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第19話 独占欲
「キスして」
「はあ?なんでそんな事……」
清隆は驚き、眉をひそめた。
「んじゃ、飲み会に行こうかな」
すかさず焔次はそう言って、スマホを取り出し操作しまた電話をかけるフリをした。
「っ……わ、わかったよ!するよ。すればいいなだろ」
清隆は慌てて止めた。時間が迫っているのだ。
「やった」
その言葉を聞いて焔次はスマホを仕舞う。
思わぬところで面白いことになって嬉しくなる。清隆は怒った表情になったが、覚悟をきめたのか、焔次の前に立ち目を閉じた。
しかし、焔次は動かずニヤニヤとそれをただ見る。
「……?しないのか?」
何もしない焔次に、不信そうな顔をして清隆が言った。
「そっちからして」
焔次はそう言って、自分の唇を指差す。当然だ焔次からするなんて、そんなの面白くない。
そう言った途端清隆は怒った顔で怒鳴る。
「っ……なんで、俺が!……」
しかし、焔次は余裕の表情で答える。
「あんまり騒ぐと草太が起きるぞ……」
焔次がそう言うと、清隆はハッとした表情で草太がいる部屋の方を見た。
「わ、わかったよ」
清隆は少し考えた後、悔しそうな表情をしながらも頷いた。
そうして、ためらいつつ焔次に近づく。
焔次がじっと見つめると清隆と目が合う。その途端、清隆は顔を赤くしてキッと焔次を睨んだ。
それでも清隆はゆっくり近づいてきた。
清隆からキスをするのは初めてだ。
だからだろう、清隆は戸惑ったように目を泳がせてる。
それでも、覚悟をしたのだろう、清隆はゆっくり唇を重ねた。
焔次はそれを目を開けたまま、それをじっと見ていた。こんな事滅多にないのだ、目をつぶるなんて勿体ない。
二人は同じくらいの背丈だ。清隆は近くで見ても端正な顔をしていて、よく見るとまつ毛も長い。怒りからなのか恥辱からか目尻が赤くなっている。
清隆の唇は柔らかく、触れたところから熱が広がった。
しかし、清隆はすぐに離れてしまう。
「……これでいいだろ……んう!」
ちょっと、触れただけのキスに焔次が満足できるわけない。
焔次は離れようとする清隆の首後ろに手を回し強引に自分の方に引き寄せ、噛みつくようにキスをした。
清隆は驚き嫌がる。焔次はそれを許さないと言うように、無理やり壁に押し付け、無理矢理口を開かせ舌を入れむ。
「清隆……」
「ん……んん」
清隆は約束の事を気にしているのか、律儀に我慢している。
焔次は黙っていいなりになっているのをいいことに、首を傾け、さらに深くキスをする。
そうして、清隆の口をこじ開け、中をかき回しあご裏を舌で刺激した。
清隆の体が少し反応する。
焔次はその反応が嬉しくて、さらに舌をすくい上げ絡めたり、吸い付いたり甘噛みをする。
いつも清隆は嫌がって顔を背けるから、ここぞとばかりに焔次は唇を貪る。
体に籠った熱がどんどん高まってきた。
焔次はさらに清隆の体を壁に押し付けて手を清隆の後ろに回す。さっきヤったばかりだから清隆のそこは柔らかくなっているだろう。
焔次の出したものも残っているはずだから、今入れたらきっと蕩けるくらい気持ちがいい。想像しただけで興奮して、焔次は自分の中心が固くなってくるのが分かった。
「……っお、おい!何してんだ!」
焔次が服の下に手を入れて胸を探ると、清隆はそう言って止めようとする。
「ちょっとだけ……」
ここまで興奮しているのに途中で止めるなんて無理だ。焔次は硬くなった腰を押し付けながら、首筋に吸い付きさらに清隆の体を探る。
「ちょ、ちょっとって……キスだけの約束だろ!調子に乗るな!」
清隆は怒って、思いっきり焔次を押しのけた。流石に焔次も諦める。
離れると、清隆は焔次を睨む。
「もう終わり?」
「当たり前だ!」
焔次は軽い感じで言ってペロリと唇を舐めた。
清隆はその態度にイライラしたのかまた怒った顔をする。
それでも、これ以上言い合っている時間もなくなったようだ。ため息をついて言う。
「約束だからな、ちゃんと草太を見とけよ」
「わかってるよ」
焔次はそう言ったが清隆はまだ何か言いたそうだ。
しかし、荷物をまとめると、バイトに向かうために部屋を出て行った。
焔次はそんな清隆を見送る。
「あー、もうちょっとしたかったな……」
指で唇をなぞり、焔次はさっきのキスの感触を反芻する。
少し戸惑いながら目を閉じてキスをする姿や、少し目を潤ませこちらを睨む顔はイキそうなくらい可愛かった。
出来ればぐちゃぐちゃに犯して自分の事しか考えないようにしてしまいたい。
どうやったらもっとこちらを見てくれるんだろうと思う。もっともっとあの視線を独り占め出来たらいいのに。
「あー治まりがつかねえわ。ちょっと抜いてくるか……」
一度上がった熱はそう簡単には治まりそうにない。
焔次はそう言ってトイレに行って、熱を吐き出す。
熱が治まると、焔次は一応草太の様子を見にいった。
面倒だし放っておきたいが清隆と約束したからしかたがない。
それに、清隆の約束を守るのは他に理由もある。
焔次は草太に対して少し罪悪感を感じていた。焔次は、いままでお金に困った事がない。だからこんなにお金がない人間がいるとは思わなかったのだ。
焔次は、寝室に入る。
草太は少し苦しそうな表情で眠っていた。
「ッチ」
なまっちろい肌にひ弱そうな体。弱々しいいで立ち。
見ているとイライラしてくる。
草太は焔次の事が好きらしい。一途と言えば聞こえはいいが、焔次にとってはただの馬鹿にしか見えない。
改めて清隆が草太を好きな理由が分からない。
思いっきり嘘をつかれ裏切られたのに、いまだにかばって助けようとしているのが本当に意味が分からない。
しかし、その一途さは清隆の高潔さを表しているようでもある。どんなに汚しても清隆は綺麗なままで、水に浮かんだ月みたいにどうやっても手に入らない。
「どうやったら、俺の事をもっと見るだろう……」
少し顔を赤くさせてこちらを睨む清隆の姿を思い出す。あの強い視線を思い出すだけでゾクゾクしてくる。
焔次は自分の事をもっと清隆の記憶に刻み付けたいと思う。
ふと思い付いて、焔次は草太の細い首に手をかけた。
こいつを殺せば、清隆はきっと自分の事は忘れないんじゃないかと頭によぎった。
焔次を憎んできっとずっと忘れない。そうすれば、清隆の特別な感情を独り占めできる。
「うん?……焔次くん?」
その時、草太が目を覚ました。
「あ、起きた?」
「う……んぐ、何?苦し……」
「いや。お前うぜーし、殺してやろうかと思って」
焔次は軽く言う。
すると、草太はへらりと笑った。
「……いいよ、焔次くんに殺されるなら。嬉しい」
「……」
その言葉を聞いて、焔次は手を離した。
「あれ?しないの?」
「いや、やっぱりキモイなって思って。やる気が失せた……」
呆れた顔をして焔次はそう言う。まさかここまで草太の頭がおかしいとは思って無かったのだ。
「そっかー。残念……」
ぼんやりした表情で草太は言った。顔も赤いし、本当に熱でちょっとおかしくなってるのかもしれない。
「そう言えば、清隆は?」
草太は周りを見回す。
「お前の代わりにバイトに行った」
「ああ、本当に行ったんだ……律儀だな……」
「清隆はお前のために行ったんだぞ、もうちょっと感謝しろよ」
熱でぼんやりしているとはいえ、せっかく清隆が代わってやったのに、のんきな言い方にまたイラっとする。
やっぱり、清隆がなんでこんな奴が事が好きなのか分からない。
「それより、焔次くん。今日は優しいね」
「本当お前、頭おかしいな」
さっき首絞めようとしたのは、もう忘れたのだろうか。
「ふふ、だって看病してくれてるんでしょ?嬉しい。しばらく一緒にいてくれる?」
草太はそう言って焔次の手をぎゅっと掴んだ。
「まあ、清隆に頼まれたからな」
焔次はそう言って、そのままベッドに座った。草太はそれを見てまた嬉しそうな顔をする。
「うわ。どうしよう、眠っちゃうのが勿体ないかも」
「いや、寝てくれ」
「へへ、焔次くん大好き」
「ああ、はいはい」
へらへら笑いながら言う草太に相変わらずキモイなと思うが、さっき清隆とキスできて機嫌が良かった焔次は軽く流す。
それを見ながら、こいつは本当に馬鹿だなと改めて思う。
とは言え、草太はわりと利用価値がある。慣れたのもあるだろうがこいつとヤるのも、そこそこ気持ちいい。まあ、オナホよりはましってレベルだが。それに草太が作る料理は割と美味しい。何より草太を盾に取れば、清隆はここに来るし言うことも聞く。
「そうだ、草太清隆が好きな物って知ってるか?」
焔次は、ふと聞く。
嫌がられそうなことは一通りやったから、次は好きなものを渡してみようかと思ったのだ。
しかし、焔次は清隆が何が好きなのかよく知らない。
「え?清隆?」
草太は少しムッとした顔になる。
「そう」
「さあ、知らない……あ、でも前に甘い物が好きとかなんとか言ってた。男のくせに相当甘党みたい」
草太はムッとしながらもそう言った。
「甘いもの……」
焔次は呟く。それは知らなかった。
予想外だったが、いいことを聞いたかもしれないと思って考え込む。
しばらくしたら、草太は眠ったのか規則正しい寝息を立て始めた。
「清隆に言われたからもう金は取るのは止めるか。だから、精々俺のために働けよ」
焔次は、眠っている草太を見ながらニヤリと笑いながら言った。
そうして飽きたら殺そう。
「ふあ……俺もちょっと寝るか」
さっきまで清隆としたからか少し眠くなってきた。面倒なので、草太の隣で横になる事にした。
清隆の事を思い出しながら目をつぶる。清隆が帰ってきたら、またキスしたり、ドロドロになるまでセックスしたい。
そんなことを考えていたら、焔次はいつの間にか眠っていた。
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