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 二度目の目覚めも最悪だった。 「……ん、」  薄らと開けた視界に飛び込んできたのはやけに整った男の顔。ぎょっとして離れようと起き上がった体は再び布団に逆戻りする。後ろから抱きすくめられ、息を呑んだ。  そろ、と恐る恐る肩越しに振り返れば、すり寄るように頭を寄せるこれまた顔の整った男が寝息を立てている。  眠気は遠いところへ吹っ飛び、ぐるぐると頭が回った。静かに寝息を立てるふたりが起きる様子はない。逃げるなら、きっと今だ。ユウの薄い体を抱き込んだ逞しい腕をそっと持ち上げた。  起こさないよう、慎重に布団から抜け出す。物の少ない、大きな広い和室だった。  浅葱に、緋色の縁の畳。黒い木の天井。江戸紫の襖には金の孔雀が描かれている。見ているだけで目が痛い。視界の暴力。色彩感覚が可笑しくなりそうな部屋だ。  足を付けた畳は冷たくて、浴衣の合わせ目をかき抱いて紫の襖に手をかける。無音の、極彩色の和室に息を呑みこむ音が響いた。 「――なんだ、これ」  目に飛び込んできたのは、猩々緋の檻と、その先に広がる遠い街並み。まるで、逃がさないとばかりの―― 「気に入ってくれたかい?」  ゾッとするほど甘い声音は歌うように軽やかで、柔らかく包むそれは、砂糖菓子のようにドロドロとユウを溶かしてしまいそうだった。 「あん、た……起きて、」 「急遽整えさせたんだ。ユウには赤、……いや、紅色が似合うと思ってな。着物も拵えなくてはなぁ。明日にでも呉服屋に行こうか。そういえば良い生地が入ったと言っていたんだ。篠、明日一日俺の予定開けておいてくれよ」 「……明日は綾宮の親父殿と食事の予定が入っていましたが」 「あー……そうか、綾宮んとことかぁ。うーん。ふむ、どうせ夜だろ。ユウも連れて行こう。密にして後からバレるほうが怖いからな」  おどけて嗤った男は、ごく自然にユウの肩を抱くと踵を返した。 「ぁ」いとも簡単に襖から離れた手が宙を掻く。遠くなった檻の外は、鮮やかな孔雀に遮られた。

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