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第5話
「私はヴィラ。ナギの夫だ」
「俺はフェス。チカの夫だ」
ボロボロになった部屋の中には、彼ら2人と、僕とナギ、そしてリルリラ様がいる。竜の兄弟の言い合いは、やがては、手が出て足が出ての大騒動となった。それはもう凄まじく、僕はナギを抱き、ナギは僕を抱き、青ざめるしかなかった。
皆、一様に正座をし、今この場で立っているのはリルリラ様だけだ。
どうやら、誤解があったようだ。
フェス様の目線が痛い。すごくすごく申し訳ないことになってしまった。リルリラ様は大きくため息を吐いた。
「これは、ナギ様の兄です。ナギ様の要望で、特別にお連れしましたが、印持ちではありません」「ただの付属物にすぎませんわ。残念ながら、フェス様待望のお嫁さんではありません」
俯き、沈黙に耐える。印持ちではないと知ったら、彼が、もうあんな風に触れてくれることはないだろう。僕への興味もなくなるだろう。勘違いをさせてしまった。ぬか喜びをさせてしまった。それなのに、謝罪の言葉も伝えられない。余計に嫌われてしまう。
「兄さんは悪くないよ。勝手に勘違いしたのは、あいつなんだから」
ナギが、僕の拳の上にそっと、手を添えてくれた。いつのまにか、強く握りしめていたらしい。解こうとしてもうまくいかず、小さく震え続ける。
寒い。
「そんなはずはない。彼は、間違いなく俺の番だ」
ナギを抱くと、ちゃんと暖かかった。ナギは冷えていないようだ。
フェス様の言葉をこれ以上聞きたくなかった。これ以上、失望されてくなかった。それなのに、フェス様は、なおも食い下がり、僕の方に這い寄ってきた。顔を背け、ナギの肩口に埋める。
「兄さんに近づくな!」
「うるさいぞ、弟の嫁。少し黙っていろ」
手が、僕の後頭部に触れ、髪に触れ、中をかき分けるように動く。次は、耳朶を擦られ、首筋へと指が動く。服の襟が後ろに引っ張られ、中をのぞき込まれていると感じた。
寒かったのに、今は、身体が熱い。
「ほら」
やがて、彼は言った。背中の中央あたりを指で弾かれ、身体が跳ね上がる。「痣か傷か。大半が欠けているが」、頭上から舌打ちが聞こえてきた。
「ある」
服を剥かれ、ナギの膝へ上半身を伏せられる。4人の、息を呑む気配がした。
「リル、リラ。チカの身支度はお前達がしたんじゃなかったのか」
「申し訳ありません、ヴィラ様。鳥たちに任せておりました」「すいません、鳥たちは、きれいにすることにしか関心がありませんので」
「いや、いい。とにかく、」
こんなにも注目されるのは初めてで、しかも、1人で背中を晒していると考えると、あまりのみっともなさに、恥ずかしくなってきた。
自分でも見たことがない場所だ。きっと、汚い。汚いって、思われた。
「おめでとう、兄さん!」
「すごいことですよ、お二人揃って、番が見つかるなんて!」「早く、王にご報告しましょう! お喜びになります!」
ようやく、服がかけられた。慌てて、俯せたまま、それを掻き抱く。汚いものを見せてしまった。
「僕は認めないから!」
ナギが、服の上から更に覆い被さってくれた。
「信用できない!」
「ヴィラ、お前の番だろう。どうにかしろ」
「どうにかって、私も困ってるんだよね。何かと言えば、死んでやる死んでやるって騒がれてさ」
「どけ、弟の嫁」
ナギの身体の重みが消えた。両脇に手を差し入れられ、ひょいと起こされる。顔を見られたくなくて、慌てて、腕を目の前で交差させた。
「どうした、可愛い顔を見せてくれ」
首を横に振る。フェス様は、無理には腕を剥がそうとはしなかった。僕を腕の中に抱き、唇をこめかみのあたりに寄せてくる。くすぐったい。
「もう体調はいいのだろう。島を案内しよう」
「兄さん!」
「ナギはこっち。これ以上は本気で怒られそうだから、少し下がっていよう」
「もちろん、私が守るけどね!」というヴィラ様の力強い言葉に、「死ねっ!」という更に力強いナギの言葉が被さった。
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