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第4話

   寝台が軋む音に、目を覚ます。父さんでもナギでもない。知らない男の人の顔があった。瞳の色が、血のように赤い。  ここはどこだっただろう。ナギが、竜のもとにお嫁さんに行って、それで、僕のことも呼んでくれて、それで、それで、そこからのことがよく思い出せない。ナギが元気そうで安心したことだけを覚えている。 「間違いない。俺の、番だ」  男の人は、僕の首筋へと鼻を寄せ、そう呟いた。髪は長く、真っ白で、見たことがない色だった。少し垂れた目尻が濡れている。  どこか、辛いところがあるのだろうか。  その人が身体を起こすと同時に、涙の粒が、僕の頬に落ちた。掌が、それをぬぐうように動く。  驚いた。 「どうした? 色々と話を聞かせてくれ」    この人は、どうして僕をこんなに穏やかな目で見るのだろう。こんなに優しく触れてくれるのだろう。じわじわと身体の奥から熱が上ってくる。手元にあった布団をぎゅうと握りしめた。 「ええと、まず名前は」  首を傾げられてしまい、焦る。どうしよう。咳すら出ない。口だけが大きく2回、開いては閉じた。  恥ずかしい。消えてしまいたい。 「兄さんから離れて!」  ナギが飛び込んできた。僕を庇うように間に割り込み、男の人を睨み付ける。ナギの体温に触れ、ようやく息を吐くことができた。心臓が、バクバクと痛いくらいに打っている。  男の人は、眉間に皺を寄せ、目を細めた。 「なんだ。ヴィラの嫁。邪魔だ」  そこに先ほどまでの穏やかさはない。僕はナギの腕を叩き、離れるよう促したが、ナギは姿勢を変えなかった。 「私の妻から離れろ、兄さん!」  目をやれば、そこには、また知らない男の人が立っていた。いや、知っている。僕がここに来たばかりのときに、ナギと言い争っていた人だ。なんとなく察してはいたが、この人が、ナギの竜なんだ。  目は赤く、短い髪は漆黒だった。うん、うん、かっこいい。それに、ナギを大事にしてくれているようだ。   「ちょっと! 僕の頭を撫でてる場合じゃないよ、兄さん! 『よかったね』って何が! あんたも早くどいてよ! いつまで覆い被さってるつもり?」  竜が人の形をとることは知ってはいたが、実際に見てみると驚きだ。リルリラと呼ばれていた彼らもそうだったが、言葉も通じるし、こうして、兄弟で言い合いをしている姿は、より人間味があって、不思議な感じがする。  白髪の男の人は、渋々と行った様子で、寝台から降りた。それとは入れ替わりにナギが寝台に上がり、僕を抱きしめ、彼と対峙をする。 「で、兄さんはここで何をしていたの」 「俺の番に会いに来ただけだ。印持ちを見つけていたなら、何故すぐに連絡を寄越さず、隠していた」 「はあ? ナギは私の妻だけど!」 「ナギ? ナギというのか、彼は。いや、俺の妻だ。お前にはもうそこに妻がいるだろう」 「はあ?」 「はあ?」  

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