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第7話
「それだけは勘弁してください。おすすめしません。後悔します。無理です。交わるというのであれば、ここから飛び降ります」
無我夢中で手を動かした。乱れた字を、地面に長々と綴る。途中、風が、頭上の生い茂った葉を大きく左右に揺らしていたが、それでも、書き続けた。
怒っただろうか。顔を上げられず、木の枝を握りしめ、じっとしていると、やがて、深いため息が聞こえてきた。
「わかった」
木の枝を手から外され、また、抱きかかえられる。
「城に戻るか。弟の嫁もうるさいしな」
帰りは静かだった。機嫌を損ねてしまったのだろう。フェス様は、ここまで来たときとは違い、大股で地面を強く踏みしめながら歩いている。僕の方を見てもくれない。
じくと胸のあたりが痛む。
初めて、求められた。優しく触れてもらえた。僕は、それに応えたいと思っている。けど、それがよくないことであるのもわかっている。
やり直しはできないと言っていたけれど、本当にそうなのだろうか。何か方法はないんだろうか。申し訳ない。申し訳ない。
***
フェス様は、あれきり、僕の部屋を訪れることはなかった。寂しく、残念にも思ったが、やはり何か間違いがあったのだろうと安堵する部分も大きかった。
僕よりも、いいお嫁さんが見つかったのだとしたら、それはすごく喜ばしいことだ。
ナギは、ヴィラ様から逃げ回ったり、反対に捕まっていたりと忙しそうだ。
そして、僕は1人でいる時間が増えた。
何をしたらいいのかわからないというのは初めてだった。
家にいるときは、母さん父さんに言われるがままに動けばよかった。空いた時間は全て身体を休めることに使っていた。そうしないと、保たなかった。
けれど今は違う。もう十分に休んでしまった。
何かできることはないだろうか。
部屋を出て、フェス様が案内をしてくれた時の記憶を頼りに城内を歩く。そこで、慌ただしく動き回っている集団を見つけた。調理場のようだ。
「忙しい忙しい」
「掃除、洗濯、お食事の用意!」
「忙しい忙しい」
水場や畑のあたりにいた『鳥』達と異なり、翼は少し小さく、その顔は、険しかった。声をかけるのも躊躇われ、少し離れた場所で立っていると、その内の1人――羽?――と目が合った。
「誰だ、お前!」
「暇なら手伝え!」
「掃除、洗濯、お食事の用意!」
「忙しい忙しい」
迫力に圧され、頷きながら、彼らに近づく。まずはと、樽いっぱいの布を渡された。指さされた先には、同じく樽いっぱいの布を傍らに置き、しゃがみ込み、壁から噴き出している水で洗い物をしている『鳥』達がいた。
家でも、洗濯はよくやっていた。『鳥』達に混じり、布を洗い、絞り、風通しのいいところに干す。
「忙しい忙しい」
口癖なのだろうか、皆が口々にそう言う。僕も真似して口を動かしてみた。
少し、楽しくなった。
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