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第16話 契り

 国に戻る前に、東の国の元王の館で、四神と麒麟である俺を含めて会議を行い、今後の方針を話し合った。  まず赤麗の暴走については、青羅からの提案で、力が誤発動したことが原因だということにすることになった。赤麗は罪を償いたいと言ったが、怪我人も居らず宮殿と金庫の焼失だけで被害が収まったため、責任を取って赤麗の個人資産からその弁済を行うことで帳消しにしようということになった。目撃者も少ないため、疑う者はいないだろう。  また、金庫から奪った金に関しては、無いことが広まる前に纏めて白月が元の場所に戻したので、東の国の民以外は真実を知らないままだ。  焼失した宮殿については、再建しないこととなった。理由は、豪奢な宮殿も贅沢な暮らしも、帝に必要なものではないから。主に俺と黒威の意見だ。跡地は瓦礫を撤去した後、整備して市民が利用できる庭園とするつもりでいる。  各自持ち帰り案件となったのは、今後は中央と各国を隔てていた門を常時開放し、自由な交易が出来るようにする、というもの。各国の貴族や商人に反発が起こる可能性もあるため、各国で話し合ってから決めることになった。  個人的には特権階級だけが中央の国に住めるというのは不平等だし、往来が活発になれば、中央に各国の物産が集まって活気のある国になると思う。そうなれば各国の産業も発展して豊かになると思うのだが、まだまだ先は長そうだ。  話し合いの最後に、正式に帝を玄武の王黒威とすることが決まった。そして帝の即位に際して、戴冠式のようなものは今まで行われたことはなく、宮殿で執り行われた帝の宣誓のみだったというが、今回は赤麗、青羅、白月の提案で、五つの国を巡る即位の祝賀パレードを行うことになった。「帝と妃の御成婚パレードとも言えるね」と白月に茶化されたけど、青羅が全ての国民が参加できる祭りとして必要だと言うので渋々同意し、一月後から順にパレードを行うことになりそうだ。  また一週間後に会議を行うことにして、一晩東の国の館に泊まった後翌日の朝解散となった。  俺と黒威、水海は青羅に借りた鹿に似たヤーゴという動物に乗って北の国境まで半日ほど使って移動し、北の国に入ると迎えにきた兵士達と共に王狼で城に向かった。国境から城までは途中休憩を挟みながらではあるが、朝出発して日が暮れる頃にようやく到着した。どれくらいの広さがあるのか、ちゃんと地図を見せてもらおうと心底思った。  夕食は城の兵士たちと共に食卓を囲んで、北の国の郷土料理に舌鼓を打った。肉や野菜が入った具だくさんのスープと穀物を練り上げて作ったパン、川魚の燻製の三つは特に美味しかった。  夕食の後宴会が始まったが、未成年なので先にお暇し、風呂に入ることにした。また水海に女性との入浴を勧められたが、丁重に断って広い浴室で一人風呂という贅沢を楽しむ。 「はあぁー……」  身体をスポンジ石鹸で擦り洗い流した後、湯船に浸かった瞬間思わず深い溜息が出た。移動中一度も風呂に入っていなかったこともあるし、一人の時間を持ったのは久々だったから、足を投げ出して寛ぐことのできる幸福感に満たされた。  初めてこの世界に、この国に来た時も風呂に入ったことを思い出す。唐突にやってきた求婚者に、自分の運命に、ただただ戸惑っていた。そしてそのまま流されていくことを受け入れようとさえしていた。  それがいかに愚かだったか、今は分かる。あのまま流されて黒威、もしくは赤麗の妃となっていたとしたら、俺はこの世界のことを何一つ知らないまま、飾りものの麒麟妃として生きたのだろう。この世界に来たことを悔い、元の世界への郷愁を抱いたまま。  でも俺は、この世界の歩んできた歴史の一部を知り、四神それぞれの人生を知って、会って話して、黒威を帝に選んだ。俺が共に歩みたいと思う人を、自分の意思で。自分の選択を悔いることは、決してないだろう。俺は運命を受け入れるのではなく、選び取ったのだから。  色々なことが起こった濃い日々に想いを巡らせて、今日はゆっくり寝ようと思った時。ふと、もしかして俺の寝室ってない――っていうか黒威の寝室がそうなのでは、ということに気付いた。初めてのあの夜も、思いのほか広いベッドで喜んだが、黒威が至極当然といった様子で入ってきて…… 「あーあー! それ以上は思い出さなくていいー!」  勝手に思い出して自滅した俺は、顔が火照ってきたので湯船から上がった。  ――本当に黒威を帝とするには、避けられないことだから、覚悟を決めた方がいいよ。  会議を終え解散した朝、別れ際に白月が俺に言ったことを思い出す。それはつまり、黒威と性交する、ということだ。  東の国の館でも、移動する間のテントでも、俺達は別々のベッドで寝ていたし、それを意識することは無かった。しかし、同室で、同じベッドで寝るとなっては、意識するとかいうレベルではないのだ。  もしかしなくても、今日なのでは……と俺はスポンジ石鹸を手にし、もう一度入念に身体を洗った。  用意してもらった下着とガウンに着替え、一応道に迷わないように近くにいたメイドさんに声を掛けて寝室に案内してもらった。やはり、以前と同じ部屋だ。  ドアを開けると、暖炉に火が点っているぐらいで何の変哲もなく、今頃宴会中の黒威は勿論居なかった。 思いっきりベッドに頭から飛び込み、うつ伏せになってじたばたと手足をばたつかせる。 俺は童貞なばかりか、まともに恋愛をしたことさえない。黒威に初めて会った日の晩、勢い任せにされたキスがファーストキスだったくらいだ。こんな気持ちを抱えるのは初めてで、どうしたらいいか分からない。 深く溜息を吐いた後、毛皮の毛布に包まった。そして、ふとこのまま寝たふりをしたら、何も起こらずにそのままやり過ごせるかもしれない、と思った。というか、長旅で疲れているので、黒威もそのまま寝るかもしれない。 が、白月の言葉を思い出し、覚悟を決めろ、俺は男だ、こんなことくらいでビビるようなタマじゃないだろ、と自分を鼓舞した。遅かれ早かれ、いつか必ずすることなのだから―― 仰向けになり、天井を睨み付けた後、決意して起き上がろうとした瞬間だった。ドアが開く音がして動きを止め、目を閉じた。近づいてくる気配に思わず身を硬くする。いや、決意したんじゃないのかよ。 ベッドが揺れたと思うと、毛布が持ち上げられ、衣擦れの音がした。俺の左隣に誰か横たわっているという確かな感覚が伝わってくる。そして、俺の右側が重みで凹んで、俺の上に覆い被さっているのだと分かる。 寝たふりでやり過ごすのは初めから無理だったのだ。いっそ来るなら来い、という心境になる。が、次の瞬間、額に柔らかいものが触れる感覚がした後、気配は離れ、少し離れた隣に横になるのが分かった。しばらくして、安らかな寝息が聞こえ始める。 急激に恥ずかしさが沸き起こって、恐らくこのような状況でなければ枕をサンドバッグ代わりに殴打しているところだ。 俺はゆっくりと寝返りを打つ感じで、隣に寝ている人物の方を向いた。そしてゆっくりと目を開ける。 黒威だった。仰向けになって、ゆっくりと胸を上下させて穏やかに眠っている。隣に俺が寝ていても気にしないのか、相当疲れているのか、酒に酔っているのか、分からないけれど。 横から見ると、黒威の鼻の高さや睫毛の長さが良く分かった。均衡のとれた綺麗な顔をしていると思う。そして服を着ていても分かる厚い胸板と筋肉質な、鍛えられた腕。張りのある褐色の肌は、筋肉の隆起を際立たせている。これで黒威が睨み付けたりしなければ、女子高生にキャーキャー言われそうなものだが。 気付くと心臓の音が速くなっていた。身体も、いつもより熱い。風呂上がりのせいだと思っていたけれど、どうやらそうじゃないらしい。 冷静に考えたら、俺は思春期真っ只中なのだ。クラスの男子は毎日グラビアアイドルの写真を休み時間に凝視し、週末には友達の家でエロビデオ観賞会を催したりしていた。そう、つまり、こういう状況下に置かれれば嫌でも身体が疼くお年頃というわけだ。更に言えば、こっちの世界に来てからというもの、一度も抜いていない。 頭では、不味いと分かっていた。そんなことをしたら、黒威が目を覚ましてしまう。分かっていた、けれど、駄目だと言い聞かせればするほど、身体が火照ってどうしようもなくなっていった。 ガウンの前を開け、下着の中に手を差し入れた。指先が茎に触れると、それだけでびりびりと快感が伝わってくる。 愛撫を欲するように頭を擡げ、先走りで濡れそぼった尖端を親指の腹で撫でた。 「っ……」  危うく声が出そうになるのを片手で塞いで、もう片方の手で竿を握り込み、ゆっくりと上下に動かし始める。  一度始めてしまったら止めることなど出来なかった。俺はただ、目の前の黒威の寝顔を見ながら、堪えきれない火照りから解放されたい一心で、欲望のまま茎を扱いた。黒威を起こすかもしれないという危惧は、この自慰行為にスリルという、興奮を高めるスパイスを加えるばかりで、抑止力にはならなかった。 「……っふ、ぁ……」  身体が高まっていくのを感じながら、あの夜黒威に触れられた時のことを思い出す。口内を舌で愛撫され、胸の突起を指で撫でまわされた時のことを。 気付くと口を押えていた手で乳首を弄り始めていた。甘い刺激が電気のように走る。 黒威に触れたい。触れて欲しい――。ただそう思いながら、激しく手を動かした。  ――黒威。びくんと身体が震え、目の前で何かが弾けたように、星がチカチカと瞬く。手にどろりとした粘っこい液体が纏わり付く。頭が真っ白になって、何も考えられない。 「今、俺を呼んだな」 「……え」  一瞬何が起こっているのか分からなかった。しかし、気付くと黒威が俺の上に覆い被さっていて、濃紺の瞳が俺を見下ろしていた。 「俺のことが、好きなのか」  もしかして、さっき心の中で呼んだつもりが、声に出ていたのか。真っ直ぐに俺を見詰めるその瞳に、顔が熱くなる。 「ッ……好きに決まってんだろ、ばぁか……!」  俺の答えを聞くと、黒威は嬉しそうに笑って「そうか」と呟いた。そして俺の唇に口付けた。  啄むように唇を食みながら何度も唇を重ねる。熱に浮かされ、俺は黒威の首に両腕を絡めて夢中で口づけを交した。 「っ、あ……ん」  黒威が手で胸の突起を摘んだり捏ねるように愛撫をし始めると、達したばかりで敏感になっている身体がびくびくと震え、喘ぎ声が漏れ始める。 「ん……黒威……っ」  耳を、首筋を舌で舐められ口付けられると、むず痒いような感覚になって顔を背けた。 「石鹸の良い匂いがする……身体を綺麗にしたのは、俺のためか」 「うる、せ……っ」  否定すればいいのに、こんな時でも嘘が吐けない自分が嫌になる。黒威はそれを肯定と受け取ったようで、片手で俺の脚を持ち上げ下着を取り去った。さっき達したばかりなのにもう半勃ちの状態の茎は、出し切っていなかった精液の残滓が尖端を濡らしている。 黒威は俺の両脚を広げると、俺の尻の割れ目を曝け出した。あまりの格好に顔を熱くする。が、黒威が自らの指を口に入れ唾液で濡らすのを見てこれから起こることを想像して腰が引けた。 「痛くはしない。嫌だったら、言ってくれ」  そう言うと、唾液を絡ませた指を露わになっている搾まりにゆっくりと押し込んだ。指が中を押し拡げるように動く。 「……なん、か。変な感じ……っ、く……」  まだ拡がっておらず余裕がないのに、二本目の指が無理矢理挿入され、圧迫感を感じ苦しくなる。中を掻き回す指の動きも荒々しかった。  と、ガウンが肌蹴、黒威の素肌が露わになった。隆起した胸の筋肉、暗くても分かる腹筋の凹凸、と視線を更に視線を落とした先で、下着に収まり切れないほどに硬く勃ち上がった昂ぶりを目にし、思わず身震いする。そして、どうして急くように愛撫するのかを理解した。 「黒威……も、いいからっ……」 「いや、まだ拡げないと痛いだろう」  狭いところに更に三本目の指が押し込まれ、ぐりぐりと中を探るように蠢く。指先が何かを掠めて僅かに下腹部に違和感を覚えたが、快感にまでは至らない刺激に身を捩った。 「お前のっ……好きなように、されっ、たいんだよ……!」  まるで焦らされる様な行為に堪えきれず声を上げる。と、唐突に指が引き抜かれ、圧迫感から解放されたが、妙な違和感が残った。  黒威が静かにガウンを脱ぎ捨て、下着を下すのを見て喉が上下する。そして黒威は俺の両脚を持ってその間に身体を割り入れ、硬くなった肉棒を俺の後孔にあてがった。黒威の体躯に合った俺のものとは比べ物にならないくらい太く長いそれが、俺の中に納まるとは到底思えなかった。 「後悔しても知らないぞ」 「するかよ! お前が、俺のこと……ちゃんと好き、だって言うならな……!」  『麒麟』だから、好きにならなきゃいけないから――そうではないと黒威が言ってくれるなら。まだちゃんと貰えていない言葉を期待して、黒威の顔を見詰める。 「ああ……好きだ、黄太……愛している」  柔らかな微笑みとそのストレートな愛の言葉に見事に撃ち抜かれて、心臓が跳ね上がった。 「いッ、あぁ……!」  瞬間、全身を貫くような痛みと衝撃が走り抜ける。指の比じゃない圧迫感と異物感、肉が抉られるような痛みに身を捩った。生理的なものだろうが、目に涙が浮かぶ。 「黄太……好きだ、愛してるっ……」 「あっ、あぁ……ん、っ……」  俺の腰を掴んで根元まで杭を咥え込ませる。最奥の壁に尖端が押し付けられると、びくびくと身体が勝手に震えた。黒威は俺のその反応を見てか、何度も激しく腰を揺すり。最奥まで穿った。 「っ、あ、くろぃ……いやぁ、あぁっ……」  痛い、苦しい、その中に、快感が混ざり合って、まるでたがが外れたかのように喘ぎ、黒威の律動に合わせて腰が勝手に動いた。  快楽に溺れ頭がどうにかなってしまいそうで、俺は黒威の背に腕を回した。 「ッ、あ、ふ……んっ……!」  と、黒威は俺に口付けると更に俺に圧し掛かるようにして奥の壁に杭を打ち付けた。一瞬意識が飛んだのか、火花が散ったように目の前が真っ白になる。  気付くと腹の上にどろりとした白濁が放たれていて、さっきまで腹の中にあった黒威の一部はもう感じなかった。  小刻みに身体が震えて――いや、痙攣していた。この腹の上の白濁も俺のものじゃない。恐らく俺は、後ろでイったのだ。 「……黄太」  初めての行為のはずが、易々と男を受け入れて達するなんて、どんだけ淫乱なんだ、俺ってやつは、とそんな風にげんなりしているところに名前を呼ばれてはっとして黒威の顔を見る。 「俺は黄太と出会ったあの夜から、ずっと、お前に恋をしている」 「ははっ、嘘つけ!」  黒威の髪を両手で掻き回すと、黒威は俺の手を掴んで、そのまま指先に唇を寄せた。 「一目見た時、まるで煌めく太陽のようだと思った」  深い海の水を解かしたような瞳に、俺の姿が映っている。 「それであの態度か? かなり不愛想だったぜ」 「……初めてだったんだ。誰かを、好きになったのは」  少し恥ずかしそうに、顔を背けて言う黒威の表情には、嘘は微塵もない。俺を睨んだり高圧的な態度を取ったのが、好きな子を虐めてしまう小学生男子と同じものだった、と解釈することにしよう。 「……そっか。じゃあ俺と同じだな」  そう言うと黒威は嬉しそうに笑って、俺を抱き寄せた。俺は包み込むような黒威の温かさに幸福感を覚えて、その胸に顔を埋め、目を閉じた。

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