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極道とウサギの甘いその後3−11

「あっ、何だこれ」  洗うために湊の足を持ち上げた竜次郎が声を上げたので、飛びかけていた意識が引き戻される。  一瞬ここがどこだかわからなくなったが、すぐに、あのままテーブルの上で愛された後、風呂場に運び込まれて体を洗ってもらっていたのだということを認識した。  竜次郎の手の中にある足に目をやれば、親指の側面が薄っすらと赤くなっている。痛いか?と気遣われたが、特に自覚症状はなく、首を横に振った。 「靴擦れかな。少し当たってたから……」 「……せめて移動中は抱えてやりゃよかったな」 「歩くのがつらいほどじゃなかったから大丈夫だよ。すぐ直ると思う」  皮でも剥けているのならばともかく、少し赤くなっているだけだ。  それに女性の姿でプリンセスホールドは……何故か普段の自分の姿よりも恥ずかしいような気がした。 「前の時は平気だったんだけど、やっぱりちゃんと足に合うやつを履かないと駄目なんだね」  毎回きちんと足に合うものを探すのは大変だろうな、と女性の苦労を思う。  湊の何気ない言葉に、竜次郎は動きを止めた。 「前の時……?」 「あっ。……えーっと……」  八重崎が知っていたので何となく共通の話題のような気がしてしまっていたが、当たり前だが竜次郎に『前の時の話』をしたことなどなかった。  覆水盆に返らず。零れ落ちた言葉は元に戻らない。 「あのー……その、うん、前にも一度、……女装をしたことがあって……」  仕事だったし、それほど面白いことがあったわけでもないと訴えてみたが、『仕事』のところで余計に竜次郎の背後に黒いものが広がってしまったような気がする。 「……詳しく聞かせてもらおうか」  有無を言わさぬ迫力に、『SHAKE THE FAKE』での『女装デー』について、洗いざらい話して聞かせることになったのだった。  話を聞きながら湊の丸洗いを済ませてしまう竜次郎は、器用だと思う。松平家で育たなければ美容師などになれたのではないだろうか。  湯船で広い胸に背中を預けて、湊はそんな呑気なことを考えていたが、竜次郎はまだ怒りが収まらない様子だ。 「ほんとにろくでもねえな、神導の身内は」  矛先はやはりオーナーとその関係者に対してだ。海河は独特の雰囲気ではあるが、とてもいい人なのだが。  といっても、今それを主張するのはやめておいた方がいいと言うことくらいは湊にもわかる。 「なんか危険なこととかなかったんだろうな」 「もちろんないよ。『SHAKE THE FAKE』も、『SILENT BLUE』と同じでそういうサービスはしてないんだから」  今日クラブで声をかけてきた男達や、『ショー』のように迫ってきた客は一人もいない。 「でも、竜次郎が来たらサービスしてあげるね。女装は……オーナーはあんまりそういう企画は好きじゃないみたいだからできないけど」  『女装デー』も海河の独断で、「こういう企画は僕好きじゃないんだけど」と後からオーナーに文句を言われていた。 「いや……、別にお前は何着ててもいいけどよ」 「俺が女の子だったらよかったとか思った?」 「あー…?…考えたこともねえな。お前はお前だろ」  そう言ってもらえると少しだけほっとする。  それが伝わってしまったのか、下らねーこと考えて一人で悩むなよ、と釘を刺された。  竜次郎には何でもお見通しだ。 「俺だったら……竜次郎が女の子だったら嬉しいのかな」 「……それ議題にする必要あるか?」 「うーん……どうしても今の竜次郎が女装をしている風にしかイメージできない……」  やめろ我ながら気持ち悪い、と竜次郎が肩を落として、湊はそれに「ごめん」と、笑ってしまいながら謝った。

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