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第15話 底にある本当

それから清隆は、焔次の言った通り何度も犯され、いつの間にか疲れて寝てしまった。 清隆は、ゴソゴソという物音で目が覚めた。 顔を上げると、外はうっすら明るくなっている。音の方を向くと草太が、帰る準備をしているのが目に入る。 「っそ、草太!待って。俺も帰る。って、あーもう、重い……」 清隆は慌てて起きる。しかし、何かが体に乗っていて動けない。なんだと思ったら、焔次の腕がガッチリ回されていて動けなかったのだ。 清隆はもがいて、なんとかベッドから抜け出す。 「っくそ、何がしたいんだよ……っ」 焔次の目的が本当にわからない。最初はたちの悪い、悪ふざけかとも思っていたが、それにしては長い。 「っ痛……」 清隆が歩き出そうとして、体に痛みが走る。 今日も何度も揺さぶられたから、擦れたところがヒリヒリして痛い。 よく見ると、所々噛まれた跡もある。 本当にこんな事をして、何が楽しいのか分からない。 その途端、足の間からどろりとした物が垂れてきた感触がする。 「っ……」 ゾワリと鳥肌が立つ。入れられたものが流れ出てきたのだ。一度や二度の量じゃない。 清隆は慌ててシャワーを浴びに行く。 何とか入れられた物を掻き出し、シャワーから出たところで「じゃあ、僕帰るから」という草太の声が聞こえた。 「草太。待って!」 清隆は、慌てて服を着て草太を追う。 少し追いかけると、なんとか草太に追いついた。 「なに?」 声をかけると、草太は迷惑そうに顔を上げる。 「ちょ、ちょっと来て」 清隆はそう言って草太の手を取ると、ある場所に連れて行った。 「何か用?」 連れて行った場所は清隆の家だ。 「怪我が気になったから……」 清隆はそう言って救急箱を持ってくると、傷の治療をする。 焔次は相変わらず草太を殴るから、草太は傷だらけだ。 清隆が見ていたら、なんとか止められるのだが、焔次は清隆が見ていないところでも草太を殴っているようだ。 草太は抵抗も逃げもしないから、いつも傷だらけになっているのだ。 見ているだけで辛い。 「別にいいのに……」 草太は面倒そうに言う。しかし、清隆の治療はさせてくれた。 治療と言っても傷に消毒液をつけて、腫れているところに湿布を貼るくらいだ。 「なんで、あんな奴のこと好きなんだ?」 清隆は半分呆れながら言った。治療した以外にも、数え切れないくらい小さな痣や傷がある。 「ほっといてよ……」 「でも……」 「好きなんだ、理屈じゃない」 「でも、焔次がしていることは酷すぎる、せめてもっと距離を置いた方が……」 「清隆こそ、いつまで僕につきまとうの?いい加減諦めてよ」 草太も呆れたように言った。 「それは……」 好きだからと思ったが、清隆は黙る。清隆も明確に説明は出来なかった。どう考えても草太を好きな理由を上手く説明できない。 いっそ事、嫌いになれればよかったのにとさえ思う。 結局、清隆も草太も同じ理由でここにいるのだ。 会話が途切れる。 「焔次は何であんな事をするんだろう……」 「……」 清隆は、ふと疑問に思っていた事を口にした。草太に聞いても分からないと思ったが、会話を続けたかった。 しかし、草太は俯いて何も言わない。 まあ、それは最近ではいつものことだ。 清隆は取り敢えず会話を続ける。 「本当に何が楽しいんだろう。焔次は別にゲイって訳じゃないだろ……ま、まあ俺も違うけど……」 焔次は大学でも、女の子といる事が多い。それに、焔次に関する噂は女の子関係が大半だ。まあ、焔次がただ両刀なだけの可能性もある。 清隆だって女の子としか付き合った事は無かったのに草太を好きになったのだ。とはいえ、なにかきっかけがありそうではある。 清隆はもごもごと言う。 「でも、草太は特別だから。でも……そうなると俺もゲイってことになるのかな?」 自分でも、何が言いたいのか分からなくなってきた。 「……どうでもいいよ」 草太は、ぼそりと返事をした。 「……そ、そうだね」 清隆は素っ気ない草太の返事に、苦笑いしつつ答えた。 また、沈黙が流れる。何を話せばいいのか分からなくなってしまう。 治療のために手に取った、草太の手を見下ろす。 草太の手は清隆の手より白くほっそりしていていて、どこか儚げであっという間に壊れてしまいそうで怖くなる。 そうこうしているうちに、あらかたの治療が終わった。今日もなにも変わらなかったと救急箱を片付けようとしていると、唐突に草太が口を開いた。 「焔次くんが、何であんな事するか知りたい?」 「え?……草太、知ってるの?」 思わぬ言葉に、清隆は驚いて聞き返す。 そんな明確に原因があるとは思わなかった。でも、やめさせる手立てになるかもしれない。 少し希望が見えた気がして、清隆は嬉しくなる。 しかし、草太から出た言葉は信じられないものだった。 「焔次君は清隆の事が好きなんだよ」 「は?」 ********** 草太の言葉に固まってしまった清隆を見て、草太はボソリと言った。 「やっぱり気付いていなかったんだ」 草太は、自分で言って涙が出そうになったが、見られたくなくて俯く。 こんな事実、言いたくなかったし気が付きたくなかった。 「さっき清隆が言った通り焔次くんはゲイじゃないよ。そうなったら考えられることは一つしかない」 草太は出来るだけ淡々と言った。 清隆は慌てたように口を挟む。 「で、でも。不知火は“面白そうだから”とかそんな事言ってたし。ただ単に遊び半分でとか、加虐趣味があるとかそんな理由じゃないのか?」 確かに一見するとそうだが、ずっと焔次を見てきた草太にとっては違う。 「焔次くんは本当に男には興味ないよ。焔次くんの噂くらいは知ってるでしょ?」 「う、うん……まあ。でもあんまりいい噂は聞かないし、悪趣味なのは変わらないと思う……」 清隆がおずおずと言う。 確かに焔次の噂にいい物はあまりないし、大体が真実だ。 呼び出されるようになって、草太は実際に見ている。 焔次は顔も良くてお金もある、近寄ってくる女の子は多く焔次はそれを拒んだりもせず、気に入ったら片っ端から手をつけてる。 下手をすれば、複数でするくらいはしているかもしれない。 それでも焔次は、男とするなんて今まで無かったし興味も無かったはずだ。 唯一、草太に初めてしゃぶってみろと言った時だって本当に興味本位って感じで、草太の体に触れようともしなかった。 「僕が勃たせようとした時凄く時間がかかってやっとだったのに、清隆の時はそんなことしなくても勃してたし。そもそも何回もするなんてありえなかったのに……」 草太は言いながら俯く。 草太が後をほぐすのも興味なさそうで、行為が終わってもこちらを見ることもなくどこかに行ってしまった。 草太から見たら清隆との違いは歴然としていた。 「まさか……そんな事……」 清隆は困惑した表情で言った。 草太も最初はそう思った。でも清隆に対する執着は焔次らしくない。そもそも、焔次は女の子でもあんな風に何度も家に呼んだりもしない。 すぐに飽きたら捨ててたし、自分から去っていく女の子も追ったりもしない。今思えば食堂で焔次と目が合ったのも草太を見ていたわけじゃなくて清隆を見ていたんだろう。 ——草太は、清隆を騙すように言われた時のことを思い出す。 あれは、焔次に清隆のことを初めて聞かれて数日後のことだった。 この時の焔次は、不機嫌で少しイライラしていた。 『なんでそんな事……』 『お前には関係ない。黙って言う事聞いとけ』 正直、あまり気は進まなかった。人を騙すなんて性に合わない。 でも同時に、これで清隆に変に絡まれる事もなくなるのではないかと草太は思った。 『……じゃあ、言う事聞く代わりに成功したらキスして欲しい』 ついでに、草太は下心が湧いてそう言った。ダメ元だったが、言うくらいならいいと思ったのだ。 そう言うと焔次は訝しげな顔をした。 『はぁ?』 『そうしたら、なんでもする。お願い』 焔次は少し考えていたが、ニヤリと笑って言った。 『まあ、いいか聞いてやってもいいぜ』 そうして草太は清隆を誘ったのだ。 この時も、草太はまさか焔次が清隆を好きだなんて思ってなかった。なにか、新しい遊びなのかと思っていた。 でも焔次は熱心に薬を用意したり、メールで綿密に連絡を取ったりしていて明らかにいつもと違ったのだ。 「焔次君は僕を簡単に殴るけど、清隆を殴ったりはしないだろ?キスだって僕がやっとの思いでしてもらったのに清隆には簡単にする……」 「そ、それは嫌がってるのを喜んでじゃ……それに……俺は焔次とほとんど喋ったこともなかったのに……」 「なんで焔次くんが清隆を好きになったのかは知らない。……でも分かるよ、僕はずっと好きだったんだから」 こんな関係になる前から草太は焔次のことは見ていた。好きな物、嫌いな物くらい表情の変化でわかる。 分かってしまう。 それでも草太は焔次の言う事には逆らえない、だから3Pなんてことも従った。 好きな人が他の、しかも男としているのを見るなんて最悪だった。 せめて、女の子だったら諦めもつくのに。 草太が清隆を睨む。 「草太……」 「大っ嫌いだ……」 「っ……」 最初、草太は清隆の事は普通に苦手だった。 清隆に嫌いだと言った時の言葉も本音だ。本人は善意のつもりなのかもしれないが、善意だからこそ断りずらいし、つきまとわれて正直迷惑だった。それに、あれだけ言えば流石にもう話しかけて来ることも無いだろうと思っていた。 それでも、清隆は変わらず付きまとってくるし、焔次に特別扱いされるのを見てさらに嫌いになった。 こんな事、ただの逆恨みだってことは分かっていた。 憎しみと嫉妬で心が真っ黒になる。 こんな、自分はもっと嫌いだ。 「はは……」 草太は自虐的に笑う。 可笑しくてたまらない、それと同時に涙がポロポロ出た。 清隆は唖然としたまま何も言わない。 草太はバラバラになった心をなんとかかき集め、清隆の家を出ると自分の家に帰った。

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