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006
長い前髪の下、ユウの暗い赤色の瞳と同じアカ色。
「やっぱ明るいとこと暗いとことじゃ印象変わるなぁ」
どかっと胡座をかいて座った色男はなにが楽しいのか至極満面の笑みを浮かべている。
高そうな着流しに身を包んだ色男は織部斎 と名乗った。
「斎、て呼んでくれよ。んで、君の名前は?」
「……」
「はは、いいねぇ、その目。ますます気に入っちまうよ。ま、先に名前だな。愛でるのは後でもできるが呼び名が無けりゃぁ困っちまう。さぁて……クロ、ポチ、タマ、どれがいい?」
ペットに名前でもつけるような感覚で聞いてくる斎を睨めつける。
昨夜、朧気だがペットがうんたら飼い主が云々と言っていた。
「……ユウ」
「ん?」
「ユウ、だ」
犬猫のような名前で呼ばれるよりはマシだ、と重たい口を持ち上げた。
苗字を名乗らず、『ユウ』と言う名も本名かわからないのに、斎は花を開かせて笑う。居心地の悪い、気味の悪い感覚に視線を伏せた。
「ユウ! そうかそうか! そっちのは篠だ! ユウの世話役につけるつもりだ。仲良くしろよ」
「春日井篠 です。よろしくね、ユウ君」
よろしくなんてするつもり毛頭ない。さっさと、こんなどこかもわからないところから出て行こう。そうと決まれば早い。
引き攣る足を無理やり叱咤して、立ち上がろうとした――刹那。
「ッ、ぁ……!?」
腹の奥に、あの異物感が、
「おい、どうした? どっか痛むのか? ……篠、きちんと治療のほうが済んでるんだろう?」
「もちろんです。痛み止めの効果が切れるには早いですし……。ユウ君、どこが痛いのか教えてくれるかい?」
最悪だ、最悪だ、最悪だ!
全身に包帯が巻かれ、怪我の治療はされているがまさか彼らも体内に異物があるとは思うまい。
立ち上がった衝撃でナカのモノが移動したらしく、口を開けばはしたなく喘ぎ声がこぼれてしまいそうだった。
「……ッ、な、んでもないっ」
「なんでもない、ではないだろ。どうした、何が辛い。言ってみろ。楽にしてやるぜ?」
甘美な、悪魔の囁きだ。
蹲るユウに手を差し伸べた斎は、細く痩せた腕を掴んで引き寄せる。
「ッ、ッ、ァ!」
ごり、としこりの部分を強く抉られ、吐息のような掠れた声が畳の部屋に響いた。
「……、お前、」
驚いたような声音に、かぁっと頬が赤くなる。
聞かれた? バレたかもしれない。
麗しい男の膝に手をついて、必死にどうすべきかを考える。異物を取り除けば万事解決だ。けど、この男たちが今この状況で自分をひとりにするはずがない。
身じろぎ、捕まれた手を振り払おうとすればなおさら力が強く込められる。骨が軋むほどの力に下唇を噛んだ。
「こらこら、これ以上傷を作るなっての」
「関係、ないだろッ」
「関係あるさ。お前さんは俺の飼い猫なんだからなァ。ほら、よく顔を見せろ」
空いているほうの手で顎を持ち上げられる。
赤色が、かちあった。
ほぅ、と斎が吐息を漏らす。透き通った赤を眇めて、ユウを見つめた。
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