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 ――あっという間の出来事だった。五、六人はいた輩はたったひとりの色男に敗北した。 「めんどくせぇなぁ」  深く溜め息を吐いた色男は、片手で携帯を弄り、どこかへ連絡をしているようだった。 「ぐ、」 「……あ? まだ意識あるやつがいたのか?」  靴音が響く。  どうやら奥のほうで動けずにいたユウは色男の場所からは見えていなかったようだ。助けてくれたわけじゃないとわかると、なんだかホッとした。 「く、そ、」  痛みに呻き声を漏らしながらやっとのことで体を起こす。地面に着いた手の前に、よく磨かれた革靴が立ち止まる。 「……なるほど、コイツらが集ってたのはお前さんが原因か」  低い、落ち着いた声だった。  痛みと、中途半端な弱い快感とでよくわからなくなっていた頭を持ち上げる。否、顎に手をかけられ無理やり持ち上げられたのだ。 「ふぅん」じろじろと上から下、全身くまなく観察される。失礼ともとれる視線に、知らないうちに険しい顔つきになっていたのだろう。  色男が「悪い悪い」と笑いを含んだ声で謝った。なぜだろう、謝られている気がしない。 「で? お前さん、なんで袋叩きにされていた?」 「……アンタに、関係ないだろ」 「あぁそうだな。お前は関係ないだろうがなぁ、如何せん、お前さんを襲ってた奴らが俺と関係あるんだ。関係者の被害者に話を聞くのは道理だろ?」 「知らない。急にそいつらが襲ってきたんだ。もういいだろ、手、離せよ」  目を逸らし、息を整える。  とりあえず、かすかに震えている異物を取り除きたい。もうどうせなら路地の奥ででもいいから、早く、早く、 「よし決めた! 拾って帰ろう」  何を拾って帰るんだ。どうでもいいからさっさとどこかへ行ってもらいたい。  動き回るにはまだ辛い。少しだけ休んでから奥へ移動しよう。ここら辺は特に人通りのない区画だ。  小さく息を吐き出せば、殴られた腹が痛んだ。ずる、と膝から崩れそうになったのを支えたのはほかでもない、色男だ。 「おいおい、大丈夫か? 思った以上に手酷くやられてるみたいだな。今迎えをよこしたから少しだけ待ってろよ」 「……は、? アンタ、何言って」 「ペットを拾ったなら最後まで面倒を見るのが飼い主の役目だろ?」  ん?  んん?  目をぱちぱち瞬かせて色男を見る。 「お、ようやく目が合ったな」  楽しそうに笑った色男は何を考えているのか、けして小柄じゃない(大柄でもない)ユウを抱き上げた。それも、俗に言うお姫様抱っこ。  目を白黒とさせて「はぁ!?」と今日一番の声が出た。 「こら、近所迷惑だろう」 「今更だそんなこと!」  息を吸い込み、吐き出した抗議を最後にユウの意識はフェードアウトする。 「あ、おい、大丈夫か――」  大丈夫なわけあるか。糞野郎。  吐き出された言葉に色男が大声を上げて笑ったのを耳にして、意識は闇の中へと途絶えた。

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