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極道とウサギの甘いその後4-2

 仲良く風呂に浸かり、上がると竜次郎は丁寧に体を拭いてくれた。  服を着て脱衣所を出ると、長い廊下を歩きながらこの後の話をする。  竜次郎は一旦事務所の方へ行くようだ。  お肌をケアし終わったら合流したい、と伝えると、「女子かよ」と苦笑されてしまった。  そう言いたくなる気持ちもわからないではないが、怠るとオーナーや店長に怒られるので、あまり笑い事ではない。  一人の時間がたっぷりあった以前とは違い、松平の屋敷に移り住んでからは竜次郎と一緒にいる時間が多くなったため少々サボりがちだ。スキンケアは一日にしてならず。  それに竜次郎もきっと、ガサガサよりはツルツルのお肌の方がいいだろう。 「んじゃ、終わったら日守に車回してもらって……」  話の途中で廊下の曲がり角から姿を現したパンチパーマの男が、竜次郎を探していたのか、ほっとした表情でこちらへとやってきた。 「代貸、ちょうどよかったっす。四丁目でちょっと、……っ!?」  存在に気付いていなかったのだろうか。唐突に言葉を切ったパンチパーマに驚きの形相で凝視されて、湊はたじろいだ。 「あの…?」 「あっ……………、え~っと、湊さん、いい匂いっすね……」 「あ、お風呂使わせてもらったからかな……?」 「お風呂……」  パンチパーマは何故かゴクリと生唾を飲み込む。 「おい。お前ちょっとそこまで顔貸せ」  聞かせたくない話だったのか、竜次郎は湊にここで待っているように言いつけて、パンチパーマを引きずって曲がり角の向こうに消えた。  取り残された湊は首を傾げる。  今日は普段使っている『SILENT BLUE』支給のシャンプーなどは使わなかったし、ボディクリームの類もまだ塗ってはいない。  あの大浴場を使っているのであれば、風呂上がりはみんな同じ匂いになると思うのだが。  ドゴッ  不思議に思っていると、鈍い音に続きどさっと何かが倒れる音が聞こえて、湊は驚いた。  すぐに不機嫌そうな竜次郎が姿を表す。 「竜次郎、何かあったの?」 「ああ、ちょっと虫がいたから追い払っただけだ。それより、部屋に戻ろうぜ。俺もお前のスキンケアを手伝ってやるよ」 「え?でも、竜次郎は事務所に行くんじゃなかったの?」 「お前といたいから、今日はやめた」  そんなことでいいのだろうか。  竜次郎の気持ちはとても嬉しいが、湊のために仕事を疎かにして欲しくはない。 「じゃあ、俺も一緒に事務所に行こうか?」 「風呂上がりだから駄目だ。これ以上嗅がれたら減る」 「減る?」  湯冷めするということだろうか?たまに竜次郎の表現は独特だ。  確かに、陽が落ちるのがどんどん早くなっているし、夜は随分と涼しくなった。  よく手入れのされた庭からは秋の虫の鳴き声が聞こえている。 「竜次郎は心配性だよね。でも俺は暑いよりは寒いほうが得意だから、そんなに気を遣ってもらわなくても」  平気、とアピールしたつもりだったが、竜次郎は何故か頭痛を堪えるような表情になってしまった。 「……お前な」 「あれ?違った?」 「いやいい。とにかく今日は行かねえ」  そう宣言されると、竜次郎がする予定だった仕事についてよく知らない湊がこれ以上事務所に行くように主張するのは違う気がしてくる。  竜次郎が本当に事務所にいなければならないときは、恐らく日守が引きずってでも連れていくだろう。  勝手にそんな風に決めて、湊はそれ以上言うのをやめた。  何より、一緒にいてもらえるのが、やっぱり嬉しいのだ。 「じゃあ、塗りにくいとこ塗るの手伝って」 「隅々まで俺に任せとけ」 「竜次郎のエッチ」  下心を隠そうともせず力強く請け負われて、湊は笑ってしまいながら、腰に伸びてきた手を優しく抓った。

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