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第17話 最初のきっかけ

——焔次が清隆を好きになったのは、ある暑い日の事だった。 その日は記録的な暑さだった。 日差しは刺すように照らし、二日酔いだった焔次の脳味噌は湯だったようになっていた。 周りの空気は体にまとわりついて、息を吸うのも苦しい。 そう思っていたら突然地面が揺れ、焔次は気がついたら動けなくなってしまっていた。 やばいと思ったが体が上手く動かなくなっていた。暑いはずなのに手足が冷たい。 意識が遠のく、もうダメだと思ったそんな時。冷たい手が額に触れ、誰かがこちらを覗き込んだ。 その瞳は、心配そうにこちらを見ていた。 一瞬その瞳に目を奪われる。それは、深く透明ば海を覗いた時に見た水底のように美しかった。 朦朧とした意識の中で、それが鮮明に印象に残った。 そして、そのキラキラとした美しい物はずっと心に残って引っかかり続けた。 今なら分かる。 一目惚れだったのだと。 それが、清隆との出逢いだった。 『大丈夫か?』 そう言って清隆は焔次に声をかけ、ふらふらになっていた焔次を日陰のベンチに寝かせた。 その時、焔次は自分がなんでこんなにふらふらになっているのかも、よくわかっていなかった。だから声をかけてもらったのは本当に助かった。 後からわかったが、あの時は二日酔いと暑さで熱中症になりかかっていたのだ。 清隆は焔次をベンチに寝かせると、テキパキと濡れたハンカチを額にのせ、自販機で冷たい飲み物を買って首元や脇を冷やす。 しかも、意識が朦朧としていた焔次にしばらく付き添う事までした。 乗せられたハンカチは冷たかったが、なにより清隆の手はひんやりとして優しく心地よかった。 『今日は無理せず家に帰るか、大事を取って病院に行った方がいいよ』 清隆は、焔次がある程度回復したのを確認すると、そう言ってその場を離れた。 まだ、少しふらついていた焔次は、ろくに礼も言えずただぼんやり清隆を見送った。 おそらく清隆にとっては何気ない事だったんだと思う。 助けたことも当たり前みたいな態度だったし、その後話した時も清隆は助けた事自体忘れているみたいだった。 しかし、焔次はその事を忘れることができなかった。 最初は、礼すら言わなかった事が、気になっているんだと思っていた。 だから、手っ取り早く名前を調べて会いに行こうと思った。 助けてくれたのが、速水清隆という名前だと言うことは、割と早く分かった。大学内でも目立つ存在だったからすぐだったからだ。 実は、焔次は清隆の存在事態はは知っていた。 主席で入学、容姿端麗で性格もいいとなれば話題にもなるし、自然と焔次の耳にも入っていた。 『そんな、作り話みたいな人間、本当にいるんだな』 『まあ、関わり合いになることも無いだろ』 『そうだな』 そう友達と言い合ったのを覚えている。 焔次は不真面目でろくに勉強もしてなかったから、真逆といってもいい人間だ。 しかも人間関係も全く被らなかったから、本当に入学以降関わり合いになることは無かった。 だから助けてもらった時、名前と顔が一致していなかったのだ。 まあ、そもそも二日酔いで正常な状態じゃなかったから、知っていたとしても思い出せたかどうかは怪しいが。 お礼は、簡単のはずだった。ついでに返しそびれたハンカチも返そうと軽く考えていた。 しかし、焔次は直前で返そうとしたハンカチがしわくちゃのままなことに気が付いた。 『……これは、流石に汚い……よな……』 そう思った焔次は、クリーニングに出しすことにした。 店員には変な顔をされたが、アイロンも持っていない、まともに洗濯をしたこともない焔次には、これが一番確実なやり方だった。 ハンカチは綺麗になって戻って来た。 焔次は、これで大丈夫だと思って、今度こそ声をかけようと思った。 しかし、またもや直前に新しいハンカチを渡した方がいいのではと、思い至った。 『ハンカチとか買ったことねーよ……』 そんな小物をわざわざ買うことも無かった焔次には、どこに売っているのかもよく知らない物だった。 それでも、そのまま返すのも何か違うと思った焔次は。なんとか調べて店に買いに行った。 結局焔次は、ハンカチ一枚買うだけで、何件も店を回って探した。なかなかいいと思える物が見つからず、一般的な店や雑貨屋、高級店にまで回った。 結局一日かかってしまったが、何とか買えた。 『めんどくせーな、なんで俺がこんな事』 そう焔次は呟いた。 そのくせこの時、焔次はずっと清隆の事を考えていた。 清隆に似合いそうな色を考えたり、これを清隆が受け取ったときにどんな顔をするだろうと思ったら、なんだかやたらと楽しかった。 そうしてハンカチも買えた焔次は、後は話しかけてお礼とハンカチを渡すだけになる。 ——しかし、いざ話しかける段になると、何故か緊張して上手く言葉が出なくなってしまった。 何度か試したがその度に言葉に詰まり、ただ横を通り過ぎるだけしかできなかった。 『何でだよ……』 焔次は一人、呟いた。 こんな事初めてで、理由もわからない。 今まで付き合った女のことで、こんな事になった事はない。 気に入ったら気軽に声をかけて、適当に話せば大抵ホテルでもなんでも連れ込めた。 なのにお礼一つ言えないなんてあり得ない。 それに、清隆の事を考えるのを止められない。覗き込んだ時のあの瞳の事は、事あるごとに思い出し。声をかけたらどんな反応をするだろうかと考えだすと止まらなくなる。 そして、それはどんどん酷くなった。 焔次は、大学内や食堂で清隆を見かけて思わず目で追ってしまうようになった。無意識に噂も集めていた。 焔次は、自分でもなんでこんな事をしているのか分からない。 そんな時、焔次は変な夢を見た。 その夢の中で、焔次は清隆と仲のいい友達だった。清隆は焔次に笑いかけふざけたり喋ったりしていた。 そして一日遊んだ後、清隆と焔次は何故か同じベッドで二人で寝る。清隆は隣でぐっすり眠っていた。 焔次は、とても幸せな気持ちだった。 目を閉じてスヤスヤ眠っている清隆の顔は、端正で綺麗で焔次は思わずキスをした。 『は?……』 目を覚ました時、焔次は唖然とした。なんで、そんな夢を見たのかは分からなかった。 とは言えそれはただの夢だ。夢が変な展開になるのはよくあることではある。 焔次は自分にそう言い聞かせた。 最初はそれだけだった。何かの間違いだろうと。 その時はそれで終わった。 しかし、焔次はその夢を何度も見るようになった。しかも、どんどん変な方向に向かっていく。 焔次はいつも清隆と一緒で、最後はいつも二人でベッドで眠る。そうして眠っている清隆に焔次はキスして夢は終わる。 しかし、数日経つとキスだけじゃなく、次は体に触れ、服を脱がせ、最後には清隆と体を重ねるまでに至った。 そこまでいくと、焔次は流石に変だと自覚した。 今まで男とそんなことをしたいと思った事は無いし、ましてやしたこともない。 『男が男にこんな事思うはずない、俺はこんな事考えるはずない』 焔次はそう否定した。 もしかしたら欲求不満なのかと思って、女を呼んで発散してみた。一度など複数でやってみたがそれでも状況は変わらなかった。 そんな時、焔次は飲み会で泥酔してしまう。 悩み過ぎて、気を紛らわせたくて飲み過ぎた。飲み会の後、焔次が気が付つくと、自分のベッドにいた。 どうやって帰ったっけ?と思っていると誰かが自分にキスをしていることに気が付いた。 焔次は驚いて起きる。しかも、相手は男だった。 後からわかったが、そいつが草太だ。 名前は知らなかったが、最近周りでチラチラ顔はよく見かけていて、何となく顔は覚えていた。 問い詰めると、草太は焔次が事が好きだと告白した。 焔次はそれを聞いて、何故か無性に腹が立った。だから、殴って追い出した。なんだか卑屈そうでなよなよした感じも気持ち悪かった。 それでも気が治まらなかった焔次は、その事を友達や知り合いに広める。 『ざまあみろ』 なんで腹が立ったかは、その時は考えなかった。 噂はあっという間に広がって、草太は気持ち悪いと嫌悪され孤立したようだ。 焔次はそれでやっと気が治まった。少なくとも、もう周りをうろつかれる事はない。 今から思えばその時腹が立ったのは、自分の考えを草太に否定された気がしたのだ。男が男を好きになるなんてあり得ない。それなのに、草太はそれを真向から否定した。 ——しかし。その後、予想外の事が起こった。 清隆が草太に、話しかけるようになったのだ。 焔次には出来なかったことを、簡単に実行している草太を見て、焔次はさらに腹が立った。 『ホモの癖に、何であいつが……』 またイライラした焔次は草太を呼び出し、八つ当たりをして気を晴らすようになった。 草太は相変わらずうじうじした態度や被害者ぶった態度で、見るだけでイライラしてくる。 だったら、呼ばなければいいのにそれでもせずにはいられなかった。 それで多少、焔次の気分は晴れたが清隆に話しかけられないのは変わらないし、変な夢を見るのも変わらない。 むしろ前より酷くなった。 夢の中で二人は完全に一線超えていて、朝起きると夢精までしている始末だ。 そこまで来ると流石に焔次は悩んだ。しかし、他人に相談なんて出来なかったし、相談するなんて考えもなかった。 そんな時、家に呼んで雑用をさせている草太を見て、ふとこいつとヤッてみたらあの変な夢の答えが見つかるかもしれないと思った。 焔次にとって男相手に勃つなんてあり得ない。何も無ければやっぱりあれは気のせいという事になる。 『最近面白いことないからさ、ネタになるだろ?だから、しゃぶれ』 焔次はそう言った。 実際、草太にフェラをさせたが、焔次はなかなか勃たなかった。刺激されればそれなりに反応するが、男にしゃぶられていると思うだけで萎える。 焔次はその事に、ホッとする。 やっぱりあれは、ただの夢で清隆が出てくるのは何かの間違いだ。 その後焔次は、好奇心もあって草太に入れてみた。 女とは感じも違うがそこそこ気持はいい、でも目に入る体はどう見ても男だし変に男の声がするとまた萎える。 やっぱり俺は違うんだと確認した時、ふとこれが清隆だったらと考えた。 体格は違うが、同じ男なんだだから清隆に入れたらきっとこんな風に締め付けるんだろうとやたらリアルに想像してしまった。 その途端、焔次の体温が一気に上がる。 くらりと眩暈がするくらい中心に血が集まって、自分の物が大きくなるのがわかった。 焔次は清隆の顔を思い出して、夢中になってに腰を打ち付けた。夢で清隆とした記憶が蘇える。 そして、出した時の快楽は強烈だった。 草太が帰った後、焔次はしばらくぼんやりする。男となんてあり得ないと思ったのに、清隆のことを思い出しただけでイってしまった。 そうなったら考えられることは一つだ。 でも、焔次は寸前でその考えを否定した。 受け入れられなかった。 『俺は、清隆のことなんて何とも思ってない……』 焔次は、無理矢理そう思い込むことにした。一時の気の迷いで、そのうち消えてしまう。 それでも焔次は、あの気持よかった感覚が忘れられなかった。それで、たまに草太を呼んで相手をさせるようになった。矛盾している事は分かっていた。 それでも、他で発散できなかったから、仕方がない。焔次はそうやって言い訳をした。 そんな中、草太がよく清隆と喋る姿を多く見るようになった。以前からそうだったが、頻度がやたら多い。 だから、気にしてないと思っていたのに焔次は、思わず草太に清隆のことを聞いてしまった。 『 ——あ、でもこの間偶然会って、好きだとか何だとか言われた』 草太の口から出て来たのは、そんな思いがけない言葉だった。 その時はなんとか平静を経もてた。 でも草太が帰った後一人になって、そうなって初めて焔次は清隆の事を好きなんだと自覚してしまった。 でもそれは、同時に失恋したと言うことだ。 『……なんだよ、それ……ふざけんなよ』 初めて感じた気持だった。他人の事を考えて、こんな最高の幸せと最悪の絶望を味わったことはない。 そして分かったことは、この気持ちは一生報われないということだ。 清隆はもうあの目で焔次を見ることも、夢で見たように仲良くベッドで眠ることもない。 絶対に手に入らない。 『……だったら……だったらめちゃくちゃにしてやればいい』 焔次はそう呟いた。 そうして、焔次は草太に清隆をだましてここに連れて来るように言ったのだ。 ——全てを壊すために。 清隆は簡単に騙された。 誘った草太を疑ってもいないようで、二人で映画を観たり買い物をした後、焔次の家に来た。 家に入ってしまったら、もうこちらの物だ。 薬を盛って動けなくなった清隆は、焔次の思い通りになった。 清隆の服の下は想像したより綺麗で、均整が取れていて触れるだけでゾクゾクして興奮した。 それに、清隆の中は狭くて熱くて最高だった。入れただけでイキそうになってしまい、必死に我慢した。 『これで、清隆は俺の物だ……』 もっと、早くこうしておけばよかった。 なにより清隆がこちらを見た。 ポロポロ涙を流す顔も、憎しみに歪む顔も、絶望で涙を流す姿も焔次の胸を高鳴らせた。 もっと他の顔を見たくて焔次は色々酷いことも言った。 予想外だったのはレイプした写真で脅しても、清隆が従わなかったことだ。 おかげで、邪魔者の草太も一緒に呼ばないといけなくなってしまった。 脅しの材料があれば、二人っきりになれると思ったのにこれは計算外だった。 まあ、草太がいれば清隆はいう事を聞く。 それに、草太がいると清隆の反応がいいのだ。草太に挿入させて、背後から犯すと顔を真っ赤にさせながらも感じてイク姿は、何度見ても飽きない。 そうやって、焔次は清隆を何度も犯した。 回数をかさねる度に、焔次は清隆の体に夢中になった。最初はきついだけだった後孔も回数を重ねると慣れて馴染んできてどんどん具合がよくなる。 夢で見たより、草太とするより何倍も気持がいい。 もっともっとと喉が乾いたように、欲求が湧いて止まらなくなった。 そんな時、清隆に思いがけない事を言われた。 『俺のこと好きって本当なのか?』 その時、清隆の真っ直ぐな目を、焔次は初めて怖いと思った。 逃げたくなったけど、引き寄せられてキスされた。 なんで、こんなことになったのかわからなかった。だけど気がついたら本当の気持ちを言っていた。 絶対に言えないと思っていた言葉。 『っ清隆……清隆……好きだ』

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