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第3話②
「な、なんだよ」
「雨城! おまえが言ったんだろ?」
「は? なんのことだ? ってか、何怒ってんだ?」
「おまえが、俺に約束させたんじゃないかっ!」
怒鳴った声とは裏腹に、蘭太郎の表情はなぜか傷付いた子供のようだった。
「おい、どうした……?」
心配になり首をかしげて訊ねると、蘭太郎はふいと顔を背けた。
「……雨城が、おまえ以外の男とふたりきりになるなって……。なのに」
「……え? あっ」
俺は思わず蘭太郎の両肩を掴んだ。その瞳を、腰を屈めて覗き込む。
「まさか志岐になんかされたのか!?」
「されてない! されるわけないだろ! けど……」
蘭太郎の声は段々と小さくなっていく。
「俺は、おまえが居るから、おまえが、見てくれると思ったから、その……」
そして、最後には唇を噛んで俯いた。その耳の端が赤い。
「え……」
俺は掴んでいた両肩をそのまま腕の中に引き込んだ。
「お、おいっ、何するっ」
「それって、俺のこと……?」
訊ねながらも、確信したかのように蘭太郎の身体を力いっぱい抱き締めた。
「雨城、痛いだろ! 離せ!」
「いや、離さない」
ジタバタともがく蘭太郎の耳元に顔を寄せる。
「好きだ」
囁くと、その動きがピタリと止まった。
「好きだ。ずっと、おまえが好きだった、蘭太郎」
一度溢れると、もう止まらなかった。十年以上の蘭太郎への想いが次々に零れ出す。
「好きだ、俺にはおまえだけだ、大好きなんだ」
「わかった、わかったから、もうそれ以上言うな!」
その声は泣き出しそうだった。
「蘭太郎」
無理やり顔を上げさせた。眦は赤く、潤んだ瞳で俺を睨む。
「好きだ」
それでも俺はもう一度、念を押すかのようにそう言って、顔を近づける。蘭太郎は俺の唇を静かに受け入れた。
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