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「友達だったら慰めて!」すたんぷ
部活をやっていた時の感覚で早く来てしまった教室
朝のホームルームが始まるまで寝ていようと机に突っ伏した。
だんだんと賑やかになる教室にもうそろそろ時間か
と頭では理解するものの睡眠に半分意識を乗っ取られた頭では上手く身体が言うことをきかせられない
と、
「なぁなぁ、ハト〜」
鼓膜を揺らすのは聴き慣れた声
その声に身体は勝手に反応し持ち上がり欠伸を漏らす
条件反射みたいなそれに重症だ、なんて考える。
太陽なんかよりも眩しく見える髪
無意識に眉間に皺を寄せて見やった。
「や、を入れろ。や、を」
「えー、長いじゃん面倒」
「…………はぁ」
一文字が面倒ってなんだ
朝っぱらからよくもまあ、そんな大きな声で話せるよな
ある意味尊敬するわ
俺の名前をふざけた呼び方で呼ぶアホ
全くもって俺とは正反対の五月蝿い男
女好きで自信過剰
そんでもってわりとクズでうるさい長野千鶴(ながのちづる)
共通点なんてひとつもないし趣味が同じでもない
出会いなんか最悪だった。
けれどやたら一緒にいる時間がある。
それを嫌だと感じることは今はない
その関係に擽ったさを抱える始末
「で、なんだよ」
「あいつら距離近すぎねえ?」
「あ?」
あいつらと指さされた方へ今度は目を向ける。
あれは……
「だーかーらー、吉川と松永だよ。今流行りのホモってやつ?」
「なんだ流行りって」
「ンー?なんか流行りらしいよ。隣のクラスの鈴木とか隣の隣のクラスの佐伯とかー隣の、」
「もーいいわ」
くだらない
ホモだのなんだのって、だからなんだ。
他人のそんな話でいちいち騒いでなんかいられるか
お前にだって無縁と言っていいほど関係のない話題だろ
だからこそ、物珍しくてなのかもしれないけれど
俺はその話題を楽しく話せる神経は持っていない
「えーまだあんのに」
「興味ない」
「まあハトは誰にも興味無いもんなー」
その一言が着火剤となる
本当にこいつは……
頭にくる。
「はあ?」
「ん?」
キョトンと目を瞬かせ俺を見つめる千鶴
ほんと馬鹿みてえ
「………アホ」
「は!?なんで急に!?」
「うるせえ馬鹿」
始業の鐘を耳に席を立つ
どこかサボれる場所はないだろうか
いつから、だなんてわからない
気づいたら目で追うようになっていたのだから
「あ!おいちょっと待てよハト!」
「……」
煩わしいと思っていたその声も
「なんなんだよー」
不貞腐れるようなその顔も
「あ!ゆみちゃーんっ!」
俺の気持ちに気づくことのないお前にわかるはずはない
当たり前だけれど
興味が無くなったら離れていく
ちづは俺の事を鳩なんて呼ぶけど、逆だろ
餌があれば群がりなくなったと分かれば飛んで違うところに行ってしまう
猫じゃない理由は三歩歩くと忘れるから
それはニワトリだったか?まあどうでもいいか
俺の気も知らないお前は、いつだって俺の心を乱すんだ。
、
「ってことがあったんだけど酷くね!?」
「「あー……」」
昼休み
いつも昼を一緒に食べている吉川と松永に今朝のことを話す
本当は普段ここにハトもいるけど今日は声をかけずに屋上に来た。
だって急に怒り出して意味わかんねーし
「急にキレてどっか行っちまうしさー。ぜーんぜん気にしてる様子ないしよー」
「それは千鶴が悪い」
「は!?どのへんが!?」
吉川は隣で頷いてるし
え、俺がほんとに悪いの!?
今のは慰めてくれる流れじゃん!
「鈍感すぎるとこ」
「意味わっかんねー」
返ってきた言葉はそれこそありえない
俺が鈍感?
違うね、ハトの方が鈍感だね!
今日だって朝、ハトが教室を出ようとした時
何人女の子が目で追ってたと思う?
あいつは本当に他人に興味が無さすぎるからその視線にすら気づいてないだろう
「こんなに俺はハトのこと考えてるのにほっとくなんて有り得ない!」
「はいはい、飯食えー」
「(あんだけ尽くしてるのに気づいてもらえてないなんてハトも可哀想だなあ)」
相手にされていないのがわかって不貞腐れる。
もーこうなったら誰かに俺を癒してもらうしかない!
スマホのアプリを開いて女の子の名前を探す
簡単に送ったメッセージには直ぐに既読がついて返ってくる。
あーあ、ハトもこれくらい俺の事気にかけろよなあ
、
全寮制のこの学校は授業が終われば部活か寮に帰るかの生徒でだいたい別れる。
部活を辞めた俺は後者で
特にどこかに寄る予定もないので鞄を持って早々に席を立つ
ちらりと覗いた机の上には派手な缶バッチがいくつもついたリュックが放置されているがその持ち主は見当たらない
どうせ女のところだろうな
教室を出る前に声をかけられてきとーに挨拶を返し真っ直ぐ下駄箱へと向かった。
夕飯も終え、時間指定の風呂も上がりあとは就寝のみ
特に何かあったわけでないが身体は疲れていて
早々にベットに潜り込んだ。
点呼の挨拶だけ寮長に返し、すぐにまた目を閉じる。
しかし、暫くたってもどうにも寝れず何度か寝返りを繰り返した。
何を自分が気にしているのかはなんとなくわかっている
ちづのことだ。
明日にはどうせまた懲りずに話しかけてくるのだろう
そう結論づけたが寝る前に浮かんだのがあいつのことだという事実が腹立たしくて瞼をぎゅっと閉じた。
と、
布団の中に違和感
バッ、と布団を捲ると……
「おまっ!?」
「シー、静かにー」
暗がりでもよく見える金色の髪が布団の中でもぞもぞと動いていた。
驚きすぎて怒ることさえ忘れ、ただちづを見つめた。
俺がかけていた布団を頭から被って腹の上に跨る千鶴
ニヤリと、歪んだ口角にハッとしてなんとか声を絞り出した。
「っ……馬鹿かよ」
「ちゃんと小さくノックしましたー」
「……そういう問題じゃねえ」
「気づかないなんて珍しいー考え事?」
お前の事だ、と言えたらどんなに楽だろうか
はあ、と大きめのため息を吐く
驚いたもののそこまで焦っていないのはこれが初めてじゃなかったからだ。
ちづは度々こういうことがある。
まだ爆睡している時ではないことに安堵するくらいには
夜中に忍び込まれることは珍しくない
「で、なんだ」
「ん?」
「消灯後にわざわざ潜り込んできたってことはなんかあんだろ」
本当はこの後のことなんてわかりきってるが
俺にとってこの確認は大事な事だ。
勘違いしないように
間違っても、期待しないように
自惚れないように
「隼人……」
「っ」
寂しさの中に少しの期待と甘さを含んだ柔い声
わかってる。
千鶴がこの顔をする理由も
それでも心臓が騒がしくなるのは仕方がないことだ
、
「……でさー、そーゆー雰囲気になんじゃん?だから、由美ちゃんおっぱいでかいし触ったら気持ちよさそーだなあって手出したらそんなつもり無かったとか言うしーもーめんどいからヤろうと思ったら思いっきりぶっ叩かれるしー」
本当こいつクズだな。
ちづはいつもこうだ
コミュニュケーション能力も高く顔もいい
だから自然と軽い女は寄ってくる。
けれどこいつが手を出そうとするのは毎回硬派といわれるようなお固い女で、本能のままに行動しヤり損なっては毎回俺のところに愚痴りに来る。
そろそろ無理なことを自覚しろ
「それこの前も似たこと言ってなかったか」
「この前はカナちゃん!……ん?サキちゃんだっけ?」
「はぁ……」
そういうところだと心底思うがため息だけ吐いて留める。
だってこの後のことは決まっているのだから
「なんだよーお前も俺が悪いって言うのかよ」
「いや別に。で、どうして欲しいわけ」
「慰めて!」
「……」
バサり、と布団を端の方へやる千鶴
人のもんを雑に扱うな
次に飛んでくるのはTシャツ
千鶴の匂いを鼻に掠めてしまい平常を装うと舌打ちを
「なんも考えたくない」
「……」
いつも何も考えてないだろう
言葉は喉奥に消えていく
考えてないようで考えているやつは多少なりともいる。
でもこいつは本当に何も考えていない
自分が赴くまま好きなことを好きなだけ
後先を考えないからがっつきすぎて女にも振られる。
そのせいでこいつの優しさに他やつは気づかない
自分が踏み出せない一歩を
強引にでも引っ張ってくれることがどれだけありがたいか
初めは鬱陶しくて煩わしくとも必ずそれを感謝する日がくる。
それは俺が一度経験したことだからわかる。
なんて言葉を並べてみても
結局俺はこの手を振り解けないだけだった。
いつからこいつに惹かれたのか
いつの間にかなんて言ったけれど本当は知っている。
覚えている。
俺はあの日からこいつに囚われてるのだから
首に回る腕に目を閉じる。
瞬間、唇感じる熱
「ん、……んっ」
「っ」
熱い舌先が一に結んだ唇をなぞる
小さく口を開けばすぐに滑り込んできた赤
重力のせいで自然と唾液は俺の方へ流れ
飲み込みきれなかったそれは口の端からこぼれ落ちる。
「ちづ、長え」
「ん、だって……きす、気持ちっ……」
求められるようなその行為に片目を開けてそう言えば悩ましげに眉を下げ息を吐き出す千鶴と目が合った。
その瞳は欲に濡れていて
えろい、なんて俺の方が馬鹿だ。
服の中に滑り込ませた指先で背中をなぞる
ぴくり、と身体を揺らした千鶴は
たまらないというように熱い息を吐き出した。
性急に着ていた服を取り去り指先を這わせる。
どこに触れても感じるようでその肌は指の腹に吸い付くようにしっとりと汗を滲ませていた。
「も、いいっ、触んの……い、からっ……こっち」
自分で腰を揺らして主張した俺のを刺激する千鶴
えっろ
「んぅっ……!ぁ、……」
「……っ?」
指を一本挿入れた所で違和感
こいつ今まで女のところに行ってたんだよな?
「ちづ」
「ん、なにっ」
自分でいい所に当てるように千鶴は腰を動かす
その姿があまりにも扇情的で質問を忘れて息を飲む
「ぁ、やっばぁ……」
「……お前、なんでこんな後ろ緩いんだよ」
千鶴の声で我に返り聞こうとしていた問を投げかける。
そう、俺たちが最後にシたのは少し前だ
それにしては一本目の指をすんなり受け入れ
蕾は既に三本目まで難なく呑み込んでいる。
「んっ、だって、ここ来る前に……準備っした、からぁ……!」
「は?」
じゃあなんだ
未遂だったにしろ女のところでそのまま自分の後ろを解してきたってことか?
本当にこいつは……
「あっ、はとぉっ……そこっ、そこっ、すきっ……!」
指先がいい所を掠めたようで首にぎゅっとしがみついた千鶴は何度も好きと漏らす
いい所、という意味であって俺自身のことではない
わかっていてもその言葉に我慢なんかできるはずない
指を抜いてすでに勃ち上がった自身のを千鶴の後ろに擦り付ける
すると悩ましげな声が鼓膜を叩き、潤んだ瞳と視線が交わった。
「焦らす、なっ」
「……っ」
ぞくり、
背筋を何かが這う感覚
自身よりも細いけれど骨ばった男の腰を掴み欲望のままに自分のを打ち付けた。
「んあッ!ばっ、いきな………っ、ナカ、入って……」
与えられた衝撃と快楽に千鶴は瞳をチカチカとさせ瞬きした隙間から涙を落とす
喉を仰け反らせはくっ、と呼吸を繰り返すと喉仏が上下した。
うまそう
腕を引いて倒れ込むように落ちてきた身体を抱きとめる
喉のそれを甘く食み何度も何度も舌で刺激する。
その度にナカがきゅぅ、と戦慄いた。
「んんッ……な、にっ、やだっ、そこっ」
「……っ、なんで。ナカ、やべえんだけど」
「やだっ、やっ……んっ、やだっ」
否定の言葉を口にしては首を振るう千鶴
パラパラと舞う金色の髪が暗がりでも輝いて花火みたいに目に映る
ああ綺麗だな、と
「ばっ、おっきく……す、んなぁっ」
「……無茶、言うなよ」
いやいやと千鶴は先程から駄々っ子のよう
普段のそれはうざいだけなのにこういう時のちづは可愛く見えてしかたない
「あ、ぅっ……」
「ちづ、声、下げろ」
消灯時間が過ぎた今
見回る人間はいないにしろ大きければ隣りに聞こえてしまう
それはよくない
こいつのこんな声、俺だけが知っていればいい
「ん、んんッ!……ッあ、……こえ、出ちゃっ」
「くち、」
「ひっ、ぅん、んんっ!ん、っふ」
俺はお前がいればなんもいらない
本当にそうだ
俺は別に他人なんかどうでもいいから
朝、ちづが言っていたことは間違ってはいない
他人に興味は無い
こいつを除いては
「んんっ、すきっ、はやとぉ……好きっ」
うそつき
次の日にはよくわからない女の名前を呟いているだろう
次の日にはよくわからない女にも言っているんだろ
俺は何回お前を慰めればいいんだろうな
感情のままに俺は千鶴の腰を強く打ち付け
欲望を放つ
もう一度千鶴は大きく震え
窒息しそうなほどの口付けに果てた。
どっと疲れが押し寄せて眠くなってくる。
ああなんだっけか
こいつに、なんか言わなきゃいけねえこと……
「……お前、俺以外のとこ行くなよ」
「はぁ、っは……へ?」
俺に項垂れて呼吸を整えていた千鶴は間抜けな声を漏らす
顔も間抜け
「……」
頭がボーとしてきた。
眠い
「なーにー、ハトくん珍しい嫉妬?」
「うん」
「は?まじで?」
もうほとんどただの相槌
なんて答えてっかもわかんねーや
「……だから、いくなよ」
「ちょ、はと、ねえ、今のもっかい」
「……」
「寝てる、」
完全に意識を手放したあと
「ばか隼人……」
真っ赤な顔して千鶴がそんなことを言っていただなんて
俺は知らない
、
お寝坊な隼人と千鶴を呼びに行くのが俺たちの日課
騒がしい寮内の廊下で吉川と他愛もない話をしながら迎えに行く
「ちづいなかったなー」
「なー」
目の前にはもう一人の友人の部屋
ノックをしても返事はないのを知ってるから勝手に開ける。
「おーい、ハト……ってちづいんじゃん」
「まじだ。また隼人の布団に潜り込んでんのか」
先に訪れた部屋にいなかった部屋主をここで見つけるとは
相変わらず自由人だなあと横目に見る。
抱き合うように眠る友人二人を見てつい零れた言葉
「こいつらこれで付き合ってないんだよ」
男同士だとかは俺たちにとっては愚問
「やっぱ?どーせ千鶴のせいだろ?」
「違いないね」
「あーあ、隼人かわいそ〜」
「俺らが一肌脱ぐ?」
「やめとけやめとけ、ややこしくなるから」
なんて会話、夢の中の二人知るよしもなし
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