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第1話③

 俺が諦め顔でナポリタンをフォークに巻き付けていると、 「あ、あのね、蘭さん、実は、何でも屋さんに依頼があるんだけど……」  志岐が居ずまいを正し、もじもじと大きな瞳を揺らした。 「なに?」  首を傾げて先を促すと、志岐は傍らに置いていた通学バッグから、一枚のプリント用紙を取り出した。 「えっとね、次の作品展に出す、油絵のモデルになってほしいんだ」  そう言ってプリントを俺に手渡そうとしたが、雨城が横からサッと取り上げる。 「雨城!」  俺が咎めるのも聞かず、雨城はその文面に目を通す。すると、その手がわなわなと震え始めた。 「な、なんでこのテーマで、こいつにモデルを頼むんだ!?」  怒りに、みるみる顔を真っ赤にしていく。 「いくらこいつが日本人離れした顔立ちで……、華奢な身体付きが、よ、妖精と見紛うばかりだからって……」 「……おい、おまえ」  俺が引き気味の声を出すと、雨城はハッと我に返ったように言葉を呑み込み、首を横に振る。 「とにかく、ダメだダメだ! この依頼は断る!」 「おいっ、俺への貴重な依頼を勝手に断るな!」  俺は雨城の手からプリントをひったくった。そして俺もそれを読むと、パチパチと目を瞬かせた。 「……へ? なんで俺? 俺でいいわけ?」  そこには、募集作品のテーマとして、『あなたがこの世で最も美しいと思うもの』と書かれていたからだった。 「いいに決まってる! 蘭さんがいいんだ! 蘭さんじゃなきゃ、ダメなんだ!」  志岐は熱のこもった瞳で俺をまっすぐに見つめてくる。 「報酬なら、毎日晩飯持ってくるから! あ、あと、この事務所の掃除もする!」 「そんなの、おまえ得なだけじゃないか! 蘭太郎に会う口実を作りたいだけだろう! 報酬だ、金を払え!」  雨城が立ち上がって人差し指を突き付ける。 「おい、雨城、子供相手にそんなこと言うな」 「こいつが子供なものか! この目を見ろ! もう立派な男、だ! おまえはなあ、ほんと昔から」 「あー、もううるさいうるさい。わかったから、志岐、その依頼受けるよ」 「ほんと!? ありがとっ、蘭さん!」  志岐はプリントを持つ俺の手を両手でギュッと包み込んだ。そして、なぜかチラリと雨城を盗み見る。 「どさくさに紛れてこんの小悪魔……っ!! ダメだ。絶対にダメだ!」 「雨城、これ以上俺の仕事に口出しすると、あのこと、志岐に喋るからな」 「な……」  俺が冷えた視線を送ると、雨城の顔が途端に青ざめた。

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