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極道とウサギの甘いその後3−8
「八重崎さんが竜次郎に連絡してくれたんですか?」
暗く狭い階段を上りながら、八重崎のお陰かと問いかけてみたが、相手の反応は薄い。
「八重子は……サタデーなナイトにフィバりに来ただけ……。反社の脳筋とは無縁のナウでヤングな女学生……」
自分は友達としてついてきただけだ、と言ってくれようとしているのはうっすらとわかるのだが、どう返せばよいのか……。竜次郎も「どこから突っ込んでいいのかわかんねえんだが」と頭を掻いている。
「そいつとは別枠だ。まあこうなるんじゃねえかと思ってたからな。いつでも乗り込めるようにしてたんだよ」
殊更に隠そうとしていたわけではないとはいえ、湊の行動は読まれていたようだ。
「竜次郎は俺のことなんでもわかるんだね」
そんなことを考えていたなんて全然わからなかった、と心から感心したのだが、竜次郎は頭痛を堪えるような表情になってしまった。
「……お前な」
「?」
切った言葉の先を繋いだのは、無表情にダブルピースの八重崎だ。
「『湊の女装が見られてラッキー☆今夜は燃えるぜ』……って……言いたいらしい……」
「考えてねえ!」
変なアテレコすんな!と竜次郎が吼え、湊は苦笑を返した。
「……ったく……神導には通報しといたからな」
ぼやきが耳に入り、何故オーナーに?と首を傾げる。
その言葉の意味は、薄暗いスナックから外に出ることで明らかになった。
店の目の前の車道には松平組のセダンが止めてあり、その後ろにある見慣れない黒いトールワゴンから、人が降り立つ。
「……木凪」
背後に夜叉を背負った三浦であった。
「……八重子……ガラスのスニーカーをダンスフロアに忘れてきたから……」
怒りのオーラに恐れをなしたわけではないだろうが、くるりと踵を返した八重崎を長い腕で捕らえた三浦は、あっという間に車に押し込む。
淀みない動作。身柄を攫い慣れている感は黙殺した方がいいだろう。
「迷惑をかけて申し訳ない」
忌々しげに軽く頭を下げられ、迷惑をかけたのはこちらだと首を振った。
「俺が誘ったんです。八重崎さんは色々協力してくれて……」
言葉の途中でウインドウが開いて、ひょこっと八重崎が顔を出した。
「服は……回収してあとで返すから……早く帰ってめくるめくイメプレを」
「黙れ」
遮る三浦の眉間の皺は深い。
二人は相変わらずのようだ。
八重崎は『肉体関係がある』と言っていたが、二人きりだともう少し甘い雰囲気の時もあるのだろうか。
不穏な空気のまま、八重崎を乗せた黒いトールワゴンは去っていった。
「……あいつが三浦基武か」
「竜次郎、三浦さんを知ってるの?」
「あいつは……界隈では有名だな。神導の部下としては土岐川の次くらいの実力者なんじゃねえか」
「『SILENT BLUE』では経理の人だから、そんなにすごい人とは思ってなかったな……」
いつも不機嫌そうで『守銭奴』と呼ばれて恐れられてはいるが、声を荒げるようなことはないし、理不尽なことを言ったりもしない。
そういえば、『SHAKE THE FAKE』の一件で助けてもらったときは、一瞬で武器を持つ男たちを制圧していた。あれがその片鱗ということか。
「組の一つや二つ任せられる器の奴に金勘定させてんのかよ。相変わらず理解に苦しむな、あいつ……」
苦々しげに吐き捨てる竜次郎はいつもながらオーナーに対して色々と思うところがあるようだ。
湊には、オーナーが三浦に『SILENT BLUE』に経理として出向かせる理由がわかるような気がした。
『SILENT BLUE』ではそういう意味で三浦を恐れる人はいない。
店長や副店長に小言を言う三浦は、やはり『SILENT BLUE』に欠かせない一コマだと思う。
少しでも物騒な仕事以外にも触れてほしいという、オーナーなりの思いやりなのではないだろうか。
「……とりあえず車乗れ」
「あっ、そうだね」
考え込んでいたところを竜次郎に促され車に乗り込むと、運転席にいたヒロがキラキラした瞳で後ろを振り返った。
「湊さん!その恰好すげえ似合ってます!」
「あ、ありがとう……ございます」
そういえば女装してたんだったと苦笑してお礼を言うと、竜次郎が唸る。
「見てんじゃねえ。何かが減るだろ」
「いや、でもほんと綺麗なんで、あっちょっと写真撮ってもいいっすか?他の奴らにも見せ」
止める間もなく、ヒロは殴られた。
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