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第8話 友達としての距離
草太に告白して、数日が経った。
それから清隆は何かが吹っ切れたように、草太に話しかけるようになった。
自分の気持をしっかり自覚出来たのもあるが、草太は清隆が好きを言ったことを信じていないようだった。だから、清隆は遠慮することをやめたのだ。
このままだと、きっと一生わかってもらえない。それなら何か行動するしかないと思った。
「草太、偶然だね」
そう言って清隆は草太に話しかける。
授業が重なれば必ず隣に座り、お昼は待ち伏せしてまで喋りかけた。
なんだかストーカーみたいだと思いつつ、清隆は積極的に動いた。
変に警戒されたらダメだと思って、友達を連れて話しかけたりもした。人が多ければ楽しいだろうし、噂の所為で孤立していることが多い草太にとってもいいと思ったのだ。
「隣に座っていい?」
そう言うと、草太はいつも困ったような顔をしていたが、断ることは無かった。
清隆はもっと草太と仲良くなりたい、草太の事を知りたいと思った。
清隆は草太に近づけば近づくほど好きになる。草太が振り向いてくれなくてもよかった。
声を聞くと、それだけで胸が高鳴る。たまに合う視線に体が熱くなった。
こんなに夢中になるなんて思わなかった。
「草太、おはよう」
「あ、清隆、おはよう」
今日も清隆は草太に話しかける。今日は朝から会えた。
草太はいつも通りに控え目な挨拶を返す。
でも、草太は声をかけたのが清隆と気がついたら、周りを気にしたようにキョロキョロした。
「どうかした?」
「いや、今日は一人なんだと思って」
「え?なに?誰かに用事でもあった?」
清隆は少し、不安になった。
「いや、別にそういうわけじゃないけど……」
「紹介してほしいとかだったら、ごめんだけどこできないよ」
もしかして友達の中に気になる人物でもいるのだろうかと思ったのだ。友達を連れていくのは清隆なのに、自分以外に興味をもたれるのは面白くない。
「へ?なんのこと?」
「なんでもないならいいんだけど……」
草太の返事は素っ気なくて、清隆は少しホッとする。
「変なの。紹介して欲しいなんて思ってないよ……ただ、ちょっと人が多いのが少し苦手で……」
草太は、少し困った表情で言った。
「え?そうだったの?ごめん。じゃあ、今度から一人で話しかけるよ。二人っきり
で話そう!」
「なんでそんなに嬉しそうなの?っていうか僕に話しかけてないで、友達の方を大事にした方がいいんじゃないかって思うんだけど……」
草太は少し呆れた表情でモゴモゴ言った、しかも最後の方は何を言ったのか聞き取れなかった。
でも清隆は二人っきりで草太と話せることと、友達に興味があるわけじゃないことに浮かれて気にならなかった。
「今日は授業は何を受けるの?お昼は一緒に食べれる?」
「話聞いてない……まあいっか……」
草太は少し呆れたように言いつつ会話を続ける。草太と清隆は、どうやら午後からの授業が一つ同じのようだ。
「じゃあ、お昼一緒に食べて授業に行こう」
草太は頷き、そうしてはお昼の約束を取り付けた。
授業が終わると食堂に行った。約束通り清隆と草太は一緒に食事をすることに。
朝、言われた事を受けて、清隆は友達を連れては行かなかった。友達には誘われたが断った。
「なに食べる?」
「うーん、値段的にこれかな……」
そんな会話をしながら注文をした後、二人で座る。
最初の頃は、緊張してあまり話せなかったけど最近はかなりスムーズに話せるようになった。
他愛ない会話が楽しく。一緒にいられて嬉しいなと思いつつ、清隆は草太の顔をこっそり伺う。
髪の毛で顔半分が隠れてしまっているが、頬っぺたがモグモグ動いているのが見える。
好きな人なら、何かを食べている姿まで可愛いなと思う。
そこで、今日は草太の表情がやけに暗いことに気が付いた。何あったのだろうか。
「あれ?また、赤くなってる?」
よく見ると顔に殴られたような跡があるのに気がついた。
言うと草太はさらに俯き手で隠す。
「何でもない。気にしないで」
「気にしないでって、そんなわけにもいかないよ。またあいつにやられたんじゃないのか?」
清隆は思わず責めるような口調で言ってしまう。あいつとはもちろん不知火焔次の事だ。
草太が焔次に呼び出されているのは相変わらずのようで、清隆は気になっていた。
「……」
「やっぱり……」
草太は言い返さない。清隆はやっぱりと確信する。
なんで、あんな奴の言う事を聞いているのか分からない。何か理由があるのだろうか。
もし、困っていることがあるなら知りたい。
「大丈夫だから、ほっといて……」
「……でも」
草太にきっぱり断られてしまった。出来ればどうにかしたいが、まだ友達という段階の清隆にはこれ以上踏み込めない。
あまり、しつこくしても嫌われてしまうかもと思うと、これ以上は言えなくなる。
清隆は仕方なく食事に戻る。そうすると、草太もホッとした表情で食事に戻った。
清隆はついでのように、不知火焔次の事を思い出す。
とは言え、清隆は焔次の事はそこまで多くは知らない。
焔次は大学内でも目立つグループに属していた。
派手な格好でいつも飲み会やイベントのようなものを開いたりして、遊んでいる姿を見かけた。
まあ、大学というのは就職するまでの遊べる時期でもあるから、そういう人間がいるのはわかる。それに、関わらなければ特に問題ないことだ。
だから清隆は焔次のことはあまり知らないのだ。
ただ、男から見ても整った顔に、親が有名人なので入学当時から知られていたし、女の子からも人気があった。
悪い噂も少し聞いた。
不誠実に女性をとっかえひっかえしたり、一晩だけの関係を持って捨てられたという女の子の話。それ以外にも、焔次の家はよく人が集まり、いわゆるヤリ部屋になっているなんて噂まである。
本当かどうかも分からないが、それを聞いただけで関わっちゃいけないと分かる。
清隆は同じ大学でも別世界の人間のように感じたし、正直あまり関わりたくはないと思っていた。
そんな噂しか聞かないのだ。清隆が草太を心配するのは当然だった。
なんとか出来ないかと思うが、その糸口すら見つからない。
草太は控え目だしあまり抵抗出来ないのかもしれない。
「ごめん……でも本当に大丈夫だから。……心配してくれてありがと」
清隆が心配そうにしていると、それを察したのか草太は申し訳なさそうな表情をしつつ、そう言って微笑んだ。
「いや、俺こそごめん……余計な事言って。えーっと、そうだ。次の授業のことなんだけど……」
「あ!速水くん!偶然!ねえ、一緒に食べていい?」
草太の控え目だけど可愛い笑顔に清隆がドギマギしていると。突然、友達の一人が話しかけてきた。
その子は最近友達になった女の子で明るくて可愛く、積極的な性格のようだ。よく話しかけてくる。
「え?えーっと。今、草太と食べてるから……」
清隆もそんなに鈍感な方ではない、その子が自分に気があるのは気が付いていた。
草太の方をちらりと見る。変な誤解をしてもらいたくない。
それに今日あまり人が沢山いるのは苦手だと言っていたところだ。一人くらい増えても大丈夫かなと思うが、草太が嫌そうだったら断りたい。
それに、清隆としては草太と二人で話す方が楽しい。
「ああ、僕はもう食べ終わるから代わるよ」
しかし、草太はあっさりとそう言ってトレー持って立ち上がる。
「え?草太?」
最後まで一緒にいられると思ったのにと、清隆はがっかりする。
「え?いいの?ごめんね~」
女の子は嬉しそうにそう言うと、草太が座っていた椅子にさっさと座ってしまった。
清隆は流石にもう草太と一緒に食べようとは言えない。
「授業も一緒に行こうって言ってたのに……」
清隆はこっそりと呟き草太の後ろ姿を見送る。草太はあっという間に食堂を出ていった。
男同士というのもあるのだろうか、なかなか上手くいかない。
その時、清隆はふと視線を感じて振り返った。
そこにはまさに話題に出た焔次がいた。
友達と連れだって食堂から出て行くところだったようだ。
意味深な目線でこちらを見ていたが、焔次はすぐに友達と話初め食堂から出ていった。
しかし、気のせいかもしれない。そう思いながら、清隆は話しかけてくる女の子と話し始めた。
草太との距離は相変わらずだった。分厚い壁を感じる。どうにかしたいと思うが清隆はこれ以上どうすればいいのかわからなかった。
その後も、清隆は諦めず草太に話しかけた。
しかし、あまり進展と言えるような事はおこらなかった。草太は優しいが、控え目だからなのか少し踏み込んだことを言うとすぐに引いてしまうのだ。
そんなある日、珍しく草太から話しかけてきた。
「どうしたの?」
朝、大学に向かう道でのことだ。今日は草太に会えるだろうかと考えていた時、後から草太が話しかけて来て、清隆は驚いた。
いつも清隆が話しかけるばかりだったので、清隆はそれだけで嬉しくて顔がにやけそうになる。
そんな清隆には気付いていないのか、草太はなんだか言いにくそうに口を開いた。
「あー、ええっと。前さ、お礼にって食事に誘ってくれたよね?」
「ああ、そうだね」
「あれって、まだ有効?」
草太はそう言って遠慮がちな上目遣いで言った。
その表情があまりにも可愛くて、一瞬見惚れた。
「……も!勿論だよ!」
「前、断ったのに……なんか今更だよね……」
「そんなことないよ!嬉しい。どこか行きたいところある?食事以外でもいいよ。あ!ここの間出来た新しい施設とかどう?あ……でも人が多いのは苦手なんだっけ。じゃあ……」
清隆は嬉しくて思いつくまま喋る。その勢いに草太は少し引いたような表情になってしまった。
清隆は慌ててトーンを落す。
「行くところはどこでもいいよ、清隆の行きたいところでもいいし……」
草太は苦笑いをしつつもそう言った。二人で譲り合っていて何だか可笑しくなる。
結局、行く場所は二人で相談して決めることにした。
そうして、清隆は草太とデートすることになった。
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