立った。 『いや、性的嗜好は人それぞれだし……腹を立てるのは可笑しいだろ』 清隆は我に返って自分に言い聞かせる。 最初はなんでそう思ったの、か清隆はわからなかった。 でもその気持ちはなかなか消えない。 気になって、考えてやっと清隆は理由に思い至った。 自分も似たようなシチュエーションで何もなかったのに、何もなかったことに腹が立ったのだ。 簡単に言えば清隆はその襲われたらしい誰かに、嫉妬した。 その事に気が付いて清隆は正直悩んだ、最初は何かの勘違いかと思った。草太はどう見ても男だし清隆は今まで女の子しか好きにならなかったからだ。 それでも、何度自分の気持ちを否定してみたが、その気持ちは確信に変わっていった。 そうなって清隆は自分の気持ちを自覚したのだ。 そんな事を思い出しながら、清隆は草太に話しかける。 「そうだ、どこかでお茶でも飲まない?せっかく偶然会えたんだし」 清隆は、無理矢理かなと思いつつ、誘ってみる。 「お茶?……ごめん終電があるから……」 「あ。そ、そうか……」 さらりと断られ、それ以上何も言えなくなる。 また会話が止まってしまった。 薄暗い、夜道のなか遠くで車の走っている音がした。 清隆は女の子も付き合ったこともあるし、友達もそこそこいる。それなのに、こんな風に何を話していいか分からなくなるなんて初めてだった。 どうにか盛り上げたいと思うのに、何も思い付かなくてただ焦る。 焦りつつ、清隆はなんとか会話の糸口を探した。 「えーっと……そう言えば鏑木は料理上手だね」 「そう?」 「前に作ってくれた朝食凄く美味しかった。だから、凄いなあって思って……」 朝ごはんを作って作ってもらった時の事を思い出し、清隆は言った。今思えばあの時、清隆は胃袋を捕まれたんじゃないかと思う。 「そう……かな?」 草太は少し困ったような顔をして言った。 「そうだよ。冷蔵庫にほとんど何も無かったのに、あんなに美味しいものを作れるなんて思わなかったもん。きちんと自炊してて偉いなと思ってさ」 「大げさだな……そう言う速水も材料があるって事は自炊してるんだろ?お米や材料があったから作れたんだよ」 「いや、俺のはたまにご飯を炊くぐらいで、材料があったのはこの間友達数人で鍋を食べた時の残りが残ってただけだよ。しかもいつも使い切れなくて捨てる羽目になってたし。あんなにきちんとした料理なんて、滅多に作らないし作れないよ。本当に凄い」 やっと会話が盛り上がって、清隆は嬉しくてつい興奮したように話してしまう。 「また、大げさだな……」 そう言って、草太は少し微笑んだ。 「……っ、そ、そんなことないよ。本当に凄いなって……」 思いがけない笑顔に清隆は思わず動揺し、顔を逸らしてもごもご言う。髪で表情が隠れていてよく見えなかったけど、とても可愛かった。 草太は不思議だ、遠くから見るとあまり目立たなく、すぐに見失ってしまいそうな容姿なのによくよく見ると、独特の色気がある。 「僕のは節約のために作ってるだけだだから……どうしたんだ?速水、顔が赤いけど。今日も結構飲んでる?」 「え?あ、ああ……そうかも……」 清隆は慌ててそう言って手で顔をかく。そして、誤魔化すように続けた。 「そ、それよりさ。最近よく話してるんだしそろそろ名前で呼んでよ」 「え?名前?」 「お、俺も草太って呼びたい。呼んでみて」 「えーっと。清隆?でいい?」 「は、はい!草太……」 清隆は自分から名前を呼んで欲しいと言ったのに実際に言われると、また動揺して顔が赤くなった。草太は少し困惑したように言う。 「っていうか。なんで今更、名前?」 「え?えっと……と、友達になりたいなって……」 清隆がそう言うと、可笑しそうに笑った。 「え?俺、何か面白いこと言った?」 「いや、ごめん。最近友達になろうなんて、わざわざ言われたことなかったからさ……」 「あ……た、確かに……」 そう言われて、小学生みたいなやり取りをしてしまったと気付く。 また、失敗してしまったと、清隆はこっそりと草太の方を見る。 「変なの」 しかし、可笑しそうに笑う姿に草太はそんなに気にしてないようだとホッとする。 きっと、今自分は傍から見たら馬鹿みたいに見えるんじゃないかと思った。 それを自覚しつつ清隆は草太ともっと話したく、て隣をチラチラ見る。 その時、街灯に照らされて草太の顔に殴られたような痕に気が付いた。 「草太、どうしたんだ?赤くなってる……」 覗き込んでそう言うと、草太は慌てたように体を引いて「なんでもない」と言って手で隠してしてしまった。 「なんでもないって、そんなことないだろ。見せて」 清隆は少し強引に手をどかし、顔を覗き込んだ。よく見ると唇も赤く切れた痕がある。 今日、大学で見かけた時はこんな痕はなかったはずだ。 「本当に大丈夫だから、ほっといて……」 それなのに草太はそう言って隠す。 隠そうとするなんておかしい。それにさっき話しかけた時の態度は少し、変なだった。 清隆はなんだか嫌な予感がした。 「もしかして不知火に何かされたのか?」 清隆は焔次が草太に色々なことをしているのは噂で知っていた。草太が襲ったのが不知火という噂があることも、それが原因で、いじめまがいの事をしていることも。 「っ……違……」 「色々、噂で聞いた。何があったか知らないけど、もう関わらない方がいい」 草太が何かしたのだとしても、セクシャリティを周りにばらされたのだ、充分報いは受けている。それに追い打ちをかけるような行為は流石に酷過ぎる。 「本当に大丈夫だから。ちょっと当たっただけ、ほっといて」 「やっぱり、不知火に殴られたんじゃないか。そんな腫れるようなことするなんて普通じゃない」 「関係ないだろ……」 草太は途端に眉間に皺をよせ、怒ったような表情になった。 それでも清孝は、引き下がらなかった。 介抱してくれた時の草太は優しかった。焔次と何があったか詳しくは知らないが、草太が悪意をもってしたとは思えない。 それに、間違いがあったとしても焔次の仕返しの仕方は間違ってる。 「か、関係なくない!友達だろ?ほっとけるわけない」 そう言うと草太の表情は不審げになって、訝しげな視線を清隆に向ける。 「なんなの?友達だからってそこまで詮索する方がおかしいよ。何がしたいんだ?」 「何がって……」 そう言われて清孝は言葉に詰まる。 「そもそも、清孝の家って僕の家と逆方向だろ。なんでそんな嘘つくんだ」 「え?あ!そ、それは……」 なんでばれたんだと思って、清隆は草太に介抱された事を思い出した。家の場所を知っていて当然だ。 「はぁ……まあ、いいや。僕は帰るよ」 口ごもっていると、草太は諦めたようにため息をついて、一人で歩き出した。 「まって!す、好きなんだ!」 清隆は慌てて草太の手を取り、思わず口走る。 「はあ?何言って……」 「言っておくけどこの好きは、友達の好きじゃない……」 清隆はさらにギュッと手を握った。 「清孝……」 「好きなんだ……」

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