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第21話 一番、欲しい物
清隆は入っているだけで、心地がいいそこに熱を吐き出す。荒く息を吐きながら、草太を見下した。草太も蕩けた表情で荒く息をしている。
捲れ上がったシャツからは、濡れて立ち上がった乳首が覗いていた。腹には白濁した草太の体液が飛び散っている。乱れて、中途半端に脱げた服がなんだか余計にいやらしく見えた。
「っん……」
埋め込んだ物を引き抜く。どろりと、そこから出した物が溢れた。
自分の物で汚れたそこは、支配欲を満たし、熱を吐き出したばかりだと言うのに、清隆の中心は力を取り戻す。
それに、上手く言えないが何か物足りなかった。いつもと違う。
清隆はそれを確かめたくて、もう一度草太の後孔にあてがった。
「っんぁ……はぁ……っちょ、ちょっとまだするの?」
「もう一回だけ、すぐ終わらせるから」
清隆の声は擦れていて、言葉通り一度で終わるようにはとても思えない。
「何言ってんの。もうすぐ、焔次くんが帰って来るよ」
「っ……そんなのどうでもいい……」
あいつに見られたって今更だ。それよりこんな状態で草太の口から、他の男のことが出てきたことにイライラする。
「どうでもよくない。もうやめて」
しかし、草太はそう言って起き上がり、清隆を押しのけるとティッシュの箱を掴んで後始末を始めてしまう。
そこまで、きっぱりと言われると清隆はもう止めるしかなかった。
「じゃ、じゃあ。もう一回キスだけ……」
服を整えて元に戻ってしまった草太に、清隆は往生際悪くそう言って、引き寄せキスをした。
「っ……もう」
草太は困った顔をしながらも、されるがままになる。
しっとりと汗をかいた草太の体は、清隆の両腕にすっぽりとはまって馴染む。
唇は何度もキスしたからか更に赤くなった。したばかりで少し弛緩しているのか草太の口の中は柔らかくてトロトロだ。清隆は舌を掬い上げ絡ませてゆるく噛む。草太は清隆より少し小柄だから、舌も小さくて柔らかい。夢中になって舌を絡ませ、かき回す。
「は……ん、んん」
清隆の熱はまたどんどん高まり。頭の中は草太のことでいっぱいになる。
触れる毎に好きだ、という気持ちが高まって苦しい。
自分から強引に始めた行為なのに、なんでもっと抵抗してくれないんだろうと、身勝手な事を考える。
なんで、これが自分の物じゃないのか分からない。手に入るなら何でもするのに。
手の届く場所にいるのに、欲しい物は何一つ手に入らない。
その時、玄関のドアが開く音がした。
「っ……あ!焔次くん。帰ってきた」
草太はそう言うと、清隆を押しのけ立ち上がる。そうして、一目散に玄関に走っていった。
「あ……草太……」
あっという間に離れていく草太の背中を、清隆はただ見送る。
草太は焔次が帰ってきたとわかった時の表情は、清隆に見せたことがない笑顔だった。
玄関に向かう姿は本当に嬉しそうで、清隆は焔次との差を思い知らされる。
さっきまであった熱は、あっという間に冷えた。清隆は惨めな気持ちで乱れていた服をもぞもぞと直す。
部屋の向こうから、二人の会話が微かに聞こえくる。
『焔次くん、お帰り!何買ってきたの?』
『あ?何買ったとかどうでもいいだろ。これ片付けとけ』
『えへへ、ごめん。あ、ごはん作ったよ。何か食べる?』
『ああ?いらねーよ』
清隆は、それをただ聞くことしか出来ない。
テーブルに置いたコーヒーはとっくに冷めていて、不味くなっていた。
「……はぁ」
清隆は床に座ったままため息をつく。
何をしてるんだろうと思って虚しくなってきた。
清隆は気分を変えるために、シャワーでも浴びようかと立ち上がった。草太として汗をかいたのだ。
部屋を出ようとしたその時、焔次が部屋に入ってきた。
「あ、清隆」
「何?」
清隆にとっては正直、今一番見たくない顔だ。清隆はイライラを押し殺して、素っ気なく答えた。
「あのさ。えっと……ちょっと近くを寄ったからついでに買っただけなんだけど……」
「だから、何?」
焔次は何かソワソワしながら言う。
清隆は要領を得ない焔次の言葉にイライラが募る。
「いや、ほ、本当についでに買っただけなんだけど。これ……食べないか?」
焔次はそう言って、持っていた物を差し出した。どうやらクレープのようだ。
「何、それ」
「あー、なんか有名な店のクレープらしくて買ったんだ。食う?」
「いや、さっき草太のごはん食べたから、いらない」
清隆は素っ気なく言った。焔次の行動は、いつもよくわからない。
しかし、清隆はそれを真面目に考えるのも嫌で、部屋を出ようとする。
今は、一人になりたかった。
「じ、じゃあ後でもいいから」
いらないと言ったのに焔次はそう言ってクレープを押し付けてくる。
「だから、いらないって……あ!」
そう言って清隆は焔次を押しのけようとする。しかし、その拍子にクレープが腕に当たって床に落ちてしまった。
「……あ」
クレープは無残にも頭から落ちて、床に生クリームがべちゃりと広がった。
しまったと思って焔次を見ると、何故か少し泣きそうな顔になっていた。
しかし、清隆と目が合うと眉をひそめて怒ったような顔になる。
清隆は少し罪悪感を覚えたが、さっきの草太とのやり取りを思い出すと、素直に謝る気にはなれなかった。
「ッチ……ふざけんなよ……せっかく買ってきたのに」
焔次はそう言って拳を握る。しかし、清隆も負けずに言い返す。
「た、頼んでないだろ……」
「……っんだよ……」
焔次は悔しそうに、また眉を顰め「もういい!」と怒鳴って部屋から出て行って行く。
その時、声を聞いて様子を見に来たのか、草太が部屋を覗いた。
「あれ?どうしたの?」
「何でもねー、どけ!」
焔次はそう言って乱暴に草太を押しのけ、どこかに行ってしまう。
「わ……ごめん。清隆どうしたの?……あ」
部屋の様子を見て、草太がすこし驚いた顔をした。
「い、いや……これは……」
清隆は口ごもる。この状況をどう説明したらいいか分からない。
しかし、草太は何があったか大体察したのだろう。
草太はつかつかと部屋に入ってきた。
「あーもったいない……」
そう言って、おもむろに床に落ちたクレープを拾って口に入れた。清隆は驚く。
「ちょ、ちょっと。そんなの食べるなよ。汚い」
清隆は慌てて駆け寄り止める。外よりはましだろうが床に落ちたものだ。
しかし、草太はかまわずまた口に運ぼうとするので、清隆は止む追えずぐちゃぐちゃになったクレープを草太の手から奪う。
「あ……」
「あ、じゃないよ。何でこんな事……欲しいなら買ってあげるから」
清隆は呆れた顔で言う。
「清隆はいいよね……」
草太が暗い顔でポツリと言った。
「え?な、なんで?」
意味が分からなくて清隆は聞き返す。
「だって、僕は一回もこんな風に焔次くんに何か買ってきてもらったことない」
「え?い、いや。焔次は何か適当に買ったとか言ってたから。別にわざわざ買ってきた訳じゃないだろう」
清隆は悲しそうに俯く草太に返す。事実ついでに買ったとかなんとか言っていた。
「焔次くんはいつもそんな事しないよ。それに、焔次くん清隆の好きな物の事聞、いてきたから」
「え……?」
「適当に甘い物好きみたいって言っといたから、絶対わざわざ買って来たんだよ」
「で、でも勝手に買ってきたのはあっちだし……頼んでもないのに……」
わざわざ買って来たらしいというのに、流石にちょっと罪悪感を覚えたが、こんな事で非難される謂れもなく清隆は言い返す。
それに、今更素直に謝れない。
「もし、そうでも。僕には頼んでも買ってくれない……」
草太は泣きそうな顔してそう言うと、清隆が何か言う前に部屋から出て行ってしまった。
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