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エッチなうさぎとおとなのおもちゃ3(竜次郎・湊)
その日……シマ内の視察を終えた竜次郎は、湊の帰宅時間に合わせて事務所に戻った。
リフォームの終わった我が家に直接戻らなかったのは、多少の雑事が残っていたからだ。
湊にもそう連絡したところ、『先に戻ってるね』という返事が送られてきて、簡素な返信に違和感を覚え、眉を寄せる。
疲れているから、やることがあるから、などの理由もなく、竜次郎のいる事務所に来ないで先に戻る、というのは、あまりないことだ。
……何かあったのだろうか。
昨晩抱いた時から湊の出勤前までの記憶をざっと辿ってみても、変わった様子はなかったように思う。
神経質すぎる?…否、湊に関することは、用心してしすぎということはない。
一切隠し事は許さないというわけではないが(竜次郎にも、わざわざ湊に伝えないことというのはある)、相手は隠すこと自体も負担にするような性格なので、探り合うのではなくしつこく聞いておかないと、そのうち話してくれるだろうなんて静観を決めこんだら、翌朝には姿を消している可能性もある。
これは早めに様子を見ておいた方がいいと判断した竜次郎は、全てを投げ出して帰宅した。
……雑事の方は、明日の自分か日守が何とかするだろう。
「あっ、りゅ、竜次郎?…は…早かったね」
声をかけずに無造作に寝室の襖を開けると、湊はギクリとした様子で振り返る。
足音を殺したつもりはないので、普段であれば驚いたりはしないのだが……。
不審に思うと同時に、稼業柄相手の挙動に目敏い男は、湊が敷かれた布団の下に何かを隠したのも見逃さなかった。
「……なんかまずいタイミングで帰ってきたか?」
軽いジャブを打つと、湊は大袈裟なくらいぶんぶんと首を振る。
もう少し澄ました顔をしていればいいのに、湊は基本的に隠し事が下手だ。
接客業だというのに、それで業務に支障はないのだろうか。
「まだ時間かかるのかなって思ってたから。……今日はもうお仕事おしまい?」
頷き、湊の隣にどかっと座ると、いつものように自然に身を寄せてくるので、少しだけホッとした。
自分に対して思うところがある、というわけではなさそうだ。
しかし、原因が自分ではないとなると、可能性は無限に広がってしまう。
やはり直球で聞くしかないかと竜次郎は頭をかいた。
「あー……お前、何か俺に話したいことがあるんじゃねえか?」
「えっ……」
湊は弾かれたように顔を上げる。
「なんか様子が変だから気になってよ」
「……………………」
黙るのか。
何なのだろう。甚だ心配だ。
強引に言わせた方がいいのか、一旦引いた方がいいのか。
内心唸っていると、湊は何かもじもじしだした。
心なしか顔が赤い気がする。
誘われている……とは短絡的な考えだろうか。小便に行きたいだけとか、もしくは体調が悪いなんて可能性もある。
見切り発車は危険だと、竜次郎は辛抱強く湊の言葉を待った。
「竜次郎、あの、じゃあ、聞いてもいい?」
「?なんだ」
湊は、先程布団の下に隠したものを引っ張り出した。
麻雀の牌でも入っていそうな重厚なケースだ。
ぱちんと留め金を開けて、見せられた中身に眉を寄せた。
「これ……使ったことある?」
細長い棒が、並んでいる。
よく見ると少しずつ太さや長さ、形状が異なっていて、緩くカーブを描いていたり、先端にリングのついているものなど色々だ。
そういう頭ではなかったため一瞬ピンと来なかったが、湊の表情と結びつけるとすぐにそれが何のための物なのかに思い至った。
尿道用の道具だ。またマニアックな……。
「八重崎さんから、ちょっと試してほしいのがあるって言われて、俺、前のオナホみたいなやつかなって思って、そしたら」
「……これだったのか」
「うん……。ど、どうしたらいいと思う?」
「お前がやってみてえかどうかじゃねえか?抵抗あんなら、自分には無理だっつって返しても、文句は言われねえだろ」
「そ、そっか」
これを言い出しづらくて、いつもと違う態度だったのか。
脱力しながら受け取って中を検分すると、初心者にはどうするのがいいだとか注意点だとかを事細かに記してある謎の説明書がついている。
図解なども入っていて凝っているが、妙に詳しく書かれていてちょっと引く。
そんなに熱心に開発するほどの場所かと若干呆れていると、湊がちょこんと袖を引っ張った。
「あの……、竜次郎は、してみたい?」
「ああ?俺は……」
どちらかいうとSM的なプレイだ。
湊がやりたいのならばともかく、強要したいほど興味はない。
ただ、男というのはいくつになってもいらない探求心のある生き物で、湊のものを間近で見るときに、ヒクつくその穴に何かを突っ込んでみたくなったことが一度もないかというとそれはノーである。
説明書にも書かれているが、衛生に気を付ければ安全なプレイであるというのであれば、一度くらいやってみるのも悪くはないと思う。
「まあ、お前にするんなら、ちっとは興味あるな」
「じゃあ、する?」
「いや、俺はいいけどよ。お前はいいのか。怖くねえか?」
「うん。俺も竜次郎にしてもらえるなら、ちょっと興味ある……」
頬を染めてこくんと頷くのがかわいくて、うっかり尿道どころではなくなりかけた竜次郎であった。
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