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極道とウサギの甘いその後1−2

「……寝坊……だ……」  時間を見て絞り出した己の声はどんよりと掠れていて、酷い風邪でも引いたかのようだ。  時刻は、午前十一時を回ったところで。寝過ごしてしまったのもショックだが、重だるい身体と、乱れに乱れた布団も大きなため息を運んでくる。  もういっそ今日はこのまま……などと思いかけて、そんなことではいけないと首を振る。  とにかくまずは起きようと布団から出ようとしたのだが。 「どうせ寝坊なら午後から起きてもいいだろ」  ……と、先ほどと全く変わらないシチュエーションで引き戻され、流石に困って眉を八の字にした。 「でも俺…………」  あまり自堕落な生活を送りたくない。  湊のせいで竜次郎の風評が落ちるようなことがあっては大変だし、そうなれば自分はこの場所にいるのをためらうようになってしまうだろう。  ただ、それは湊が勝手にそう思っているだけで、竜次郎がいいというのであればそれに従う事の方が大切かもしれない……。  葛藤していると、ぽんと頭に乗った手が、髪の毛をくしゃくしゃにした。 「……悪かった。少し、寝ぼけてたんだ」  夢の続きみてえで、つい。と謝った竜次郎は、湊を気遣って折れてくれたようだ。  それを受けて湊も、また一人で思いつめてしまったことを反省した。 「まあ、俺も……嬉しかったから責める筋合いではないけど」  ひとまず起きるのをやめて、心地よい場所に身を委ねる。 「……どうせ寝坊なら、もっと酒宴に参加しとけばよかった」  自分があの場にいたかったというのもあるが、湊のために早く切り上げてきてくれたであろう竜次郎のことを考えると、そんな言葉がこぼれ出ていた。 「惜しむまでもなく、またすぐ機会があんだろ」  優しい声とともに大きな手が頭を撫でて、心地よさに目を細める。  ともすれば再び眠ってしまいそうで、雑談を続けることにした。 「そういえば……竜次郎が寝ぼけるなんて、珍しいね?」  竜次郎が朝起きられずにごろごろしているところというのはあまり見ない。  湊が起きれば起きだし、夜は半分寝ている湊を丸洗いしてから眠ることが多い。また就寝してからも、トラブルだとかで出ていくこともある。  寝起きが悪いというというイメージはなかった。 「夜のお仕事の人なのに」 「グースカ寝てたら身包み剥がれちまうだろ」 「……そんな危険が」 「あー、いや、俺自身はそういう事態になったことはねえが、そんな風に育てられたってだけだ」  心配で寄った眉間に、宥めるようなキスが降る。  育てられたということは、育てた金の時代には、そういう危ないことがあったのだろうか。 「お前も睡眠時間はそんなに長くねえよな」 「そう?……俺も習慣かな。実家では、あんまりよく眠れなかったから……」  義父のことや母の不規則な帰宅など、不安なことが多く、眠りが浅かった自覚はある。  湊の家庭環境を思い出し、何となく察したのだろう。今度は竜次郎が眉を寄せる番だった。 「でも、竜次郎と会ってからはよく眠れるようになったんだよ」  ……実家を出てから再会するまでは、やはりあまりよく眠れない日も多かったが。  それでも、昔の話なのだ。  竜次郎が気を遣う必要は一つもない。 「竜次郎がいてくれると、安心するから」  お手数をお掛けします、と腕の中で頭を下げる。  相変わらず、愛がヘビーで申し訳ないけれど。 「馬ー鹿」 「わ……!」  優しい罵倒とともに体勢を入れ替えられて、驚く。  竜次郎に体重を預けて乗っかるような格好になって、重いのではないかと反射的に起き上がろうとするのを、回された両腕が阻んだ。 「全然足りねえんだよ。もっと甘えろ」  背中から後頭部へと移動した手の動きに促され、少し伸びあがり唇を重ねる。  軽く触れて、引こうとした頭を今度は強引に引き寄せ、固定して深く貪られた。  舌を誘い出され煽るように甘く噛まれただけで、情事の余韻を引きずる体は熱くなってしまい、慌てて離れようともがいた。 「さ、さすがに起きないと」  このままでは、今日という日をこの場所で終わらせてしまいそうで。  それは湊にとって非常に幸せなことでもあるので、ありったけの自制心と克己心でもって布団から出ようとしているというのに、清く正しく規則正しく生きることに特に価値を見出していない道を極めるフリーダムなご家業の男は、なけなしの努力を根こそぎ奪っていく。 「りゅ、竜次郎……っあ……!」  尻を掴んだ手が男の腹にこすりつけるようにして前後に揺らし、前に与えられる刺激と、性交を思い出させるいやらしい動作に、湊は甘い声を上げて、たまらず縋り付く。 「りゅうじろ……」  視線を上げると、竜次郎がニヤリと官能的に口角を上げるのが見えて、湊は呆気なく陥落した。 「……………………い、一回だけ……ね」

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