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 ――最悪だ。街頭に照らされた路地裏は薄暗く、満身創痍で地面に倒れ伏すユウはもう一度「さいあく」と呟いた。 「最悪なのはこっちだっつーの」  クソガキッ、と革靴がみぞおちを抉る。えづいた喉奥から胃液が昇ってくる。  見つかり、捕まったのはすぐだった。四人だけじゃなかった。  素足なのもいけなかった。足の裏は赤く、血に濡れている。走っているうちにガラスを踏んづけてしまったらしい。 「恨むならてめぇの母親を恨んでくれよ? あの阿婆擦れ、金庫の金持ち逃げしやがったんだぜ? なぁ、坊ちゃん。親の尻拭いは子がしなきゃなぁ?」  わざとらしい猫なで声に反吐が出る。 「ッ……し、ね」  唾を吐き、睨みつければまた殴られる。  痛いのは嫌いだ。  そこらへんの不良共と喧嘩を繰り広げておきながら言えることではないのだろうが、純粋に、痛いのが嫌いだった。  地面に額をこすり付け、痛みに悶える。  痛いのは嫌いだが、ユウが我慢強かった。それに加えて負けず嫌いで、人間なんて死んでしまえと素で言ってしまう人間嫌いだ。 「クソがッ……!」  地面に転がされ、背中に足を乗せられる。ぐりぐりと、痣になっているだろうそこを踏みにじられ、顔を歪ませた。  本当ならとっくに意識を失ってもいいくらい、ユウはボロボロだ。途切れそうになる意識を無理やりつなぎ合わせ、痛みに耐えていた。  屈してやるものか、全員殺してやる、鋭く鈍い光を湛えた瞳で男を睨みつけると、何を思ったのか口角を上げて嗤った。 「まだ、中に入ってんだろ?」  ジャケットのポケットを漁った男は、しゃがんでユウの目の前にピンク色をしたスイッチのようなモノを見せつけた。ハッと、すぐにそれが何かわかったユウが何か言う前にカチリと音を立ててスイッチを入れられる。 「ッ! ……ひ、ァ、っ……く、そッ! しね! 変た、いッ」  三段階のそれを一番上、強まで上げられ、ヴヴっと激しく震えたナカのモノにがくんと頭が落ちた。 「、ッ、っ」  革靴のつま先で顎を持ち上げられる。 「……ハハッ、売り飛ばすには勿体ねぇ上玉だなぁ」  死ね糞野郎!  胸中で吐き捨て、体を悶えさせる。殴られ蹴られたところが痛いのに、別のところから迫ってくる快感が辛い。  死ね、死ね。いっそ死んでやる、ギリ、と奥歯を噛み締めた。舌を噛み切るのは痛いだろうなぁ、嫌だなぁ。 「あーあ、なんつーか、めんどくせぇの見ちまったぜ」 「誰だッ!?」  男のひとりが声を上げる。場違いなまでに呑気な低音が聞こえた。 「お前さんら、何してんだい?」  街灯に照らされたそいつは、真っ白いド派手な色男だった。 「ここが織部組のシマと知っての狼藉か?」  おりべぐみ、茫然と目の前の男が呟いた。  ド派手なあの男もきっと堅気じゃあない。甘く整った顔に呆れた笑みを浮かべているが、その目は冷たく凍えていた。ゾッとする。強者のオーラを放つ色男はゆっくりとこちらへと近づいてくる。  後ろへ、男が足を引いたのが見えた。 「は、はははっ、織部組だからなんだ! たったひとりでこの人数相手にできるわけッ」  ガゴンッ、と到底人間が出せるとは思えない音を立てて、色男の一番近くにいた奴が地に沈められた。 「……、まじかよ」 「ハハッ、たったひとりで、何だって? 最近耳が遠くて聞こえなんだ。もう一度、言ってくれるか?」 「ッやっちまえ!!」

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