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第10話 酒は飲んでも呑まれるな

「はっ?!」  目を覚ますと、勇気は裸でベッドの中にいた。一体、と周りを見ると、そこは見知らぬ誰かのワンルームで、おまけにバスローブ姿の要が立っていたものだから、勇気は青褪めた。 「ま、ままままさか……!」 「いや、無いよ、安心して」  勇気が何かいうより先に、要はため息を吐いて首を振る。 「君がゲロゲロ吐き出したから仕方なく俺の部屋に連れて帰っただけ。服は今洗濯してるよ」 「あっ、あ、それは、ご、ごめんなさい……」 「いいよ、気にしてないから。はい、お水」  要は本当にそれ自体は気にしていない様子で、勇気に水の入ったグラスを差し出してくる。それをありがたく受け取って呑んでいると、記憶が戻って来た。  週末。約束通り、愛について語り合うため、要と飲み屋に出かけた。そして乾杯したところまでは覚えている。しかし、そこから先の記憶が無い。 「君について、とても面白いことがわかったよ」 「ほ、ほんとですか?」 「うん。君がとても酔ってるとは思えないぐらい、しっかり受け答えをするってことと……あと、……」 「あと……?」 「君が抱いたのって、男なんだよね?」 「えっ?! まさか、そんな!」  慌てて否定したものの、要は「いいんだよ」と首を振る。 「俺の彼女もホントは男だしね」 「えっ、えっ?!」 「やっぱり、覚えてないんだなあ……すごいね、あんなにしっかり受け答えしてたのに、べろんべろんに酔ってたんだね……」 「ちょちょ、情報量が多過ぎます、順番に説明してください」  混乱しきってそう言うと、要は「まあ、そうだね」と事の経緯を教えてくれた。  二人で呑み始めてすぐだ。ところでそのお相手の彼女はどんな子なのか、と要が尋ねると、勇気はあっさりと、実は男なんですと答えた。えっ、と驚いている間にも、金髪で、すごい美人のハーフで、片言の日本語が可愛くて、と畳み掛けるように秘密を暴露し始めた。  宮﨑さんは? と振られたので、こちらも相応の秘密を言うべきだろうと、実は自分の彼女も男だと伝える。勇気は酔った様子も無く、要の話を熱心に聞いて、愛とは何か、好きとは何かについて真剣に悩んでいる様子もあった。  どうしてそんなに悩むのか、と尋ねたところ、出会いからこれまでの事を赤裸々に説明された。酔った勢いで嫁にすると言い、キスをし、セックスを二回もしてしまった、でも何も覚えていない。  遊びだった、無かったことにしてほしいと言えるほど彼に情がないわけではないが、しかし好きだから、愛しているから抱いたと言えるほどの熱い感情も無かった。だから、困っているのだ。勇気はそう言っていた。  要はこれまで肉体関係以上のものを誰かに求めたことはなく、セックスは愛と直結するものではなかった。セックスは挨拶のようなもので、したからなんだという類だ。しかし、勇気にとっては特別な意味を持つらしい、と理解した。  なるほど、そう言われてみれば、今の相手のことを考えると、心が温かくなる。珍しくセックス以外の時も接しているし、たまに食事もする。映画を見に行ったり、買い物に行ったりもした。そんな事は初めてだ。だからそれが愛なのだとしたら、要にとって愛とは、セックス以外でも相手と一緒にいられること、だ。  勇気にそう言うと、彼は「なるほど」と納得した様子で、頷いた。  なら、俺達は愛し合ってたかもしれない、ラーメン食べに行ったし。  ラーメンを食べたぐらいで愛になるなら安いものだが、酔っ払い同士の真剣な話し合いの結果得られた結論がそれで、そこからは他愛も無い話をしながら呑み続け、最終的に勇気が吐き出したので仕方なく家に連れ帰った。 「つまりね、勇気君。君は酔うと、とんでもなく素直になってしまうんだよ」  要はそう締め括った。確かに、呆気なく自分の秘密について暴露しすぎだ。 「だから、俺は……自分の気持ちに素直に……キスや……セックスを……」 「まあ、それもあるし、あと少し気になることも有って」 「気になること?」  勇気が首を傾げると、要は勇気にずいと顔を寄せて言った。 「君が会社で元ヤンである自分の本性を隠しているから、酒が入るとオープンになる。そこまではまあいいんだよ、でも、少しオープンにし過ぎなんだ」 「それは……、酒が入ってるからじゃ?」 「うーん、なんていうのかな。俺はこう感じたんだよね。もしかしたら勇気君は、自分の本心を見せるからこれ以上は追求してくれるな、って、先にカードを切ってるんじゃないかなって」  先に秘密をまくしたてられて、あなたは? って聞かれたら、同じだけ秘密を返すのがマナーかなって思うだろう。そうすると、勇気君の暴露話をそれ以上追求することは難しくなるんだよ。  要の言葉に勇気はますます首を傾げた。とすると、どういうことなのか。 「ねえ、勇気君。君はもしかして、元ヤンであることや、抱いたのが男だったこと以上に、人に知られたくないと思ってることが有るんじゃないのかい?」  そう言われても、勇気には心当たりが無かった。  

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