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第23話 心のうち

食事が終わると、また車に乗って出発した。 どこに行くのかと思ったが、どうやら町に戻るようだ。しばらくして、着いた場所は街の中でも賑やかな繁華街だった。 しかも、かなり高級ショップが立ち並ぶ道で止まった。 「次はここか?」 「ああ」 焔次は車を止めると店を回り始めた、清隆はそれに黙って付いていく。 因みに、ランチの時から会話はほとんどない。清隆は、本当にこれでいいのかと疑問になる。 焔次は清隆の事を好きだと言っていた。だから、これはおそらくデートなのだろう。 しかし、こんなに会話が無くて何が楽しいのだろうか。 とは言え、清隆がわざわざ盛り上げてやる義理もない。 そう思うと、結局黙って付いていくしかなかった。 焔次はどの店も入り慣れているようで、高級店なのに躊躇もなく入っていく。しかも店員とも顔見知りのようでよく声をかけられていた。 清隆はそれにただ付いていく。 「……なんか、欲しい物あるか?」 「え?」 ある店に入って店をウロウロしている時、焔次がポツリと言った。 清隆はそこまで貧乏ではないが、こんな高級店に何度も行けるほどお金は持ってない。値札を見ると財布に入っているお金では到底買えない値段の服や小物が並んでいる。 「……だから、何か欲しいものあるのかって……」 焔次は何故か顔をしかめながら言う。何か怒っているのだろうかと思いながら清隆は答える。 「いや、流石に欲しくても高すぎて買えない……あ、でもこういうのは好きかな」 清隆はそう言って近くにあった服を手に取っていった それはシンプルではあるが着やすそうな紺色のTシャツだ。しかし、ちらりと値札を見たら一週間は余裕で暮らせそうな値段だった。 「じゃあ、これ買う」 「え?ちょ、ちょっと、何で?」 「欲しいんだろ?買ってやる」 「え?で、でも」 「今日は俺の言うこと聞くんだろ?だから文句言うな」 焔次はそう言うと、そのまま会計に向かっていってしまった。 そうして、その後もいくつか店回ると同じように清隆に聞いて服を買っていく。 しかも、さっき渋ったせいか焔次はいくつか選んで清隆に「どっちがいい?」と選ばせるので、結局服一式や靴を買ってもらう羽目になった。 最後には、どうせ焔次のお金だからと諦めた。 色々買っている焔次を見ながら、清隆は草太とデートした時の事を思い出す。 「草太もあの時こんな気持だったのかな……」 あの時は、清隆が草太に服を買ってあげた。あの時はただ、草太に着て欲しくて、自分が買った物を着て欲しくて買った。 しかし、草太は複雑な顔をしていた。しかも、後で嫌だったと思いっきり言われてしまった。 清隆は、あの時の草太の気持が少しわかった気がする。 清隆は思わず苦笑してしまう。 焔次はそんな清隆には気付かず、次の店に向かう。 次に連れて行かれたのは、メンズの装飾品がメインの店だった。 例にもれず高級店だ。 高そうでごつごつしたアクセサリーがズラリと並んでいる。 並んでいるアクセサリーは、いつも焔次が着けている物と似ていた。行きつけなのだろう。 流石、高級ブランド店だ、おしゃれだが他の店と同じく、値段はあまりおしゃれじゃない。 ガラス張りのディスプレイを眺めている焔次が、また「どっちがいい?」と聞いてきた。 あまりアクセサリーなんて付けない清隆だったが、それがが高い物だと言うことくらい分かる。 因みに焔次が指差していたのは、シルバーの指輪だった。 「い、いや流石に高すぎるよ。それに、俺は指輪とか付けないぞ」 店員に聞かれないように、清隆はコソコソ小さな声で言った。 しかし、焔次は相変わらず清隆の意見を聞く気はないようだ。 「いいから、早く選べ」 「はぁ……わかったよ」 清隆はため息をついて、従う。 清隆は 仕方なく選ぶ。それでも、一番安そうで無難なデザインの物にした。 とはいえ高級店らしく値段が書かれていないから、安いかどうかも分からなかった。 「じゃあ、これ同じやつ二つ」 「え?二つ?」 何故か焔次は、清隆が選んだ物を二つ買った。 しかし、困惑している清隆を無視して、焔次は指輪を受け取ると店を出てしまう。 そうして、人の少ない場所に清隆を連れて行き「手、貸せ」と言った。 「え?何で?」 「いいから」 「わかったよ……」 清隆は右手を差し出す。すると焔次は清隆の手を取り指輪を指にはめた。 「似合うな」 はめると焔次、はやたらと嬉しそうな表情でそう言った。 流石の清隆でも、指輪の意味くらいわかる。しかもよく見ると焔次も買った指輪を付けていた。 「っ……さっきも言ったけど、俺はアクセサリーとかつけないぞ」 「わかってる。今日だけでいい。今日だけ……俺のものだ」 焔次はそう言って、愛おしそうに清隆の指輪にキスを落した。清隆は焔次がこんなことをするとは思わなくて、少し顔が赤くなった。 焔次は満足そうな顔をすると、また清隆を車に乗せ出発する。 清隆はまだ、買い物を続けるのかと思ったが、どうやらこれで終わりのようだ。車は繁華街から離れていった。 空はいつのまにか暗くなっていた。 「家に帰るのか?」 「ああ」 焔次は短く言って車を駐車場に入れる。 「じゃあ、これ着て」 部屋に入ると焔次はそう言って、買った服を清隆に手渡した。 「わかったよ……」 相変わらず何をしたいのか分からない。しかし、聞いたところで焔次は答えないだろう。 清隆は素直に服を受け取った。 「あと……これもやる……」 そう言って焔次が、紙に包装された箱を清隆に手渡した。 それは手のひらサイズの箱だった。しかし、今日ずっと一緒にいたが、こんな物を買っていた記憶はない。 しかも、その箱は何日も持ち歩いたみたいに、擦れてよれていた。 清隆は不思議に思ったが、取り敢えず開けてみる。 一体なんだと思ったが、中身は何て事はないただのハンカチだった。 「なに?これ」 清隆は焔次に聞く。唐突だし、関連性もなさすぎて本当に意味がわからない。 焔次は、何故か複雑そうな顔をしていた。 「それは……」 焔次が何かを言おうとして口を開く。しかし、迷った表情をした後「……何でもない」と言って部屋を出て行ってしまった。 「なんだ、あいつ……」 清隆は不思議そうな顔をしてそれを見送る。結局、意味は分からなかった。 仕方なく清隆は言われた通り服を着る。もらったハンカチはポケットに入れておいた。 ハンカチは綺麗な青色のハンカチで、触り心地もいいものだ。 おそらくブランド物だが清隆は詳しくないのでわからない。 「一応、もらっておくか……」 ブランド物でもハンカチならそこまで高くないだろう。今日一番意味不明だったが、焔次が買った物の中では一番使えそうではある。 着替え終わると、清隆は焔次のもとに行く。 焔次はリビングにいた。部屋にはテーブルに料理と焔次が買ったプロジェクターもセットされていた。 「着替えたか?」 「うん、っていうかいつのまに準備したんだ?」 部屋は薄暗く、テーブルにはキャンドルが灯され美味しそうな料理がずらりと並んでいた。 「テイクアウトだ。いいからここ座れ」 焔次はそう言って自分の隣を指差した。 「……こんなテイクアウトあるんだ」 テーブルに置いてある料理はどう見ても高級な店で出されているようなフランス料理だった。 清隆はいままでいままでチェーン店のピザとか店屋物で頼んだことしかない。 隣に座ると、二人で映画を観ながらそれを食べた。ちなみに映画は少し前に流行ったラブコメディだった。焔次の趣味なのだろうか? 「美味いか?」 「え?ああ、美味しいな」 映画を観ながら食事をつまんでいたら、焔次が聞いてきた。 清隆は答える。 焔次はそれを見て、満足そうな表情になった。 今日はずっと焔次と一緒だったからという事もあるのか、焔次に馴れてきた気がする。 これが良いことなのか悪いことなのかは分からないが。 料理があらかたなくなると、二人でクッションに寄りかかって映画を観始めた。 映画は流石人気があっただけあって面白かった。 ぼんやり観ていると、いつのまにか隣にいた焔次が、清隆に寄りかかっていた。 清隆は焔次の言うことを聞くと約束したのだ、気がついていたが放っておいた。 ふと気になったことがあって、清隆は焔次に聞く。 「それにしても、今日はかなりお金を使ったけど大丈夫なのか?親が有名人ってのは聞いてたけど……」 「ああ、大丈夫だよ。あいつら、取り敢えず金渡しとけばいいと思ってるから 「あいつらって……」 焔次の親には会ったことはないが、母親は多くの人が知っている女優さんだ。良妻賢母で優しい、いいイメージがある。 それなのに、焔次からそんな言葉が出てくるとは思わなかった。 「あいつらで十分だよ。外面はいいけど、俺のことはイメージを上げるための道具としか思ってない」 そう言って焔次は怒ったように眉をひそめた。しかし、その表情は一人置いて行かれた子供のようにも見えた。 「そんな……」 なんだか複雑な事情がありそうで、これ以上聞いていていいのか迷う。 その様子がわかったのか焔次は苦笑してまた、清隆に寄りかかる。 そうして、軽い感じに話し始めた。 「子供の頃、親は忙しくてあまり家にはいなかった。でも誕生日だけは盛大にパーティーを開くんだ。最初は俺も嬉しかった、親が二人揃うのは珍しかったから」 焔次は思い出すように言葉を続けた。 「でもパーティーで親は、ネットやSNSに載せる写真を撮るのに夢中だった。よく知らない有名人も山ほどいて。俺は結局知らない大人に囲まれただけで終わった。後でわかった、親はそれで子供思いの親をアピールしたかっただけって」 「そんなこと……」 清隆は否定をしようと思ったが言葉が見つからない。 「それが毎年続いた。プレゼントは毎年くれるが、欲しい物は一つもなかった。しかも友達を呼んでもいいかってきいたら、煩くなるからダメだって言われた」 「それは……辛いな……」 「それで、結局大切なのは世間体なんだってわかった」 焔次は自虐的に笑った。 「でも……」 「わかったろ?親がどれだけ俺に関心がないかって……」 「そ、そんなことないよ。きっと……忙しすぎて時間がないだけで、きっと気にかけてるよ……」 すると焔次は笑う。 「もう一つある。一度、俺が酷い風邪を引いた時。母親は汚い物を見るような顔して『近づかないで、移ったらどうするの?治ったら知らせて』って言って、しばらく家に帰ってこなかった」 「……あー……それは……」 清隆は何かフォローを入れようと思ったけど、何も思いつかなかった。 「大丈夫だよ、もう慣れた。仕事を邪魔しなければ、黙って金をくれる。だから、大丈夫……」 焔次は清隆の様子を見て苦笑する。 「でも……」 「清隆は不思議だよな」 焔次はそう言って、指を絡めるようにして手を繋いだ。 「不思議?」 いきなりなんだと思いながら、清隆は聞いた。 「だって、今まで俺の周りには金をたかるか、媚を売って取り入ろうとするやつしかいなかった」 そうして焔次は可笑しそうに続ける。 「だけど、今日いくら何か買っても喜ばないし。俺のこと嫌ってるくせ親の話したら同情するし……」 「別に……同情なんて……」 清隆はそう言ってみたが、同情していなかったと言われると嘘になる。清隆は親にそんな扱いを受けたことがなかった。もし、同じことを親から言われたらと思うと辛い。 「本当に不思議だ。今までこんな事人に話したことなかったし、話そうとも思わなかったのに。清隆には話したくなる」 焔次はそう言って、清隆にはめられている指輪を愛おしそうにくるくる回した。 「なあ、清隆。俺のこと……」 焔次は何かを言おうとして言葉を止めた。 「なに?……」 「なんでもない」 そう言って焔次は体を起こすと、顔を近づけキスをした。 「焔次……」 「好きだよ、清隆……」

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